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2017年4月の『押さえておきたい良書

まんがでわかる オーナー社長のM&A

M&Aは“結婚”? 誰もが幸せになる事業承継の秘訣とは

『まんがでわかる オーナー社長のM&A』
大山 敬義 著
八木 ふたろう 画
すばる舎リンケージ
2017/02 172p 1,500円(税別)

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 M&A(買収・合併)という言葉からどんなイメージを思い浮かべるだろうか。直近ではソフトバンクによる半導体設計の英アーム・ホールディングスの、あるいは台湾企業鴻海(ホンハイ)精密工業によるシャープの買収などの大型M&Aの印象が強い人も多いだろう。だが、ほとんどのビジネスパーソンはM&Aを、どこか遠い世界の出来事のように感じているのではないか。
 一方、中小企業、とくにオーナーが一代で築き上げた会社などで「後継者問題」が深刻になっている。そうした問題はM&Aで解決できる。つまり、M&Aは大企業だけでなく、中小企業にとっても身近なものといえるのだ。M&Aには、経営者の会社への熱い想いがこめられたドラマがともなう。そのドラマを知ることで、今のところM&Aに直接関わりのない人でも、会社とは何か、経営とはどういうものかの理解が進むことだろう。
 本書『まんがでわかる オーナー社長のM&A』は、架空のM&Aのストーリーをまんがで展開。M&Aの手続きのステップごとに文章による解説やコラムが挿入され、M&Aの基本や実務についての知識がしっかりと身につく構成になっている。
 著者の大山敬義氏は、株式会社日本M&Aセンター常務取締役。同社の設立以来M&Aコンサルタントとして、25年以上にわたり100件以上のM&A案件の成約実績を持つ。

父と娘、コンサルタントがM&A成功に向けて奔走

 まんがで描かれる物語の主人公は、東京の食品メーカーに勤める27歳のOL、結城麗奈。地方にある実家は星ノ川酒造という小さな酒造メーカーを経営しており、父親の結城幸太郎が6代目社長を務める。幸太郎は60歳で、そろそろ会社を次代に譲ることを考えている。だが、麗奈は一人娘で結婚を控えているものの、夫となる仲川裕太は東京の会社で重要なポストを任されている。社内にも後継者候補がおらず、幸太郎は「このままでは長く続いてきた会社を畳むしかない」と、追いつめられていた。
 麗奈が裕太に相談したところ「M&Aという方法がある」と提案される。そして裕太は麗奈に他の案件でやりとりしている中堅M&Aコンサルタント、井上義一を紹介。井上は幸太郎に会い、星ノ川酒造のM&Aを成功させるべく、奔走することになる。

M&A成立直前は売り手側も“マリッジブルー”に

 本書で著者は、井上の口を通してM&Aを、首尾一貫して「結婚」に例えている。実際、現代のM&Aの多くは、星ノ川酒造のような事業承継のために行われるケースが多く、経営難でにっちもさっちも行かなくなり身売りする、といった旧来のイメージとは異なってきているそうだ。買収する側とされる側の双方が結婚のように、対等の立場で合意して成立、双方が幸せになることをめざすものがほとんどなのだ。社員のリストラもほぼなく、社名や所在地もそのままといったケースも珍しくない。
 M&Aコンサルタントの井上は、あたかも結婚相談所の職員のように、麗奈と一緒に動き回る。結婚相手となりうる売却先候補をリストアップし、売り手と買い手双方の情報を詳細に集め、マッチングを図る。基本合意、買収監査、最終契約と進む過程で、重要になるのは結婚と同様、お互いの信頼関係だ。当事者同士がお互いの経営理念に共鳴し合い、将来ビジョンを示せることも大事。大方の抱くイメージに反し、M&Aには心情重視のウェットな一面もあるのだ。
 本書での「M&A=結婚」という例えは徹底しており、“マリッジブルー”まで登場するから驚きだ。基本合意の前後から最終契約までの間に、売り手側の不安が高まるのは、よくある現象なのだという。そんな経営者の心理が垣間見られるのも、本書の魅力の一つである。(担当:情報工場 吉川清史)

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2017年4月のブックレビュー

情報工場 読書人ウェブ 三省堂書店