1. TOP
  2. これまでの掲載書籍一覧
  3. 2017年11月号
  4. 大人のための国語ゼミ

2017年11月の『押さえておきたい良書

『大人のための国語ゼミ』

コミュニケーションに悩む人向け、「国語の筋トレ」

『大人のための国語ゼミ』
野矢 茂樹 著
山川出版社
2017/07 288p 1,800円(税別)

amazonBooks rakutenBooks

 ビジネスパーソンに必要な能力を問うアンケートをよく見かける。結果を見ると、たいがい「コミュニケーションスキル」と答える人がいちばん多い。しかし、実際にその能力をどうやって伸ばせばいいのか、明確に答えられる人は少ないのではないか。

 コミュニケーションスキルには「読む」「書く」「聞く」「話す」の4技能がある。そう考えると、誰もがかつてこれらをじっくり学ぶ機会があったことに、思い当たるはずだ。そう、高校までの「国語」の授業だ。

 本書『大人のための国語ゼミ』の趣旨は、社会人になった“大人”たちに、改めて国語の授業を受けてもらおうというものだ。文中には、学校の教科書のように、会話や読み書きの練習問題が多数掲載されている。

 著者は東京大学大学院総合文化研究科教授。『論理学』(東京大学出版会)、『哲学の謎』(講談社現代新書)、『新版論理トレーニング』(産業図書)など、哲学・論理学に関する著書が多い。

小学5年生に消費税を説明できるか

 普段のコミュニケーションでもっとも気をつけるべきことは何か。それは、当たり前のことだが「相手にきちんと理解してもらう」ことだろう。本書の国語の“授業”でも、最初にこの練習がある。小学5年生と一緒に買い物に行って、なぜ100円(税抜)のお菓子が100円玉1枚で買えないのか、と聞かれたときどう答えるかというものだ。

 “問題例文1
 税金の一種に「消費税」というのがある。買物をすると、定価とは別に消費税を払わなければいけない。いま消費税は定価の8パーセントだから、100円のコアラのマーチを買うには100円の8パーセント、つまり8円を足して、108円払うことになる。
(中略)
 問1
問題例文1を小学五年生(百分率は習っているが税金についてはまだ習っていない)にも分かるように書き直せ。”(『大人のための国語ゼミ』p.18-19より)

 上記の問題例文1を、小学5年生は理解できるものだろうか。いや、一般的な10歳、11歳には、これでは伝わらないだろう。税金や消費税とは何か、なぜそれを払わなくてはいけないのか、誰がそのお金をもらっているのか、といった基本の説明を加えなくてはいけない。したがって問題の答えは、上記のような各点を上手に説明した文章になる。

本質を捉えるために「要約」する

 本書の中で著者は、文章を1本の樹木にたとえている。文章の中心的な主張は「幹」だ。具体例を挙げたり、補足する部分は「枝葉」。文章を読む際に、枝葉に埋もれた幹を見失うと、正確な読解が不能になる。逆に幹と枝葉をしっかり区別できれば、すばやく文章の本質を捉えられる。

 そのための訓練として本書で推奨されているのが「要約」だ。要約とは枝葉を払い幹だけを残す作業なのだ。本書に掲載されている練習問題などで要約を数多く経験していくと、物事の本質を捉えるコツが身に付くだろう。すると、書いたり話したりするアウトプットの部分でも本質をしっかり伝えられるようになるという。

 本書にはそのほか、「言いたいことを整理する」「的確な質問をする」「反論する」などのテーマのもと、難問を含む練習問題が多数収録されている。どの問題も一筋縄ではいかない、手応えのあるものばかりだ。

 日々のコミュニケーションに悩むビジネスパーソンには、ぜひとも、これら「表現の筋トレ」に参加してみてほしい。楽しみながら全問解けば、きっと見違える効果が実感できるだろう。

情報工場 エディター 宮﨑 雄

情報工場 エディター 宮﨑 雄

東京都出身。早稲田大学文化構想学部卒。前職ではHR企業にて採用・新規事業開発に従事。情報工場ではライティングの他、著者セミナーの運営などを担当。その他の活動には、マンガ情報メディアでの記事の執筆、アナログゲームの企画・制作など。好きな本は『こころ』『不実な美女か貞淑な醜女か』。好きな場所は水風呂。

amazonBooks rakutenBooks

2017年11月のブックレビュー

情報工場 読書人ウェブ 三省堂書店