提供:大阪府・AstraZeneca

知っておきたい!アレルギーの治療 With コロナの今 大阪府アレルギー疾患府民公開講座

フォト:パネルディスカッションの様子

新型コロナウイルス感染を意識するあまり、病院でのアレルギー疾患の治療を中断している人はいないだろうか。食物アレルギー、アトピー性皮膚炎、気管支喘息(ぜんそく)などのアレルギー疾患は、正しくコントロールすることで健康な人と同じ生活を送ることができる疾患だ。先ごろオンラインで開催された大阪府アレルギー疾患府民公開講座「知っておきたい!アレルギーの治療 Withコロナの今」(共催:大阪府・アストラゼネカ)では、効果的な治療法や最新の知見について専門医が解説するとともに、現役時代に喘息と診断された元陸上選手の為末大さんをゲストに迎えたパネルディスカッションも行われた。

フォト:東田 有智先生

開会挨拶

 

東田 有智先生 座長/近畿大学病院 病院長

国民の2人に1人は何らかのアレルギーの素因を持っているといわれており、例えば喘息は、少なくとも約800万人以上が罹患(りかん)しているといわれています*1。患者数の増加を背景に、国は「アレルギー疾患対策基本法」を2014年に施行し、都道府県ごとに拠点病院を設けました。しかし、アレルギー疾患の治療に関しては、間違った知識も流布されています。ステロイド剤を使わない医師がよい医師だというのもその1つです。私たちが産官学協同で府民講座を毎年開催しているのも、アレルギー疾患に対する正しい知識と治療継続の重要性を理解してもらいたいからです。専門医の話にぜひ耳を傾けていただきたいと思います。

*1:リウマチ・アレルギー対策委員会報告書(厚生労働省2011年)

Lecture 1

講 演

あきらめないで 食物アレルギー

井上 徳浩先生 国立病院機構 大阪南医療センター 小児科 医長

日常のアレルギー疾患のコントロールが
食物アレルギーの発症予防につながる

フォト:井上 徳浩先生

食物アレルギーは、特定の食べ物のタンパク質によって起こる免疫反応です。食べるだけでなく接触や吸入も含みます。成長とともに自然治癒することも多いのですが、学校給食などでは個別に対応することが求められます。

原因食物の半数以上は鶏卵、乳製品、小麦ですが、最近ではイクラが増えています。以前はイクラとサケ、鶏卵と鶏肉など親子除去で対策した時代もありましたが、現在では親子関係は否定されており、アレルギー体質の母親の妊娠中・授乳中の食事制限も10年ほど前に撤廃されました。食物アレルギーは比較的新しい疾患であり、発症予防や治療法は今後も変化していく可能性があります。

アレルギー症状は蕁麻疹(じんましん)などの皮膚粘膜症状が一番多く、消化器や呼吸器に症状が出ることもあり、全身症状ではアナフィラキシーという多臓器症状になります。おおむね2時間以内に症状が出始め、発症開始から1時間以内でピークに達します。食事時刻を知ることで、症状の進行度が把握できます。

有効な薬物治療がないため、現在は必要最小限の食物除去、つまり食事療法が治療法です。免疫療法も一部で実施していますが、まだ研究段階です。このため、日常のアレルギー疾患のコントロールが重要です。それが結果的に食物アレルギーの予防治療になるからです。

アレルギー検査は、実際に食事を摂取する負荷試験です。血液検査ではアレルギー反応の有無は判定できません。そのため受診時に何をどれくらい食べたら、どのぐらいの時間で、どんな症状が出たのか、大豆で出るが豆腐は大丈夫など、メモがあると診断がスムーズです。

食物アレルギーは、対策を含めあきらめる必要のない疾患ですし、病院側は十分なコロナ対策をしています。ですので悩まれている患者さんは治療に、医療に、ぜひ心を寄せていただきたいと思います。

Lecture 2

講 演

アトピー性皮膚炎について

加藤 則人先生 京都府立医科大学大学院 医学研究科 皮膚科学 教授

塗り薬の量が適量かどうかの確認を

フォト:加藤 則人先生

アトピー性皮膚炎は、皮膚のバリア機能の低下(乾燥肌)による敏感肌に、ダニ、ほこり、食べもの、ストレスなど悪化因子が加わることで起こる皮膚炎(湿疹)が、悪化と軽快を繰り返す疾患です。8割程度は軽症ですが、重症・最重症の方も5%ずついらっしゃいます。

小学生の皮膚検診では、約半数に乾燥肌がみられます。敏感肌もよくあります。こうした状態に刺激が加わると湿疹ができますが、しっかり治療すればよくある乾燥肌・敏感肌に戻ります。しかし、しっかり治療をしないとバリア機能がさらに低下し、自然治癒力が発揮できなくなります。つまりアトピー性皮膚炎は、もともとは乾燥肌・敏感肌というありふれた体質であり、保湿のスキンケアを行うことにより悪化を防げる疾患です。

