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媒体説明会(2018年10月開催)

BtoB事業におけるデジタルマーケティングの理想と現実

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上島千鶴氏(株式会社Nexal 代表取締役)

まず「マーケティングの定義」を200字でまとめよ

 今日お伝えしたいことは大きく三つある。

 一つ目は、「マーケティングの役割や定義は明確ですか?」ということ。正直なところ、これが明確になっている企業にはなかなかお目にかかったことがない。自分たちの企業での定義を明確にするところから始めよう。

 二つ目は、事業計画に基づいたマーケティング戦略を描けているかどうか。マーケティング戦略は、事業計画・事業戦略に基づいていないと、効果を発揮しない。3カ年計画や中長期計画など、長めの視点でとらえてほしい。

 三つ目は、マーケティングを仕組みとして回していくのに、組織・人材の体制強化を図っているかということ。例えばマーケティングも現場も分かってグローバルに活躍できる人材は、なかなかいない。社内の教育を地道に続けていくしかないだろう。

 自社におけるマーケティングの定義については、これまでさまざまな企業でワークショップを通じて設定のお手伝いをしてきた。例えば以下のように200文字くらいでまとめるとよい。

1. 市場を創造し(目指すビジョンや技術・ソリューションブランドを発信し)

2. 潜在的な顧客を見つけ(引き寄せ)

3. あらゆる接点によって、見込み顧客を発掘し、

4. 一度でも接触を持ったお客様に直接的・継続的な信頼関係を醸成し、

5. 既存取引のお客様やパートナーとのロイヤリティーを高め、

6. 安心して取引できる企業として、認められる存在価値を継続し、

7. 案件機会を創造・共創する活動全般のこと

カスタマーリレーションシップビルディングが重要となる四つの背景

 BtoB事業におけるマーケティングの役割は大きく二つある。

 一つ目はブランドビルディング(BB)で、「広報宣伝部」や「コーポレートコミュニケーション部」といった名前の組織がいるだろう。もう一つが、カスタマーリレーションシップビルディング(CRB)だ。「マーケティング部」や「マーケティングコミュニケーション部」といった名前の部署が担っていることが多い。

 BBにおいて、「コーポレートブランディング」や「将来性やビジョン、メッセージ」が重要になることは言うまでもない。しかし、社名はもう認知されているがどんなソリューションや技術を持っているのかが知られていないという会社が意外と多い。

 CRBに関してよく聞かれることの一つ目は、「他社は何をきっかけにデジタルマーケティングに取り組んでいるのか」ということ。そこには四つの背景がある。

 一つ目は「お客様の行動が変化」。ひと昔前であれば、商談テーブルに着いてからが始まりだった。しかし現在は、営業折衝の前には業者選定がある程度終わっている。これだけ情報があふれている世界になったので、ビジネスの対象は顧客側の方がはるかに詳しくなっている。

 二つ目は「多売化によるアプローチ先の増加」。1社で数万円から数億円の商品・サービスを手掛けることが少なくなくなり、価格に応じたアプローチ先が非常に増えている。それらをすべて、営業担当が網羅的に回ることは不可能。

 三つ目は「営業の訪問販売フォローの接触不足」

 四つ目は「販売チャネルの見直し」だ。例えば、電子部品の世界を見ると、海外ではM&A(企業の合併と買収)が進んでいて、日本では各グループの販売代理店が販売を担当するのが一般的だ。その際、ダイレクトコミュニケーションやダイレクトタッチポイントといった、メーカーがエンドユーザーと直接接触する時代になってきている。

営業組織、顧客の予算のシフト、販売チャネルの在り方が問題になる

 「商材の多売化に合わせて社内リソースを最適化したい」という課題を考えるため、まず営業組織の分け方を見てみよう。

電子版の現状

 「アカウントセールス」という組織のくくり方で問題となり得るのは、既存顧客のなかでも新規部署や関連子会社など、取引をしてこなかった組織との信頼関係までは手が回っていないことだ。

 「エリアセールス」というくくり方で問題となるのは、現場の営業スタッフが、ソリューションセールスやプロダクトセールスとの連携が不足して新しい技術の説明ができず、「ご用聞き営業」に終始してしまうことだ。

 「ソリューションセールス」では、IoT(モノのインターネット)やAI(人工知能)など新しいテーマや課題を基に市場の開拓を狙うことが多いが、提案先の不足、アカウントセールスとの住み分けの難しさ、顧客から要望が出る前に課題を先取りする必要といった問題が生じてくる。

 「プロダクトセールス」では、デジタルマーケティングやデータベースの整備が後れを取っていることが問題となり得る。

 「パートナーセールス」は顧客から依頼が来るのを待つ傾向があり、「依存体質」とも言われることもある。さらに、「パートナーを差し置いて顧客に直接アプローチしてよいものか」と疑問を抱かせることがある。しかし海外ではデジタルで接触してきたリードとダイレクトコミュニケーションを行い、最終的な商流はパートナーからという流れが増えてきている。


 次に、顧客の予算が他部門にシフトしていることが問題として挙げられる。

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 既存の商品・サービスを横展開、つまり既存取引企業・部門から新規取引企業・部門にアプローチしていくのは、営業スタッフなら誰もがしていること。問題は図中のCからA、つまり戦略(新規)商材・サービスを新規取引企業・部門にどう展開していくかということだ。デジタル商材が増える中、IT予算が事業部門にシフトしていることに起因している。

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 さらに、販売チャネルを見直す必要があることも問題となる。問販・代販と直販・直商というアプローチの仕方の違いによって、対面ではないデジタル接点を、それぞれの流れの中のどこで優先的に増やしていくかを決めなければならない。いわゆる「休眠パートナー」にもう一度接触したり、既存パートナーから新たな案件を発掘できたりするためだ。

