今月の『押さえておきたい良書』
2020年の東京五輪を控え、インフラ整備や都市開発が続々と進んでいる。経済や国際的存在感が増した前回の東京五輪のときと同じように、大きな社会変化を期待している人もいるかもしれない。だが、それは無理であるそうだ。なぜなら、1964年の日本は人口も経済も成長期だったが、現在は成熟期。社会状況が根本的に異なるからだ。
本書『オリンピックと東京改造 交通インフラから読み解く』は「五輪と東京改造」をメインテーマとし、交通を中心とした視点から都市改造を語ることで、読者が東京や日本の将来について考えるきっかけを提供する。
著者は『東京道路奇景』(草思社)などの著作を持つ“交通技術ライター”。
1964年大会はインフラ整備の口実として“利用”された
本書によれば、東京は“骨格や循環器系が未成熟なまま肥大した巨人”のような都市だ。世界最大級の巨大都市でありながら、市街地の道路や交通インフラが今なお未完成である。
原因は、近代化を急いだ明治政府が鉄道整備に注力したことによる。道路整備のほうは大幅に遅れ、1950年代まで舗装道路はほとんど整備されなかった。
社会基盤が貧弱なまま人口が急増した東京は、1964年の五輪招致決定当時、交通機能などがパンク寸前。とても世界的なスポーツ大会を開催できる状況ではなかった。
しかし東京都は五輪招致を見送ることなく逆に“利用”し、大規模な都市改造を決行した。首都高の一部が五輪関連街路に選ばれると、地域住民も協力し工事はスムーズに進んだ。
首都高も同時期に整備された東海道新幹線も、しばしば「東京五輪のために造られた」と語られるが「東京改造の必要性が高まる中で五輪を招致した」という事実を見逃すべきではない。
東京の都市づくりにおいて、2020年はあくまでも通過点
現在東京都は2040年代までを見据えて都市づくりを行なっているという。2040年は団塊ジュニア世代が高齢者となり、日本の高齢化率が30%を超える頃。つまり人口の減少を想定しながら、都市として輝き続ける方法を模索しているのだ。
流入者数が減っていく東京では「この都市で暮らし、働きたい」と思う外国人を増やすことが不可欠である。また、そのためには3環状(中央環状線、外環道、圏央道)の整備のように渋滞解消を進め、電車の混雑率を緩和して鉄道の利便性をより高めるなど、海外のライバル都市に負けないくらい住みやすく、働きやすい環境を整えていく必要があるだろう。
2020年は東京の都市づくりにおいて通過点でしかない。1964年のように五輪を目指してインフラを整備するのではなく、今は将来の衰退をくい止めるべく、先回りした対策を進めていくべきときなのである。
情報工場 エディター 平山 真人
鹿児島県出身。演劇活動をしながら児童文学作家 山口理氏のもとで物語創作ならびに文章術を学ぶ。あるとき新聞連載の企業コラム執筆の機会を得たことから本格的にライター業を開始。人生とは純粋さを失っていくことに抗う戦いだと思っている。趣味は盆栽とロング散歩。「易しさは優しさ」がモットー。