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今月の『押さえておきたい良書

『稼げる! 新農業ビジネスの始め方』

今こそ飛び込め! 農業界はブルーオーシャン!

『稼げる! 新農業ビジネスの始め方』
山下 弘幸 著
すばる舎
2018/09 224p 1,500円(税別)

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 農業はキツイし、儲(もう)からない。自分には関係のない世界。そう思い込んでいるビジネスパーソンも多いのではなかろうか。事実、就職先や転職先に「農家」を掲げる人が少ないことが、それを物語っている。

 だが本書『稼げる! 新農業ビジネスの始め方』を読めば、農業界に吹き渡る新風を感じ、農業という土壌に新たなビジネスの種をまきたくなってくるだろう。本書は、変革期にある日本農業界で今何が起きているのかを事例とともに解説しつつ、ビジネスパーソンの農業への参入を呼び掛け、起業するための具体的な手引きを示した指南書だ。

 著者は、個人農家、農業ベンチャー企業での経験を踏まえ、全国初の農業参入支援コンサルタント会社「株式会社 農テラス」を設立し、代表取締役をつとめる、やり手のコンサルタントだ。農業ビジネスをテーマにした著者の講演会は、既に動員数1万人を突破。

他の農家がつくらないベビーリーフで大成功

 今、未経験から農業を始めたにもかかわらず、年商1億を超える成功を収めた人たちがいる。株式会社HATAKEカンパニー社長の木村誠さんは、もともと農業用活性剤を開発・製造する会社に就職していたビジネスパーソンだ。農家を回るうちに“事業としての農業”に可能性を感じ、いち早く農家への転身を図ったひとりだ。著者いわく、この「農業をビジネスとして捉える」視点こそが、新農業でチャンスをつかむカギとなった。

 ある時、木村さんは卸売業者から「ベビーリーフ(野菜の幼葉)をつくってくれないか」と声を掛けられた。今でこそベビーリーフはサラダの素材として人気が高いが、当時はまだ流通していなかったため、他の農家は「そんなもの売れるのか?」と躊躇(ちゅうちょ)してつくろうとはしない。一方、他業界から参入した木村さんには先入観はない。お客さんのニーズに応えるというごく当たり前の姿勢で、独学でベビーリーフをつくったそうだ。

 木村さんのベビーリーフは次第に評判を呼び、次々と入るオーダーに応えながら試行錯誤と改善を繰り返していくうちに、日本中に農地を拡大。HATAKEカンパニーは創業から約20年で、従業員170名、年間売上11億円超を誇る会社にまで成長した。

幕末農業時代に求められる役割とは?

 「今は“幕末農業時代”なのだ」と著者は言う。これまで日本の農業界は、個人農家が農協の指示通りに農作物をつくり、農協が流通を担うというシステムが支配的だった。だが、2009年の農地法改正により、条件を満たせば、個人や法人問わず誰もが新たに農地を得られ、農業へ参入できるようになったのだ。年々農業に参入する法人は増加傾向を示し、農林水産省の統計によると、2017年末時点で約3000社となった。じつに2009年の農地法改正前の約6倍のペースで増加しているという。

 大手スーパーも農業に参入している。例えば、直営の農場を持ったり、農家に生産を委託し、農作物を直接仕入れる動きが活発だという。ところが個人農家は、大手スーパーと対等にビジネスを行うスキルを有していないことが多い。伝票や帳簿作成、データ分析、物流管理、プライス決定など、一連の業務をこれまで農協に頼ってきたからだ。

 著者は、こうした状況の中で、生産者と販売者をつなぐ“サプライヤー”の存在が必要だと言う。自動車の部品製造業者のように、求められるものをスピーディーに提供することができる存在が成功をつかむ。上述の木村社長は、既存の農家が対応できないサプライヤーとしての役割をいち早く担ったことで、マーケットを押さえ事業を拡大することができたのだ。

 さらにこれからは、より生産効率を高め利益を上げていくためのチームプレー、組織農業が進むだろうと著者は述べる。そこで活躍するのは、農業以外からの新規参入者であり、組織の中で育ったビジネスパーソンなのだ。

 これまでの農家は個人プレーで、業務にパソコンもメールも使わなかったという。だが、組織農業では、組織管理や運営のスキル、思考方法が必要になる。例えば、「視える化」や「5S活動(整理・整頓・清掃・清潔・躾(しつけ)の頭文字を取った職場改善)」、「PDCAサイクル(生産管理・品質管理手法)」など、組織での仕事の経験が大いに役立つのだ。

 さあ、あなたなら、大きく変貌をとげた「農業」という新しいフィールドで、どんなビジネスチャンスを見いだすだろう。耕せるのは土だけではない。新しく拓(ひら)く自分の人生と、日本の未来なのだ。

情報工場 エディター 鈴木かなえ

情報工場 エディター 鈴木かなえ

山形県出身。幼少期にロンドンで過ごした経験から、内外から見た日本に興味を抱き、大学では日本文化学科で学ぶ。その後日系インフラ企業、外資系金融機関を経て、現在は外資系ITコンサルティング会社の人事担当として人と組織に携わる。カレーと夕焼けをこよなく愛し、インドとバリが好き。「事実とは解釈でしかない」を自らのモットーに、正解のないイシス編集学校で学びながら、企業向けの研修やワークショップ等も行っている。

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