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「5G」がもたらす
ビジネス変革の衝撃

提供:アクセンチュア
「5G」がもたらすビジネス変革の衝撃

アクセンチュアのコンサルタントが、デジタル技術の最先端で起きている変化の波頭、すなわち「EDGE」の実像に迫るインタビューシリーズ。今回は、第5世代移動通信システム「5G」がビジネスに与えるインパクトをテーマに、通信・メディア・ハイテク本部のトゥンチゥヨルマズ氏(マネジング・ディレクター)、在津結城氏(マネジング・ディレクター)、熊谷太一郎氏(シニア・プリンシパル)が語り合った。司会は同本部の木原智子氏(シニア・マネジャー)。

対談風景

トゥンチゥ ヨルマズ氏

「4G」と比較にならない大きなインパクト line

木原 待望の「5G」対応製品・サービスが今年(2019年)半ばから来年にかけて世界で次々に登場します。2019モバイルワールドコングレスにてアクセンチュアが発表した調査*1によると、顧客へのサービス競争力強化に「5G」が貢献すると考えるエグゼクティブは7割を超えるという回答が出ている一方、まだまだ多くのエグゼクティブは「5G」がもたらす破壊的なイノベーションをイメージできておらず、その理由が新しいテクノロジーに関する知識不足にあると答えています。そこで今回の対談では、この新しい技術が具体的にビジネスに与えるインパクトについて議論したいと思います。まずは日本と世界、通信とハイテク両方の視点を持つヨルマズさんにうかがいます。

ヨルマズ 現代は、ビジネスとテクノロジーが緊密に連携し、世界規模の変革を生む時代です。その大きな潮流として、「モノからコトへ」「プラットフォーマーの台頭」がありますが、「5G」がその加速を促すのは明らかです。自動車メーカーでさえ、「サービスのプラットフォーマー」へ自らを変革する今、「5G」はその成否を握るキーテクノロジーの一つになります。

在津 少なくとも新サービスの開発競争は激化します。私は「3G」や「4G」への移行時も通信業界を担当してきましたが、今回の「5G」は移動通信システムを適用できる場所・用途が飛躍的に増え、「4G」のときに比べても、ユーザーの体感・ライフスタイルを革新させるデジタル化が進みます。「5G」では、ユーザー体感データ伝送速度が「4G」の100倍、1秒間に通過できる容量が「4G」の1000倍になることで、4Kや8Kなどの超高画質が非常に快適に視聴可能になりますし、DVD1枚のデータを数秒でダウンロードできるようになります。

対談風景

熊谷 太一郎氏

熊谷 これはビジネスにおけるアナログな「不確実性」がほとんど解消するということを意味します。どこで何が動作し、何を処理しているかが瞬時に把握可能になるわけです。

 「5G」の特徴は、無線通信の時間的な遅れを飛躍的に短縮する「超低遅延(URLLC)」、通信量をけた違いに増やす「超高速大容量(eMBB)」、多数の端末を同時に接続できる「大量端末接続(mMTC)」です。アクセンチュアが行った調査では、あらゆるモノがインターネットにつながるIoTがこれからの社会を変革させていくなか、「5G」は非常に重要なイネーブラーであり、2022年時点でネットワークにつながっている端末数290億台中、180億台はIoTに関連すると予測しています。*2 また、アクセンチュアは、9のユースケースを通じ、10の業種に6億ドル以上の収益を生み出す可能性を「5G」が秘めていると考えています。加えて、世界経済フォーラム(WEF)とアクセンチュアが共同で行った調査では、産業用IoT(IIoT)において「5G」は2030年までに世界経済へ14兆ドルの貢献をすると予測されています。*3

