2017年2月の『押さえておきたい良書』
自らや組織のために人を動かせる、目に見えない力である「影響力」。とくにリーダーシップを発揮し、チームで成果を上げるには欠かせない力といえる。その力を身につけ、あらゆる場面で他者に影響を与えられる人になるにはどうすればいいのだろうか。
本書『ここぞというとき人を動かす自分を手に入れる 影響力の秘密50』では、影響力を獲得する秘訣を50の戦略に整理して提示している。これらは、著者のビジネスコンサルタントとしての10年以上の経験の中で出会った世界中の有力者たちを観察、あるいは直接伝授されて得られた知見によるものだという。著者は、顧客獲得をめざす企業やコミュニケーションスキル向上を図るビジネスパーソンのためのコーチとして活躍している。
著者は、「時間を費やして仕事の実績を積み上げていけば、自ずと影響力を手にできる」といった考え方に反対する。それだけでは影響力は獲得できない。本書で挙げられているような一貫した戦略のもと、意識して行動するプロセスが必要なのだ。また、本書で説かれる影響力は、悪意をもって人を操る策略ではない。人をおとしめずに、自分を高めることで影響力を発揮するのが前提となる。
求められる以上の対応を積み重ねる
50の戦略の一つに「大きな価値を提供する−−期待を超える成果」というものがある。多くの人は、指示や依頼など「求められたこと」が自分の不都合にならなければ、それに応えようとする。求めたこと、期待したことに応えてくれる人は好意をもたれ、信頼をかちとれるかもしれない。しかし、影響力を与えるまでには至らないのではないか。
引用したのは著者自身の体験だが、ホテルのフロントが求められた以上の対応をしている。この体験は著者に強い印象を残したそうだ。ビジネスでも、こうした、期待を超える行動を積み重ねていけば、他の人とは一線を画す「大きな価値を与えてくれる人物」と見なされるに違いない。そうした評価が影響力に結びつくのだ。
「否定」ではなく「追加」の精神で
「イエス、そして……」の戦略では、誰かの意見に言いたいことがあるときに、はなから否定せずに、まずその意見を認めることから始める。そして、その意見を基盤にしてそれを膨らませたり、自分の意見を付け加えたりする。たとえその結果、もとのアイデアと似ても似つかぬものになったとしても、最初の意見を出した者には「認められた」という感覚が残る。
そうしたことの積み重ねによって、仕事のチーム内に「信頼のカルチャー」が醸成されていく。部下や仲間の意見に対し「否定」ではなく「追加」の精神で臨むことで、好意と信頼が得られる。それによって影響力を行使しやすくなるのだ。(担当:情報工場 内山貴子)