治療の目的は、悪循環を止めて、よい状態を保つことにあります。時間はかかりますが、症状がコントロールされた状態が続けば寛解(かんかい)、つまり薬が要らない状態になることも期待できます。

成人の塗り薬ではステロイドと免疫抑制剤に加え、6月から低分子化合物も加わりました。ステロイドの塗り薬には5段階あり、皮疹の程度だけでなく吸収力が異なる腕や顔など患部によっても処方が変わります。子どもは大人に比べて皮膚が薄く、大人より効き目が早く出ることが期待できるため、副作用が出ないように注意を払いながら治療します。

一般的に、ステロイドの内臓や骨への影響は飲み薬や注射によるもので、塗り薬の場合は長期あるいは多量の使用で皮膚が薄くなるなどの副作用がみられることがあります。塗り薬でよくならないという方の多くが塗る量の不足です。人差し指の第1関節まで出した量で手のひら2つ分が適量です。湿疹をよくすることで、悪化因子を減らすことができます。しっかりと根気よく治療を続けていくことが大切です。

Lecture 3

講 演

コロナ時代の喘息治療

佐野 博幸先生 近畿大学医学部 呼吸器・アレルギー内科 准教授

コロナ禍でも、喘息治療の継続が大事

フォト:佐野 博幸先生

喘息の基本的な症状は咳(せき)が出る、呼吸が苦しい、息を吐くときに喉がゼーゼーヒューヒュー鳴る、喉がイガイガする、たんが出る、呼吸機能の低下などです。そして、気道の炎症と過敏性を特徴とする病気です。

喘息の患者さんは気道の粘膜層に好酸球や肥満細胞(マスト細胞)などの炎症性細胞が浸潤して上皮が脱落し、さらに外層の平滑筋層が肥大して気道が狭くなっていることが多く、そのために息苦しくなります。気道炎症には多様な炎症細胞が関与しますが、特に重症になるほど喀痰(かくたん)中の好酸球や平滑筋に浸潤するマスト細胞が増加します。炎症の免疫メカニズムには、病原体を食べるマクロファージやリンパ球などの自然免疫や、獲得免疫との複雑な免疫反応が関与していることが分かっています*2

喘息治療の筆頭は、炎症を抑制する吸入ステロイド薬です。難治性の場合には生物学的製剤も使われますが、アレルギーの強い人、好酸球の値が高い人、アトピー性皮膚炎との合併など、症状によって使う製剤が異なるため専門医の診断が欠かせません。

また、成人の喘息は治療をやめると再燃する可能性の高い病気です。症状がよくなっても治療を継続することが何よりも大切です。

喘息だとコロナに感染しやすいと心配する人がいますが、それは違います。ニューヨークと武漢の調査では、糖尿病がハイリスクであると報告されていますが、喘息は喘息のない人よりも重症化リスクが1%高いだけです(Matsumoto K, et al. J Allergy Clin Immunol 2020)。つまり、喘息だからといってコロナウイルスの感染リスクが高いわけではなく、吸入ステロイド薬も感染のリスクや重症化リスクにはなりません。ですので継続して喘息の治療に取り組むことが重要です。

*2:日本アレルギー学会の一般向けページをご覧ください。
(https://www.jsa-pr.jp/html/knowledge.html)

Panel Discussion

パネルディスカッション

 

座長:東田 有智先生 パネリスト:アスリートソサエティ代表理事/元陸上選手 為末 大さん、井上 徳浩先生、加藤 則人先生、佐野 博幸先生

アレルギー疾患は治療の継続性がとても大事

フォト:為末 大さん

為末 大さん

――2001年に陸上400メートルハードルで為末さんが達成した日本記録は、いまだに破られていません。トップアスリートとして活躍された為末さんですが、現役時代に喘息と診断されたことがあるそうですね。

為末現役終盤の34歳の時に、日本選手権に向けてハードな練習を行なっていたのですが、走ると咳き込み頭痛がする状態が1カ月ほど続きました。長めの距離を走ると喉がヒューヒュー鳴って咳き込み鼻水もひどかったので、実家の近くの病院に行きました。そこで専門医に診てもらうことを勧められ、アレルギーの専門医に行くと喘息と診断されました。先生が日本アンチドーピング機構の基準に従い申告の上で、ステロイドの吸入薬を処方してくれました。2カ月ほど続けてよくなりました。

佐野もし現在でも咳など何か症状が出るようなら、再検査を勧めます。少なくとも2週間を超えて呼吸器症状が継続する場合は、何か原因があります。人は年に10回もかぜを引いたりしませんからね。

