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2017年10月の『押さえておきたい良書

『超・検証力』

アイデアをヒットにつなげる観察・仮説・検証サイクル

『超・検証力』
高野 研一 著
大和書房
2017/07 208p 1,400円(税別)

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 ある商品がヒットしたとする。成功要因については、後づけでいろいろな分析がなされるだろう。しかし、その商品の企画者が当初想定していた理由で売れたケースは、意外と少ないのかもしれない。とくに社会の変化が激しく、人々の価値観も多様化する今日では、「こうすればヒットする」という決まった公式はないに等しい。企画がヒットするまでの過程は「目に見えない世界」なのだ。

 その「目に見えない世界」を明るみに出す術(すべ)を指南しようというのが、本書『超・検証力』の目的だ。その柱は、「観察」「仮説」「検証」からなるサイクルである。

 企画を商品化し、市場に投入する際にありがちなのが、「やってみないとわからない」と言いながらやみくもに実行するケース。たいていは思うように成果が上がらず、労力や資源の無駄づかいとなる。本書の著者によれば、そんなときは、「見えていないものを見ようとしていない」。ヒットする要因は見えていないものの中にあったのに、それを無視して、事を進めてしまっていたのだ。

 本書の著者、高野研一氏は、大手銀行のファンドマネジャーなどを経てコンサルタントとして活躍。現在コーン・フェリー・ヘイグループ代表取締役社長を務めている。

観察、仮説、検証のサイクルで人材を育成する花王

 花王は特定保健用食品(トクホ)の飲料ブランド「ヘルシア」など、ユニークなヒット商品を連発している。同社には独自の人材育成プロセスがあり、それが斬新な企画を成功させるのにつながっていると、著者は指摘する。

 たとえば同社では「全国一斉店頭観察デー」といった日が設けられているそうだ。その日は社員が、自社製品を扱う小売店の店頭でひたすら店内やお客さんを観察する。その際、「この店は陳列が悪い」などの分析や価値判断は避ける。ただ無心に消費者の購買行動を見続ける。

 ある程度見続けると、それまで気にもとめなかったことが気になってくるのだという。「あのお客さんは、2つの商品の説明書を読み比べていた。どんな点を比べていたのだろう」といったことだ。すると「説明書のこの部分を見ていたのではないか」といった仮説が導き出される。

 ここまでくれば、検証の方法も思いつくようになる。「次に説明書を読み比べるお客さんがいたら、視線の動きをよく見てみよう」というように。そしてそれを実行し、仮説が正しいかどうかを確かめることで、消費者が何を求めているのかがつかめてくる。

脳による「情報のシャットアウト」を解放する

 著者によれば、観察、仮説、検証のサイクルには、人間の脳のメカニズムが関係している。

 脳は知覚する情報のすべてを受け入れているわけではない。注意を向けている対象以外の情報のほとんどをシャットアウトしている。ということは、その無意識に遮断している「対象以外の情報」も受け入れられれば、より多くの情報をもとに仮説を生み出せるはずだ。

 では情報のシャットアウトから脳を解放するにはどうするか。
 「風呂に入っている時にアイデアが浮かぶ」という経験のある人は多いだろう。お湯に浸かり頭をぼーっとさせることで、脳を特定の事柄への注意集中から解放できる。花王社員も店頭で、ただ無心に観察していたので、同様の効果があったのだ。そしてそれが、仮説、検証と続くサイクルのスイッチを入れる。

 本書には、実にさまざまなトピックスを取り上げた観察、仮説、検証のエクササイズも、豊富に織り込まれている。ぜひ活用してほしい。(担当:情報工場 足達健)

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2017年10月のブックレビュー

情報工場 読書人ウェブ 三省堂書店