ビジネスではロジカルに考える左脳思考が大事で、経験や勘に頼ってはいけないと教わる。だが、本書『右脳思考』では勘や感情、直感といった論理で説明できない思考も重要だと唱える。著者はボストン・コンサルティング・グループの元日本代表で、「世界の有力コンサルタント25人」に選出された人物だ。
左脳思考は論理的で明快な半面、五感で納得する「腹落ち」を促せない場合がある。著者は生き残りを模索するメーカーに対し、M&Aを提案したことがある。あらゆる角度から分析し、グローバル大手企業の傘下に入ることを勧めた。ロジックフローは完璧。経営者も論理的に正しいことを理解したが、「自分の目が黒いうちは会社を売らない」と不採用になった。こんなときこそ右脳思考が必要になる。
右脳の使いどころをつかむために仕事を次の3ステップに分けると理解しやすい。
1)インプット(情報収集、仮説立案、課題発見)
2)検討・分析(真の課題特定、構造化、代替案の抽出)
3)アウトプット(意思決定、コミュニケーション、実行)
1)では事実確認が大切だ。現場を見たり、顧客の行動に疑問を持ったりする「個人的な感覚」が出発点となる。そのため、全体をすばやく把握する右脳を使う。売り上げの変動を見たときに要因がパッと思いつく、のも右脳の働きだ。2)では1)のインプットを踏まえ、論理的な左脳を駆使しよう。3)では右脳的に相手の感情を捉え、共感するストーリーを組み上げる。つまり、左脳を使うステップを右脳でサンドイッチするのだ。
インプットでの右脳の使い方を詳しくみてみよう。まずは自分の直感、感覚を意識する。その上でインプットには3つのカン「観・感・勘」が大切だ。例えば特定の日に店舗の売り上げが好調だとする。店頭を観ると、ある時間帯に若い人が多いと感じる。そういえば近所のライブハウスの営業時間帯と同じだと思いつき、仮説立案につながる。その仮説を、次のステップの左脳で検討・分析する。
アウトプットの場合は相手の腹落ちを促すために感情に働きかける必要がある。前述のメーカー経営者の例では左脳で押しすぎたことが反省点だ。そこでロジックに対し、右脳で肉付けすることが必要だ。M&Aのように痛みを伴う提案を受け入れてもらうには相手の気持ちを動かすストーリーが鍵になる。例えばグローバル大手の買収後も会社名は残し、経営も自分らで行うような提案であれば、感情の入ったロジックフローとなる。結果も変わってくるだろう。
右脳思考を鍛えるためにはどうすればよいのか。1つの方法は「いつもと違う情報」に触れることだ。対象が同じでも見方が変われば入る情報は変わってくる。例えば、いまの仕事を「すべて否定するつもりで眺めてみる」。見方を変え、右脳思考を鍛えることにつながるのだ。