東田問診は聞き方次第で患者さんの答えが違ってきます。喘息症状の有無を聞いて「ない」と答えた人でも、「電車の中や会議中に咳を抑えたことがありますか」と聞くと「何度かありました」となります。佐野先生、喘息の場合は専門医を見つけるサイトがありますね。

佐野はい。日本アレルギー学会や日本アレルギー協会のホームページで自宅周辺の専門医を見つけることができます。

――「ぜん息外来・jp」でも医療機関を検索できます。喘息全体のことを知りたい場合には「チェンジ喘息!なるほど ぜんそく」なども症状のチェックができるので参考になります。

為末私が現役のころはそうしたサイトがまだなかったので、自力で専門医を探しましたが、今は便利ですね。

東田セカンドオピニオンとして他の病院に行く場合の注意点はどうでしょうか。

加藤処方薬の種類、量、期間、検査情報などの診断情報提供書(紹介状)を提供していただくのが一番です。少なくともお薬手帳、それもない場合は使いかけの薬を持ってきていただけたらと思います。

井上食物アレルギーの場合は問診に時間がかかるため、紹介先に行くときには症状が出た際の様子をメモにして持参いただけると、治療の手助けになります。

東田アレルギー疾患の治療では、途中でやめてしまう患者さんが多いのが課題です。治療継続の重要性についてはどうでしょうか。

佐野成人喘息は治ったと思っても再発することの多い疾患です。呼吸困難など命に関わる症状が出ることもありますので、医師と相談して治療を継続することがとても重要です。

井上食物アレルギーの場合、小学校から中学校に上がるなどライフステージが変わっても大丈夫かを確認することが大切です。食べられるようになってもケアの継続は重要で、アナフィラキシーショックの際に打つアドレナリンの注射器など、緊急時対応策を最低2年は残しておくべきです。

加藤アトピー性皮膚炎の場合、ステロイドを塗ってかゆみが治まっても完治しているのではなく、リンパ球が冬眠状態なだけというケースが多々あります。皮膚がつるつるもちもちになるまで治療を続け、主治医がもう薬は必要ないと判断できればゴールインです。

東田コロナ禍の現在、どのような注意が必要でしょうか。

井上コロナ禍でも通院は必要です。日ごろからアレルギー疾患のコントロールができていれば不意の受診でも症状が違うので、通院を自己判断でやめている方は、医師と相談の上、再開してほしいと思います。

加藤手洗い・消毒が日常化しているため、ハンドクリームで小まめにケアすること。また、マスクでこすれて皮膚が荒れた場合は薬を間違えることもあるので、自己判断せず主治医に相談してください。

佐野今まで喘息治療をおろそかにしていた人には、コロナ禍の今こそステロイド吸入薬を使ってほしいと思います。喘息の状態を良くすることによりコロナにもかかりにくくなり、重症化もしにくくなります。

為末私からアドバイスできるとしたら、継続にはリズムが大切ということです。コロナ禍の現在は、むしろ新しい習慣を作りやすいタイミングだと思います。食べ物のチェックも、薬を吸入したり塗ったりするのも、リズムができていれば忘れずに継続して行えると思います。

東田アレルギー疾患は治療の継続性がとても大事だということを、改めて強調しておきたいと思います。毎日歯磨きをするような感覚で治療を続けていけば、やがては快適な生活が送れます。

パネルディスカッションの様子
Q&A

視聴者とのQ&Aコーナー

【喘息】喘息は完治しないのでしょうか。

佐野治療を続けていれば薬の量は減らせると思います。30年前には夜間当直で喘息患者の発作を診ない日はありませんでしたが、現在の治療法が確立してからはまれになりました。将来に希望を託し、今は治療を継続していただきたいと考えています。

【食物アレルギー】地域によって指導内容に差があります。
また、中学卒業後はどうすべきでしょうか。

井上アレルギー疾患対策基本法では医療の均てん化を目指しており、地域差が課題になっているのは事実です。今はまだ、自分で納得できる専門医を探すしかありません。食物アレルギーは小児科が中心のため、中学卒業後は内科にキャリーオーバーしますので、早いうちに主治医に相談してみてください。

【アトピー性皮膚炎】漢方薬はどうでしょうか。
乳児のときから全身アトピーの子どもが30代になりストレスで安眠できません。

加藤漢方では体質を基準に薬を選びます。皮膚科の専門医で漢方療法にも詳しい医師はたくさんいますので相談してみてください。長期治療でよくならない場合は薬の量、アレルゲンの確認など専門機関での相談をお勧めします。アレルギー疾患の拠点病院では、短期入院で患者さんが勉強しながら治療法を医師と一緒に考えていくこともできます。以前はなかった治療法が、これからどんどん出てきます。過去は変えられなくとも、未来は変えていけると思います。

(限定配信)セミナーの模様は日経チャンネルでご覧いただけます。

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