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媒体説明会(2018年10月開催)

B2Bマーケティング組織の"マーケティング"〜自部門の価値定義と組織変革〜

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KDDI株式会社 ソリューションマーケティング部 部長 中東孝夫氏

機能分散、部長不在、「マーケティング1年生」への取り組み

 マーケティングの実行戦略についてお話する前に、私の経験を紹介したい。2016年にKDDIに入社し、ソリューションマーケティング部という、法人向けに携帯電話やタブレットなどのデバイスやその他のソリューションを販売するためのマーケティングを担う部の部長を務めてきた。

 着任時の状況を振り返ると、さまざまな問題があった。まず、関係各部門にマーケティング機能が分散していた。例えば、宣伝部もデジタルマーケティング部も広報部もあるが、いずれも一般消費者向けをメインとしていた。また法人マーケティング部長が不在で課長クラスに負荷がかかり、さらに、メンバーのほぼ全員がマーケティングの初心者だった。

 この状況を改善するために、「組織ミッションの定義と浸透」「その定義を部内で伝えるためのコミュニケーション量の増加」「さまざまな変革に対応するためのチェンジマネジメント」の三つに取り組んできた。

 一つ目の「組織ミッションの定義と浸透」では、「組織の存在理由は何かしらのゴールを達成するところにある」とし、ゴールを明確に定義することから始めた。次に現状を正しく認識し、さらにゴールと現状のギャップを分析した。そうすることによって、ギャップを埋めるための戦略が見えてくる。そしてその新しい戦略を導入するということは、変革が必ず起きるということだ。この一連のシナリオを描いて部内で共有することが、ゴール達成において重要になる。

電子版の現状

 私たちが設定したゴールは「法人事業へのビジネス貢献」だ。そしてこのゴールが何でもって成り立つのかを部内で議論し、「お客様の購買サイクルにおける「KDDIの欠落・脱落」を最小化する。」という結論を得た。さらに、部内で全員が同じイメージを持てるようにこれを以下のように図解して構造化した。

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 このように、「バケツの穴」と言われるような、購買サイクルの各ポイントでの欠落・脱落を最小化することを目指している。

ブランディングとThought Leadership獲得の違い

 今日は特に、上図の青色のIMC(統合マーケティングコミュニケーション)について詳しく取り上げたい。一言で言えば、「法人事業のコミュニケーション機能はIMCによってThought Leadershipを獲得し、「KDDIの欠落・脱落の最小化」に携わる」ということだ。

 Thought Leadershipとは、あるカテゴリーで獲得されるリーダシップイメージを指す。例えば、「日本一の経済新聞と言えば、日本経済新聞」という感じだ。購買サイクルで言えば「評価」や「選定」の段階で意識されることで、RFP(提案依頼書)への参加可否や、案件受注率に影響する、重要な概念だ。

 ブランディングと同じように聞こえるかもしれない。しかし違いは、社名を知られているかどうかや、好感度ではなく、課題を解決する方法をその企業が持っていると知られているかどうか。例えば、サーバーやクラウド、ソフトウエア、グループウエアの活用を想像したときに、それぞれですぐに思い浮かぶリーダー的な企業があるのではないだろうか。それがThought Leadershipであり、さらに深めると「そのリーダー的企業と取引開始もしくは拡大をしてみたい」と思わせることである。私たちこれに関してKPI(重要業績評価指標)を設けている。

 ある分野のある企業がリーダーと認識される要因は何だろうか。私の家族の話を例にすると、私がIBMに入社したときに、父は「ウチからIBMなんていうすごい企業に入る人間が出た」と非常に喜んでくれた。しかし父は、何千万円もするようなIBMの製品を買ったことはない。「買ったこともないのにどうしてすごいと思うの?」と聞くと「新聞や雑誌に書いてあった」とのことだった。

 つまりThought Leadershipとは、「第三者に好意的なレッテルを貼ってもらうこと」なのである。ここで言う第三者とは権威のあるメディア(専門誌(紙)。専門家も含む)や調査機関である。そしてもちろん、このレッテルは自分では貼れず、広告だけでは獲得できない。

 専門誌の評価を得るには、メディアリレーションが重要だ。その次に、特にIT(情報技術)企業で重要となるのは、アナリストリレーションに取り組んで調査機関での評価を上げていくことだ。そして三つ目に、自社が発するメッセージが重要であり、ここに広告やイベントが入る。注目してもらいたいのは、これら三つのうち二つは、信頼の置ける第三者から発信されるということだ。そしてこれら三つを横串で統合させるのが、IMCなのである。

 具体的には、広報部が出すプレスリリースに頼りっきりになるのではなく、マーケティング部が主導してアナリストリレーションに取り組んだり、特定の商材については広報部と連携して適切なメディアリレーション活動をしていったりしている。

数値目標の間に、あえて定性的な目標を入れてみる

 以上までで組織ミッションの定義は完了したが、チームのメンバーにとっては「反対するほどのことはありません」という感じで、まだまだ「他人ゴト」だった。ここで考えなければならなかったのが、リーダーとしての自分の役割。やるべき重要なことを三つ程度に搾り、それ以外は後回しになるリスクを背負うことだった。

