2017年11月の『押さえておきたい良書』
部下がいるリーダー(管理職、経営者など)の方は、昨日の仕事を振り返ってみてほしい。
部下と話をした時間は、合計でどのくらいあっただろうか。「けっこうな時間話したと思う」人は、「誰が話したか」を思い出していただきたい。指示やアドバイスなど「自分が話をした」のが大半で、ほとんど部下は口を開いていなかったのではないか。
本書『一流のリーダーほど、しゃべらない』によると、世の上司は得てして“しゃべりすぎ”なのだという。
著者が提案するのは「コーチ型マネジメント」である。これはコーチングの要素を、部下のマネジメントに取り入れたもの。コーチングは、一方的に教える「ティーチング」とは異なる。対象者(部下など)が自力で考え行動するのを側面からサポートするのがコーチングだ。
部下のマネジメントにおいて、部下の「自力」を引き出し、部下が自分で考えるようになるためにはどうすればよいか。コーチングにおいてそうするように、極力部下に話をさせればいいのだ。本書では、上司が意識して自分の発話量を減らし「部下の話を聞く」ことの重要性を説いている。
著者の桜井氏は株式会社コーチ・エィ専務取締役。企業経営者や管理職を対象とするエグゼクティブコーチとして、25年にわたり活躍してきた。
日本のリーダーは部下の話を聞かない
本当に上司は部下の話を聞いていないのだろうか。著者は、証拠として上司と部下との会話について世界15カ国・地域を対象とする調査結果を示している。
各国100人のビジネスパーソンに「上司との会話」について当てはまるものを、「上司が話している時間の方が長い」「部下(自分)が話している時間の方が長い」「ほぼ同じ」の3つから選ばせたものだ。なお、調査が行われたのは2015年。調査を行ったのは著者が所属するコーチ・エィのリサーチ・研究部門「コーチング研究所」である。
その結果、日本のビジネスパーソンが「上司が話している時間の方が長い」と答える割合の高さは15カ国中第4位だった。アメリカ、イギリス、フランス、ドイツなどでは、「ほぼ同じ」がもっとも多い。
著者は、日本は世界的に見ても上司が“しゃべりすぎ”な傾向にあると結論づけている。
リーダーは聞き役に徹し、自分から口を開かない
部下に話をさせることは、以下の点から重要である。
話すことで、自分の話を咀嚼し、考えが整理され、腑に落ち、新しいアイデアに気づいていきます。”(『一流のリーダーほど、しゃべらない』p.25-26より)
部下が自分から話すことで、部下自身の主体性や自発性が身に付くのだ。
しかし実際は、上司が部下に話をさせることは思ったより難しい。部下が話す内容が稚拙であったり、説明が下手だと感じれば、つい話を遮ったり、口を挟みたくなるものだ。
そこで、上司は部下と話すときに「口を開かない」というルールを自分に課すといい。部下との対話では聞き役に徹するのだ。すると部下は、自分が受け入れられていると感じ、より前向きに意見を述べるようになる。
本書のスキルを参考に、まずは1日5分間、意識して部下と話をするところから始めてはいかがだろうか。それをしばらく続けていけば、ある日突然、加速度的に部下が成長するのだという。
情報工場 エディター 安藤 奈々
神奈川生まれ千葉育ち。早稲田大学第一文学部卒。翻訳会社でコーディネーターとして勤務した後、出版業界紙で広告営業および作家への取材・原稿執筆に従事。情報工場では主に女性向けコンテンツのライティング・編集を担当。1年半の育休から2017年4月に復帰。プライベートでは小説をよく読む。好きな作家は三浦しをん、梨木香歩、綿矢りさなど。ダッシュする喜びに目覚めた娘を追いかけ、疲弊する日々を送っている。