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今月の特選

社長って何だ!

『社長って何だ!』

  • 丹羽 宇一郎 著
  • 講談社(講談社現代新書)
  • 2019/12 240p 946円(税込)

次代のリーダーたちへ あの社長経験者が語る理想像

「社長」とは何かと問われても、ピンとくる方は少ないのではなかろうか。その存在は、私たちの日常生活からはやや遠い。しかし、本書『社長って何だ!』を読むと、同じ生身の人間として、社長の姿が迫ってくる。

著者の丹羽宇一郎氏は、1998年から6年間にわたって伊藤忠商事の社長を務めた。在任中の1999年には、社内外の大反対を押し切って、バブル崩壊によって抱え込んだ約4000億円もの不良資産の一括処理に踏み切り、その翌年には、同社を史上最高益(当時)へと導いた。本書では、実体験に基づいて、社長やリーダーのあるべき姿が説かれている。つまり、修羅場をくぐった社長の中の社長が説く「社長論」である。

とはいえ、著者の言葉は、社長だけに向けられたものではない。部長や課長といった各部署のリーダー、さらには、未来のリーダー達に向けられている。すべての企業人に響く内容だ。

決断したら信念をもってやり遂げる

本書で紹介される著者の実体験の一つが、ファミリーマートの買収である。著者は、一方で不良資産処理やリストラを進めつつ、他方で1350億円という会社始まって以来の巨額買収に踏み切った。一見相反する戦略に、社内外から反発が起きたという。それでも著者は、失敗したらクビの覚悟で突き進み、買収を成功させ、流通事業の拡大につなげた。

決断するまでには、相談することもあるだろう。しかし一度決断したら、社長は、周りから「常軌を逸している」と思われようと絶対的な自信と信念を持ってやり遂げなければならない。重要な決断には「狂うがごとき気迫と確信」が必要だと、著者はいう。大企業のトップとして、社員やその家族の生活を背負う気概と覚悟は、すさまじい。

では、どうすれば、確信を持って決断を下せるのか。意外にも、頼りになるのは「世間の常識」だという。日頃から普通の生活を送り、普通の人と接し、その声に耳を傾ける。著者は、郊外の一般的な住宅に住み、自家用車は大衆車、電車通勤する社長として知られた。事業買収のような大型案件であっても、決断を迫られた際の直感の核は、最終消費者の目線を保つことで磨かれていたのだ。

人間として成功する条件とは

本書は、人としての生き方を説く書でもある。例えば、「クリーン、オネスト、ビューティフル(清く正しく美しく)」という言葉が繰り返し語られる。著者が社長になった際、社員に意識改革を促すために呼び掛けた言葉だ。嘘をつかず、誠実に、一生懸命に努力すること。それが、一人の人間として成功する条件だという。その主張は、気恥ずかしいほどに“直球”だ。

経営には、どこかでその人の本性が出る。最後は人間性の問題に行き着くと、著者はいう。それは、経営に限らないだろう。スポーツや学業、あるいは、あなたに託された仕事もまた、全身全霊をかけて取り組むならば、最後に問われるのは人間性ではないだろうか。

職場に不満のある方、何かに迷っている方には、ぜひ本書を開いてほしい。真っ直ぐに生きる強さ、苦しさ、そして清々しさが伝わってくる1冊だ。

社長って何だ!

『社長って何だ!』

  • 丹羽 宇一郎 著
  • 講談社(講談社現代新書)
  • 2019/12 240p 946円(税込)
前田 真織

情報工場 エディター 前田 真織

2020年から情報工場エディター。2008年以降、編集プロダクションにて書籍・雑誌・ウェブ媒体の文字コンテンツの企画・取材・執筆・編集に携わる。島根県浜田市出身。

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