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2017年3月の『押さえておきたい良書

本物の名湯ベスト100

ちまたのランキングとはひと味違う本物の名湯ガイド

『本物の名湯ベスト100』
石川 理夫 著
講談社(講談社現代新書)
2016/12 240p 840円(税別)

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 日本には各地に多数の温泉が存在する。温泉は日本観光の大きな魅力のひとつであり、「温泉めぐり」が趣味、という人も多いのではないだろうか。本書では、全国を対象に魅力あふれる100の温泉をセレクト、独自の指標からランキングを作成し解説を加えている。日本温泉地域学会会長、温泉評論家として活躍する著者いわく、単なる「温泉ファン」から「違いのわかる温泉通」になるための「水先案内書」である。
 「温泉ランキング」や「名湯〇〇選」といった特集がメディアをにぎわすことも多いが、著者によれば、そうしたランキングや評価には、いくつかの問題がある。
 まず、それらの多くが「温泉」ではなく「温泉宿」の評価になっていること。次に、そうしたランキングや選出が、どのような基準や指標で行われたのか必ずしも明確にされていない。温泉の基本データが記載されていないことも多いのだという。著者のいう基本データとは、泉質、泉温、pHや湯量(湧出量)、さらには温泉や温泉地をめぐる歴史などを指す。こうした客観的指標を抜きにして、温泉の真の実力を測ることはできないのだ。

本物の名湯を見つける五つの指標

 本書『本物の名湯ベスト100』では、まず温泉地を評価する次の客観的な指標を掲げている。それは、(1)源泉そのものを評価する指標、(2)源泉の提供・利用状況を評価する指標、(3)温泉地の街並み景観・情緒を評価する指標、(4)温泉地の自然環境と周辺の観光・滞在ソフトを評価する指標、(5)温泉地の歴史・文化・もてなしを評価する指標の五つだ。これらの指標を眺めるだけでも、他の温泉ガイドとの違いが分かるのではないだろうか。
 本書に掲載されている名湯たちは、こうした指標に基づく厳しいチェックを経て選ばれたものばかりだ。湯布院温泉、草津温泉といった比較的メジャーなものから、夏油(げとう)温泉など知る人ぞ知る名湯まで、あくまで実力本位で選出されている。それぞれの温泉のあらゆるデータが網羅されており、温泉マニアならずとも一度は行ってみたいと思わせる魅力にあふれている。

五感全体で味わう名湯の魅力

 また、本書には、温泉にまつわるコラムも随所に挿入されている。泉質や効能の科学的解説や、あまり知られていない温泉霊場(山岳信仰などにもとづく宗教性や聖地性を帯びた温泉地)の解説など、名湯のディープな楽しみが多数紹介されている。
 例えば名湯には、見る、聴く、嗅ぐ、味わう、触れるという五感全体で感じる楽しみもあるという。聴く楽しみとは、川の流れや木々を揺らす風の音、波音などの温泉周辺の自然音に耳を傾けることを指す。さらに湯口から注がれる湯音にも耳をすませば、より深く名湯を味わえる。自然音や湯音に浸ることで脳にアルファ波が生じるのだという。そのために、温泉地ではスマホなど電子機器の電源を切り、人工音をシャットアウトすることを著者は勧めている。(担当:情報工場 宮﨑雄)

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2017年3月のブックレビュー

情報工場 読書人ウェブ 三省堂書店