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今月の『視野を広げる必読書

『負けグセ社員たちを「戦う集団」に変えるたった1つの方法』

「当たり前」を武器にしたキリンビール“現場”の最強戦略

『負けグセ社員たちを「戦う集団」に変えるたった1つの方法』
田村 潤 著
勝見 明 構成
PHP研究所
2018/08 255p 1,400円(税別)

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 旧聞になるが、2018年の高校野球「夏の甲子園」では、秋田県立金足農業高校の予想外の快進撃が話題を集めた。だが「史上初2度目の春夏連覇」を成し遂げた大阪桐蔭高校の無敵の強さが、もっと注目されてもいいと思う。

 いろいろな書籍やネット記事によると、大阪桐蔭高校の強さの主な秘訣は、西谷浩一監督の指導方針である「凡事徹底」と「日本一への意識」にあるようだ。同校の練習方法や戦略に奇策はなく、当たり前で平凡なものが多い。しかしそれを、とにかく徹底してやり抜く。そしてその「徹底」を遂行するためのエンジンが、日本一への意識。一人ひとりの生徒が、常に日本一になることを考えながら行動する、ということだ。

 本書『負けグセ社員たちを「戦う集団」に変えるたった1つの方法』を読み、そこで解説されているキリンビールの改革とその成果に、上記の大阪桐蔭高校野球部が最強集団になった理由が通じる気がした。

 本書では、同著者による『キリンビール高知支店の奇跡 勝利の法則は現場で拾え!』(講談社+α新書)にも描かれた改革のストーリーを組織改革論として体系的に分析。そのための主なツールとして、一橋大学名誉教授である経営学者・野中郁次郎氏の提唱する「知識創造理論」が用いられており、著者と野中名誉教授との対談も収録されている。

 著者の田村潤氏は、100年プランニング代表。キリンビールの高知支店長、四国4県の地区本部長、東海地区本部長、そして代表取締役副社長兼営業本部長として改革の手腕を発揮し、2009年にはアサヒビールからのシェア首位奪回を果たした。

わかりやすくシンプルな理念が次のアクションを促す

 本書でもっとも強調されているのは、理念の大切さだ。理念というと、抽象的な表現の「きれいごと」が多く、単なるお題目のように捉えがちかもしれない。例えば「顧客第一主義」などと掲げられていても、現場の社員は具体的にどうしていいか、なかなかわからない。

 著者がキリンビール高知支店で見いだした理念は、一見拍子抜けするほどシンプルで当たり前に聞こえる。「高知の人たちにおいしいビールを飲んでもらい、喜んでもらい、明日への糧にしてもらうこと」というものだ。

 しかし、この小学生でも意味が理解できる理念ならば、「実現のために何をすべきか」と、次のアクションの検討にすぐ移行できる。さらに同支店では「どの店に行ってもいちばん目立つ場所にキリンビールが置いてあり、欲しいときに(買って)飲んでいただける状態を営業がつくる」という、理念を実現するための「あるべき姿」も設定されている。これだけ具体的なものが提示されていながら、現場社員が「どうしていいかわからない」のはあり得ない。

「すべての店を回る」という凡事を徹底

 理念を実現するのに高知支店のメンバーが最初に選んだアクションは、奇策や変化球ではない。「高知のすべての酒販店、量販店、料飲店を回る」。ど直球である。

 酒販店や料飲店を「一緒に理念(高知の人たちにおいしいビールを飲んでもらう)を実現してもらう協力者」と考え、徹底して回ることにした。そうした地道な努力により、「お客さんが求めていて、自分たちが提供すべき価値」がわかってくる。それにより、次のアクションもとりやすくなるのだ。

 大阪桐蔭高校の生徒たちも「日本一」というわかりやすい価値の実現を意識して、キリンビール高知支店のメンバーがすべての店を地道に回るのと同じように、「凡事」を徹底して強くなった。「わかりやすさ」「当たり前」「凡事徹底」は、私たちが思っている以上に強力な武器になるのかもしれない。

 本書を参考に、足元の当たり前を見直し、わかりやすく表現するところから始めてみてはどうか。そうすれば、何のために、誰のために働くのかが見えてくるはずだ。きっとこれからの働き方のヒントが見つかるだろう。

情報工場 チーフエディター 吉川 清史

情報工場 チーフエディター 吉川 清史

東京都出身。早稲田大学第一文学部卒。出版社にて大学受験雑誌および書籍の編集に従事した後、広告代理店にて高等教育専門誌編集長に就任。2007年、創業間もない情報工場に参画。以来チーフエディターとしてSERENDIP、ひらめきブックレビューなどほぼすべての提供コンテンツの制作・編集に携わる。インディーズを中心とする音楽マニアでもあり、多忙の合間をぬって各地のライブハウスに出没。猫一匹とともに暮らす。

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