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2018年3月の『押さえておきたい良書

『過労死にならないためにできること 会社や仕事につぶされない働き方・休み方』

その「疲れ」は“過労死”の前触れかもしれない

『過労死にならないためにできること 会社や仕事につぶされない働き方・休み方』
茅嶋 康太郎 著
すばる舎
2018/1 176p 1,400円(税別)

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 「働き方改革」に伴い長時間労働の是正が声高に叫ばれている。しかし今も、過重な仕事を抱え、日々無理を重ねて働いている人はゼロではないだろう。そういう人は「仕事で疲れているな」とは感じていても「過労」とは認識せず、ましてや「過労死」など他人事だと思っているかもしれない。

 本書『過労死にならないためにできること 会社や仕事につぶされない働き方・休み方』で著者は、「自分が過労に陥っていることに気づかない人が多い」と警鐘を鳴らしている。疲れを感じながらそのまま働き続けると、ある日突然ベッドから起き上がれなくなったり、うつ病を発症したり、最悪の場合は過労死・過労自殺につながることもありうるという。

 さらに、職場のハラスメントや人間関係に悩まされ、疲労が蓄積するケースもある。本書は、そういった仕事や職場に関連する身体的・精神的な疲労から、自分の身を守るヒントを提供している。過労死研究の専門家で産業医(労働者の健康管理などについて指導・助言を行う医師)である著者が、過労で倒れないための心がまえと対処法をアドバイス。さまざまな過労の事例も取り上げ、状況を分析しながら具体的な対応策を提示している。

もっとも危険なサインは「不眠」

 本書によると、過労の兆候となる身体症状を見逃さないことが肝要だ(本書には具体的な兆候のリストも記載されている)。その中でも気をつけるべきなのは「不眠」だそうだ。

 度が過ぎた長時間労働でもないかぎり、睡眠が十分であれば心身は回復することが多い。だが不眠は大敵だ。眠れなかったり、眠りが浅い夜が続いたりすると、疲労はどんどん蓄積する。

 とくに注意すべきなのは、翌日の仕事が気になって夜間に目が覚めることが多い人だ。仕事中、誰かと話をしている時に急激に眠気に襲われることがある人も要注意。これらのケースでは睡眠時間が十分でも眠りが浅いために睡眠の「質」が悪く、知らずしらずに心身が疲れている可能性がある。

 著者は睡眠の質を良くする方法の1つとして、就寝前の2時間をリラックスタイムとして確保することを勧めている。その時間は、好きな音楽を聴くなどして仕事のことを忘れる。アロマテラピーなども良いそうだ。

セルフケアだけでなくラインケアも重要

 過労の予防には個人が自主的に行う「セルフケア」だけでは不十分だと著者は指摘する。「ラインケア」も重要なのだという。ラインケアとは、職場での従業員の「働かせ方」を改善したり、健康への意識を高めたりする取り組みを指す。

 本書には、ラインケアの取り組みの1つとしてSCSK株式会社の事例が紹介されている。

 同社は、ただ残業時間を削減するだけではなく、減った分の残業代を元手に、翌年のボーナスとして社員に還元する仕組みも導入。社長名義で「社員の有給休暇取得に関するお願い」を取引先へ通知したりもしているそうだ。

 SCSKのように、これからの働き方改革は、個人や会社だけでなく、取引先などあらゆるステークホルダー(利害関係者)を巻き込んだ取り組みも必要になってくるだろう。ひいては国民全体の意識が高まるのも期待したいところだ。そのための第一歩として、本書を参考に、まずは自分自身の働き方や生活習慣、仕事との距離の取り方などを見直してみてはいかがだろうか。

情報工場 エディター 安藤 奈々

情報工場 エディター 安藤 奈々

神奈川生まれ千葉育ち。早稲田大学第一文学部卒。翻訳会社でコーディネーターとして勤務した後、出版業界紙で広告営業および作家への取材・原稿執筆に従事。情報工場では主に女性向けコンテンツのライティング・編集を担当。1年半の育休から2017年4月に復帰。プライベートでは小説をよく読む。好きな作家は三浦しをん、梨木香歩、綿矢りさなど。ダッシュする喜びに目覚めた娘を追いかけ、疲弊する日々を送っている。

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2018年3月のブックレビュー

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