1. TOP
  2. これまでの掲載書籍一覧
  3. 2017年11月号
  4. 抱きしめて看取る理由

2017年11月の『押さえておきたい良書

『抱きしめて看取る理由』‐自宅での死を支える「看取り士」という仕事

死にゆく人に寄り添う「看取り士」が見たものとは

『抱きしめて看取る理由』
 ‐自宅での死を支える「看取り士」という仕事
荒川 龍 著
ワニブックス(ワニブックスPLUS新書)
2017/08 254p 880円(税別)

amazonBooks rakutenBooks

 聖路加国際病院名誉院長を務めた日野原重明さんが105歳で亡くなったというニュースは、医療界のみならず、日本中のたくさんの人に哀悼の意をもって受け止められた。
 日野原さんは消化器機能の低下により入院を余儀なくされたが、胃ろうなどの延命処置を断ったのだそうだ。そして自宅に戻り、次男夫妻に看取られて最期を迎えた。

 厚生労働省の調査によると、日野原さんのように自宅で死を迎えるのは、実は日本人の1割強にすぎない。8割近くの人が医療機関で亡くなるが、必ずしも本意ではないようだ。近年は自宅で安らかに眠りにつきたい、肉親を家から送り出してあげたい、という人が増えているのだ。

 自宅で亡くなる場合、家族や近親者に看取られるケースが多い。その「看取り」をサポートする「看取り士」の存在を知っているだろうか。本人や家族の依頼により、余命告知から納棺まで寄り添い、本人の死への恐怖を和らげ、家族の不安に対応する専門職だ。

 本書『抱きしめて看取る理由』は、看取り士の仕事の意味、看取りを依頼した家族らの思いに迫ったノンフィクションだ。一般社団法人「日本看取り士会」の会長を務める柴田久美子さんへの取材を中心に構成されている。著者はNHKドラマの原案にもなった『レンタルお姉さん』などの著書があるルポライター。

看取りは温かくて幸せな瞬間

 看取り士は、看護師や介護士のような公的な資格ではない。6年ほど前から柴田さんが名乗り始め、2012年には日本看取り士会を設立した。柴田さんは、秘書やレストラン経営などを経て1993年から特別養護老人ホームの寮母、1998年にホームヘルパーの仕事を始めた。現在の看取り士の活動をスタートさせたのもその頃だ。以来、200人近くを看取ってきた。

 柴田さんは、日本看取り士会の設立理由を次のように語っている。「住み慣れた自宅で家族に看取られる文化を私は取り戻したいと思っています。死は決して暗くて怖いものではなくて、逝く人にとっては愛されていると感じて旅立てる温かくて幸せな瞬間であり、家族にとっては肉親のいのちのエネルギーを受けとる前向きな経験だからです」

 かつての日本では自宅で最期を迎える方が多数派だった。しかし今では病院死が当たり前になっている。そのため、家での看取りの知識やノウハウが失われつつあるのだという。看取り士はそれらを提供し、本人と家族による温もりのある“幸せな瞬間”を取り戻す役割を担っているのだ。

いのちのバトンを受け取り、精一杯生きる

 柴田さんは、旅立つ人を看取る家族に、逝く直前の本人に対し「抱きしめる」「手を握る」「足をさする」などを勧める。そうやって温もりを伝えると、近くで家族が見守っていることを伝えられるのだという。家族の側も少しずつ死を受け入れる、心の準備ができる。

 さらに、触れることで、消えゆくエネルギーが看取る人に移っていく。柴田さんは、こうした感覚を「いのちのバトンを受け取る」と表現している。

 看取りを経験すると、いや応なく死というものを意識するようになる。人は必ず死ぬ、そうであるならば最期の日を迎えるまで精いっぱい生きよう、と思うようになることも多いだろう。

 本書には、さまざまな死と看取りのエピソードが描かれている。どんな人の看取りも、厳粛な空気をまとっている。本書で看取りの空気に触れ、人間の命の尊厳について思いをはせてみてはいかがだろうか。

情報工場 エディター 宮﨑 雄

情報工場 エディター 宮﨑 雄

東京都出身。早稲田大学文化構想学部卒。前職ではHR企業にて採用・新規事業開発に従事。情報工場ではライティングの他、著者セミナーの運営などを担当。その他の活動には、マンガ情報メディアでの記事の執筆、アナログゲームの企画・制作など。好きな本は『こころ』『不実な美女か貞淑な醜女か』。好きな場所は水風呂。

amazonBooks rakutenBooks

2017年11月のブックレビュー

情報工場 読書人ウェブ 三省堂書店