 これらの背景を踏まえたデジタルマーケティングを進める際に、そもそもデジタルマーケティングもまた定義付けをして明文化しておくことが必要だ。例えばある企業は「顧客やパートナーとのデジタル接点を増やし、対面と組み合わせた効果的なコミュニケーションを図ることによって、リードの質と量を高めていくこと。」と設定した。

 さらに、ここで出てきた「デジタル接点」も定義付けしておいた方が良い。これもある企業は「ウェブサイト、メディアやネット広告、メールなど、スマホやパソコンといったデバイスを通じて自社情報に接触する場面(点)のこと。」とした。注意したいのは、これは新規顧客開拓のためだけでなく、既存顧客との関係性を深める目的も含まれることだ。

マーケティングオートメーション導入し成果が出ている企業は「黙って」いる。

他によくある相談としては、「マーケティングオートメーション(MA)という言葉をよく聞くが、競合他社も本当に導入しているのか」ということだ。2018年上期に国内約40万社のウェブサイトを精査したところ0.8%が、約3600社の上場企業に限れば6.4%が導入しており、増加傾向にあることが分かった(©Nexal調査)。

 しかし、「MAを導入して成果が上がった」という話を聞いたことがあるだろうか。実は、成果を出している企業は、そのことを黙っている。一方、成果が出ない企業は、とにかくツールを導入することを優先し、その結論をすぐに出してしまう。その後改めて仮説を立てることもするが、さらにその後はまたツールをどう使いこなすか機能の話に戻ってしまう。つまり手段が先立っていて、目的や理由、戦略がないのだ。これではどんなに優れたツールを導入しても、成果が上がらない。

 逆に成果を出している企業は、まず「このままでは自社の将来がまずくなる」という危機感が営業組織改革を始める動機になっている。それを踏まえて現状どのような課題があるのかを見定め、それをどのような戦略・仕組みで解決していくのかを決め、最後に実行手段としてツールを選定する。言い換えれば、マーケティングの前提となる事業戦略と、実行計画のロードマップがあるということだ。そうして成果を出していくと、マーケティングは経営層が扱う重要事項となるため、社外で事例として話せなくなり、前述のように「黙って」いるようになるのだ。言い換えれば、事例で出てくる企業は部分最適に留まり、その域に達していないとも言える。

 マーケティング戦略は3年計画で取り組むべきで、最初から成果は出ない。そして既存の商流がある程度確立している場合、デジタルマーケティングの売り上げベースによるビジネス貢献度は、せいぜい10%程度。しかし中堅中小企業を対象にしたデマンドジェネレーションの仕組みで30~40%になっている企業も存在する。

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 ここでまたよくある相談を挙げると、「自社には、そもそもマーケティング組織がない」こと。そこで国内の5234社を調べたところ、マーケティング部門を設置しているのはわずか11.7%の614社。そのうち上場企業に限れば11%の378社だ。これに売り上げ規模を加味すると、500億円以上の企業はしっかり設置している傾向が見られる。さらに業種と資本金を考慮すると、資本金50億円以上の製造・機械業や、同じく50億円以上のIT・広告・マスコミ業で多くなる(©Nexal調査)。

アカウントベースドマーケティングの成功の手順

 また「ABM(アカウントベースドマーケティング)を始めたいがどこから始めたらいいのか」という相談もよく受ける。ターゲットを具体的な社名として挙げて整理し、受注の見込みが高いポテンシャル企業、または取引金額が一定基準のところからなど優先順位を決めるのが解決となる。

 その際に購買プロセスの前工程のコンテンツマーケティングに注力し過ぎると、集まってくるリードや問い合わせのレベルは実にさまざまだ。自分たちの顧客になり得ないリードが増えたり、ターゲットアカウント(企業)外の方もいる。さらにお役立ち情報といったさまざまなコンテンツを増やせば増やすほど、「やじ馬」も増えてしまう。

 そこで、大量のリードに依拠するのではなく、狙う企業をあらかじめ決めておいて、狙ったアカウントをベースにデマンドジェネレーション(営業機会創出)をしていくべきだ。そのときのデジタル接点は、営業スタッフがカバーし切れていない新領域をカバーするために活用すべきである。狙ったキーパーソンを集められたかどうかターゲットアカウントをベースに検証していくのが、ABMの一部になっている。

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 まずは、現在保有しているリードを企業単位で集計するところから始めよう。その上で、国内企業の母数に対して、どれくらいの割合の企業と接触できているかを調べよう。この棚卸しをしないと、リードの数を増やすために予算を割くべきなのか、今まで接触してきた企業やリードと関係を深めるためなのか、分からなくなってしまう。

 ここで「カバレッジ」という考え方が重要になる。「カバー率」や「ターゲット割合」などとも言われる言葉で、全ターゲット企業数うちカバーしている率のことだ。もう一つ重要なのが「フリークエンシー」で、「案件関与度」や「アカウント接触頻度」とも言われる。どの企業の誰とどんな機会に接触してきたのかを評価する指標だ。人工知能によるパターンマッチング解析から、「そろそろ○社から需要が出てくるころだ」といった予測モデルを研究している企業もある。これが実現できる前提にはもちろん、大量の顧客接触データを持っていることである。

 最後に、B2Bリードマネジメントサイクルを紹介したい。これから海外展開をしたり、ベンチャー企業であったりする場合は、マーケティングは海外で一般的なファネル型でいいと思うが、大手企業の場合はサイクル型をおすすめする。

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 この図にあるような流れは、各社で既に一巡していることが多いだろう。そして新規取引企業の新規リード獲得はほとんどない。そうした場合は、ファネル型ではなく、既存企業に再び認知してもらい、共創活動をしていくサイクル型の方が合っているだろう。