 これらに具体的に取り組むために活用したのが、以下の「KBOツリーによる目標の因数分解」だった。

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 一番上にKGI(上位目標数値)、一番下にKPI、そしてその間にあるKBO(重要ビジネス目標)を置く。そしてKBOにだけは数値を入れないことが重要となる。そうすることによってKGIとKPIがつながりやすくなるのだ。

 例えば、KGIを「売り上げ・利益目標XX億円の達成」とし、KPIに「PV(ページビュー)が○百万」とあったとしても、KGIとKPIの関連性がよく分からないことがある。そこにKBOとして「IMCによるThought Leadershipの獲得」という定性的で非数値の項目をKGIとKPIの間に入れると、まずKPIが引き出しやすくなる。KPIがKBOを実現するための具体的な目標にもなるからだ。

 そうして部の目標を設定したら、今度は課の目標、さらには個人の目標へとブレークダウンしていき、各人には目標達成に貢献する指標を自分で決めて宣言してもらう。これにより、前述した「他人ゴト」が「自分ゴト」になる。ちなみに、私の部には30人のメンバーがいて、全員が一人ずつ、全員の前で宣言をする。

 ここまですると、組織の上位目標と個人目標がうまくつながる。さらに取り組むべきことの優先順位が明確になり、目標数値に基づいた改善も可能になる。

チェンジモンスターは人格ではなく一時の反応だから対処できる

 次に、コミュニケーションの量を増やすメリットについて説明したい。私はKDDIには中途入社、それまで外資系企業で17年間マーケティングに取り組んで、「STP」「MQL」「アサイン」「エンカレッジ」といった三文字略語やカタカナ語を多用してしまうので、コミュニケーションに注意しなければならないと思った。

 そこで、コミュニケーションの「プロセス」について考えた。下の図のように、まず信頼関係がなければ話を聞いてもらえないし、その上でプロトコルやコンテキスト(文脈)を一致させて初めて理解や共感が得られやすくなる。

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 信頼関係を構築するために、「ザイアンスの単純接触効果」を参考にした。簡単に言えば、話術や話題ではなく、「繰り返し接すること」の方が好意度や印象を高めるということだ。そこで「1on1(ワンオンワン)」として、直属の部下とは週1回30分、1対1でミーティングを持つことにした。しかし、以下のような反応が出てくる。

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 ただしこれらは、新しいことを始めるに当たってむしろ正常な反応とも言える。

 そこで必要になるのが、私が取り組んできたことの最後の点、「チェンジマネジメント」だ。業務や組織にかかわるさまざまな変革を推進・加速し、成功に導くためのマネジメント手法のことだ。何らかの変革を推し進めようとすると、改革を妨害したり、かき回したりする、人間的・心理的な反応がでるものだ。これらを「チェンジモンスター」と呼んでいる。いわゆる「タコツボ」「内向き」「前例主義」「完璧主義」といったものであり、変革に対して人間が持つある意味普通の反応だ。

 こうした「チェンジモンスター」について部下と一緒に勉強会を開き、「チェンジモンスターの考え方は評価しない」と説明した。重要なのは、チェンジモンスターは人格ではなく、一時的に出てくる感情的な反応だということ。私も含めた誰もが持っていて、それとどう付き合って抑えていくかが課題となる。一時的な反応と分かれば、人格が悪いとはならず、個人の人格への攻撃も起きづらくなる。

得意なはずのマーケティングの対象に、自分の組織も入れてみる

 最後に、いま取り組んでいることを紹介したい。マーケティングは、例えば社外の広告代理店や、社内の営業チームと一緒に取り組まないと、何もできない。だから「マーケティング組織のマーケティング」に取り組んだ方が、マーケティング業務をうまく進められるようになる。

 その背景には、マーケティング組織に期待されている業務と、実際に行う業務、つまり社内価値に、GAP(ギャップ、隔たり)があることだ。ある業務について、マーケティング組織が重要だと思っていても、ほかの組織ではそう思われないことがある(下の図の①)。この意識のギャップを解消しておかないと、「マーケティングは金ばかり使って...」という状況に陥りやすい。

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 このギャップを解消する方法は二つある。一つ目は、「マーケティング組織の価値定義と、社内への認知促進(インターナルマーケティング)」。マーケティング組織だけが重要と思っている業務(同①)の役割と、逆にマーケティング組織以外が期待しすぎている業務(同③)をすべて解消できない事情を理解してもらうことだ。①と③を小さくして、重要性について共通理解が得られている領域(同②)を相対的に大きくするのが目的だ。

 もう一つは「ステークホルダー満足度の調査」で、他の組織がマーケティング組織に期待していることを吸い上げて、できることから取り組んでいく。これにより、他の組織の満足度を高めることはもちろん、マーケティング組織のメンバーの会社への貢献の意識も高めることができる。これも②を大きくする取り組みだ。

 皆さんに自問していただきたいのが、「自部門の社内価値は何か?」と「どうすれば価値は伝わるか?」ということ。マーケターであれば相手が顧客だと考えれば自然とやっていることのはずであり、マーケティングの得意分野のはずだ。