2017年3月の『押さえておきたい良書』
世界中で飲まれているコカ・コーラは、製法の特許を取っておらず、「絶対秘密」にしている。一方、サントリーの緑茶飲料、伊右衛門はしっかりと特許を取得している。はたしてどちらの商品がまねされるリスクが低いのだろうか?
一見、特許で保護されている伊右衛門の方がまねされづらいように思える。だが、正解はコカ・コーラの方がリスクが低い。
本書『レシピ公開「伊右衛門」と絶対秘密「コカ・コーラ」、どっちが賢い?』は、そんな切り口から、すべてのビジネスパーソンが知っておくべき知的財産(知財)の基礎知識から知財を活用した企業戦略までを、分かりやすく解説している。
著者は弁理士で知財コミュニケーション研究所代表を務める新井信昭氏。これまで3000件以上の知財コンサルティングを手がけた知財のプロフェッショナルである。
特許取得にひそむ落とし穴とは?
知財の一つである「特許」の出願は、一般にアイデアを守るために行うと思われている。著者はまず、この認識は危険な間違いだとして、次のように指摘する。
著者が「透明な」と表現するのは、特許の出願が、アイデアの核心部分の公開を意味するからだ。出願アイデアの特許庁による審査は、通常1~3年ほどかかる。ところが、特許庁は出願から1年半たつと、出願内容をすべて「特許公報」に掲載する。これは、審査中であろうが、結局特許が認められなくても関係ない。しかも、特許公報はインターネット上で公開されている。つまり、特許を出願するほどの貴重なアイデアが、世界中の誰でも閲覧可能になってしまうということだ。
特許を取得している伊右衛門の製法も、もちろん公開されている。これはライバル企業にしてみれば、製法を少しずらして模倣したり、差別化するための参考としては十分な情報だ。冒頭で、コカ・コーラの方がリスクが低いと言ったのは、そういった理由があるからなのだ。
公開と秘匿を組み合わせる「オープン・クローズ戦略」
企業は特許を戦略的に使うこともできる。戦略の一つとして著者が挙げるのが「オープン・クローズ戦略」だ。これはアイデアのなかで、公開(オープン)する部分と、秘匿(クローズ)する部分を組み合わせる戦略だ。
例えば、三菱化学は自社開発の「AZO色素」を使ってDVDを安価で大量に製造するノウハウを構築し、その製造法をオープンにした。これはDVD規格の国際標準にも採用されている。
だがその際、肝心のAZO色素の製造法は秘密に、すなわちクローズにした。そのせいで、国際標準準拠のDVDを製造しようとするメーカーは、AZO色素を三菱化学から購入しなければならなくなった。こうして三菱化学は、DVDの製造において独り勝ちの状況をつくりあげたのだ。(担当:情報工場 安藤奈々)