2018年3月の『押さえておきたい良書』
読者の中で、ツイッターやフェイスブック、インスタグラムといったSNSを利用している人は多いだろう。利用している人は、フォローしていたり「友達」になっていたりする人たちと、どんな「つながり」を持っているかを考えてみてほしい。例えば誰かのツイートや投稿を見て何か行動を起こすようなことが、普段どれくらいあるだろうか。
実は、そういったSNSに影響された行動や心理が、現代のビジネスでは重要な意味を持つようになってきているという。本書『「3つのF」が価値になる!』のテーマは、その重要性だ。
タイトル中の「3つのF」は、Family(家族)、Friend(友人)、Follower(フォロワー:SNSでつながっている個人)を意味する。この3つのFが発信する情報が、現代の消費行動のもっとも大きな決め手になっている、というのが本書の主張。特に3番目のフォロワーに着目し、SNSを活用したビジネスを成功させる方法や考え方を、豊富な事例とともに解説している。
著者はフリーパレット集客施設研究所代表。「体験を売る」という実践的マーケティング手法「エクスペリエンス・マーケティング」(エクスマ)の考え方のもと、集客施設や企業のコンサルティングで活躍中だ。
「個人のつながり」で消費する時代
それは、本音と建前が違うから。
じゃ、消費者は何を信用しているのか。
それは、仲間です。”(『「3つのF」が価値になる!』p.79より)
これまでの企業による広報や広告・宣伝は、テレビや新聞などを通して行われることがほとんどだった。しかし、SNSの普及により個人が自由に情報を発信できるようになった。すると、顔の見えない大きなメディアが流す情報よりも、SNSでつながった個人(フォロワー)が発信する情報の方が信用されることが多くなった。
何かを買う際に、家族や友人が薦めたり、関わっているからということで購入を決めることも多いのではないだろうか。それと同じような効果が、フォロワーが薦めていたり、楽しんでいたり、関係している商品やサービスにも表れるようになったということだ。
SNSでのつながりだけで2000万円の住宅購入を「即決」
したがってこれからの企業は「SNSファースト(SNSを中心に考える)」に徹するのが必須だと著者は説く。その際には、商品やサービスを「売る」だけでなく、フォロワーとの「個人と個人の関係性」をつくるのを重視すると良いそうだ。
鹿児島県霧島市にある工務店「株式会社 住まいず」は、手がけた住宅の部屋の写真をインスタグラムに投稿しながら、代表が直接フォロワーと積極的にコミュニケーションをとっている。使用する木材や金額についてなどのやり取りも、気軽に交わされる。フォロワーは次第に「住まいず」のつくるデザインや雰囲気、代表の人柄などを知り、共感や親しみを覚えていくという。
そうしたフォロワーが実際に工務店を訪れると、2000万円以上する新築住宅の購入を即決することもある。SNS上ですでに関係性ができていたフォロワーには、従来型の「売り込み」は必要ないのだ。
企業にとっては業種を問わず、本書の事例や紹介されている手法がSNSの利活用を考える上で参考になるはずだ。個人にしても、SNSでのつながりが家族や友人だけでなく、消費者として接する企業(の経営者や社員)にまで広がれば、生活がいっそう充実するのではないだろうか。SNSの利用がより楽しくなる1冊だ。
情報工場 エディター 安藤 奈々
神奈川生まれ千葉育ち。早稲田大学第一文学部卒。翻訳会社でコーディネーターとして勤務した後、出版業界紙で広告営業および作家への取材・原稿執筆に従事。情報工場では主に女性向けコンテンツのライティング・編集を担当。1年半の育休から2017年4月に復帰。プライベートでは小説をよく読む。好きな作家は三浦しをん、梨木香歩、綿矢りさなど。ダッシュする喜びに目覚めた娘を追いかけ、疲弊する日々を送っている。