1. TOP
  2. これまでの掲載書籍一覧
  3. 2017年7月号
  4. 家訓で読む戦国

2017年7月の『押さえておきたい良書

『家訓で読む戦国』-組織論から人生哲学まで

現代のビジネスにもつながる戦国武将たちの「家訓」

『家訓で読む戦国』
 -組織論から人生哲学まで
小和田 哲男 著
NHK出版(NHK出版新書)
2017/04 208p 780円(税別)

amazonBooks rakutenBooks

 戦国時代の武将たちは、自らの体験などから得た教訓や、考案したルールを「家訓」として子孫に伝えている。本書『家訓で読む戦国』では、そうした家訓に加え、遺言状や「武辺咄(ぶへんばなし)」と呼ばれる戦(いくさ)の体験談を紹介、解説。リーダーシップ、組織論、道徳・倫理、戦略や“勝つ”ための思想・哲学、生活規範などを網羅する幅広いトピックが取り上げられている。

 著者は戦国史が専門の歴史学者で静岡大学名誉教授。現在放送中のNHK大河ドラマ『おんな城主 直虎』の時代考証も担当している。

「失敗」から学べる武将こそが「名将」になる

 朝倉宗滴(あさくらそうてき)という武将の武辺咄を家臣が書きとめた『朝倉宗滴話記』には、「名将とはいちど大敗北を喫した者だ」という意味の言葉が残っている。宗滴は、越前の大名で応仁の乱でも活躍した朝倉孝景(たかかげ)の末子。軍師的立場で朝倉家を支え、生涯で12回ほど出陣して一度も負けたことがないという。

 宗滴のこの言葉は「敗戦の悔しさを味わった大将は、反省し、作戦を練り直すので、武将としての才知や度量が磨かれる」といった意味だ。連戦連勝の宗滴は当然名将とみなされたので、謙遜と向上心からの発言と考えられている。

 著者は、宗滴の活躍時から少し時代をくだってから、この言葉をまさに体現する武将が現れたと指摘している。徳川家康だ。

 家康は、織田との連合軍で武田信玄と対峙した三方原(みかたがはら)の戦いで、「大敗北」にあたる失敗をしている。自らのミスで家臣の1割である800ほどの兵を一度に失ったのだ。800人のうち何人かが自分の身代わりに死んだ事実を知った家康は、この戦の後「家臣こそわが宝」と言うようになる。家康は大失敗から、家臣の大切さを身にしみて学びながら名将になっていったということだ。

家臣の本音を引き出す仕組みを作った黒田長政

 黒田長政といえば、2014年NHK大河ドラマ『軍師官兵衛』の主人公・黒田官兵衛(如水)の嫡男として知られる。筑前福岡藩の初代藩主だった長政の家訓「掟書之事(おきてがきのこと)」には、「出仕の外、一ケ月に両三度づゝ、家老中幷小身の士たりとも、小分別も有る者を召寄せ、咄を催すべし」とある。これは、定例の出仕日とは別に、家臣と意見を交流できる場を月に3日設けろ、という意味である。

 定例の重臣会議「式日評定(しきじつひょうじょう)」だけでは君臣のコミュニケーションが不十分だと感じた長政は、城の一室で、朝から晩までさまざまな身分の家来たちの意見に耳を傾けたそうだ。

 掟書之事には「此会の問答にをいては、君臣ともに少もいかり腹立べからず」という文言もある。ここでは、そうした意見交換の場では「何を言われても腹を立てないこと」と訓じられているのだ。そのためか、家臣たちはこの意見交流会を「腹立てずの異見会」と呼んだのだという。

 黒田長政が取り入れたこの仕組みは、この時代にしてはかなり先進的な、多様性を重視するものだったといえよう。これは現代の組織マネジメントにも大きな示唆を与えてくれるものだ。家臣の間には、現代よりも厳しい上下関係の意識があったはずだ。その中でどのように、この「異見会」を運営していったのか、想像しながら本書を読んでみてはいかがだろうか。(担当:情報工場 安藤奈々)

amazonBooks rakutenBooks

2017年7月のブックレビュー

情報工場 読書人ウェブ 三省堂書店