 「4G」では通信の遅れが最小でも約0.5?0.6秒発生し、どれだけ容量が増えたとしても遅延が許されない用途には使えませんでした。しかしこの遅延の大半は、通信会社の外で生じており、「5G」では通信会社内のネットワークにコンピューターを設置して遅延を劇的に短縮できます。これにより、触感通信、リアルタイム翻訳、ロボティクス、自律的交通システム、仮想現実(VR)、複合現実(MR)、並びに拡張現実(AR)による高度なゲームやビデオアナリティクスなどが、当たり前になる現実が目前に迫っています。今までのデジタル化が「便利になった」というレベルだとすると、「5G」でデジタル化は本当に「信頼」できるインフラへと進化します。

 ですから、今まではユーザー、コンシューマ中心だったデジタルイノベーションが、本格的にビジネスでも起こります。今までオフィス、工場、家庭という単位毎でつながっていたのが、外も中も意識することなくつながる。パーベイシブネットワーク(ネットワークの更なる浸透)と呼んでいますが、本当にシームレスなサービスが人々の暮らしも仕事も変えていきます。

在津 ビジネスにおいては、ビジネスのサービス化と並び、ユーザーエクスペリエンス(顧客体験)の重要性が飛躍的に高まります。すでに通信業界は高信頼・高速な通信サービスに加え、動画・音楽・ゲームをはじめとする、より上位のサービスを総合的に提供して顧客体験を高める時代に入っています。これらが「5G」によってさらに新しい深みや幅を増していくのだと思います。

対談風景

木原 智子氏

PLM、FA、デバイス… 通信がモノづくりを進化させる line

木原 「5G」がB2B(企業間取引)に与える影響ですが、例えば具体的にはどんなユースケースがあるのでしょうか。

ヨルマズ ファクトリーオートメーション(FA)の仕組みが一変します。FAでは今、有線通信やWi-Fiなどで製造装置を接続していますが、ほとんどは「5G」のネットワークで置き換えることができます。「5G」では大容量・低遅延・多端末接続可能な社内専用プライベートネットワークを簡単に作ることが可能なためです。

熊谷 海外では「4G」で同様なプライベートネットワークを構築した例もありますが、「5G」では世界的にも通信周波数をプライベートな用途へ割り当てようとする流れがあり、これまでより容易に企業が独自のネットワークを構築できるようになります。日本企業は、工場の製造ラインを需要に応じて頻繁に組み替えますが、「5G」で製造装置が電源以外全てワイヤレスになれば、ラインの組み替え工事期間が数日から数時間へ短縮され、工場の生産性が飛躍的に高まります。また「5G」は、機器の小型化と廉価化も促進します。大容量低遅延のネットワークでは、サーバー(MEC:モバイルエッジコンピューティング)側でデータや画像の演算処理を行い、ユーザー側の端末で映像描画と操作する事を違和感なく行えるようになります。よって端末に高速なCPU(中央演算処理装置)や大きなデータストレージ、複雑なケーブルが不要となります。

ヨルマズ 他にも、屋外の危険な業務などで「5G」が広く普及します。例えばオーストラリアの鉱山では無線通信による遠隔管理で重機の運用を無人化しています。ネットワークの進化は、安全や信頼を社会全体にもたらすともいえます。

 PLM(プロダクト・ライフサイクル・マネジメント)においても、お客様の製品利用状況を「5G」の無線通信で自動的にモニターすることで、障害を早期に発見したり、潜在的なニーズを発掘したりするなどで、より効率的な製品・サービスの改善・開発が可能になります。先進的な企業はもう取り組んでいますが、「5G」の導入で技術的なハードルは劇的に下がります。さらに言うと、これは日本のモノづくりすべてに、通信機能が備わるということを意味します。企業は競争力強化に向けて、請求、デバイスの設定や管理など全てに対して、ユーザーへ直接インパクトがある仕組みを構築していく必要があります。

在津 こうした多様なサービスを実現していくに当たり、通信会社もサービス提供側企業も、ビジネスの進め方の変革が必要です。これまでのように個別に通信やサービスを提供するのではなく、顧客接点に立脚したソリューションを、スピーディーかつ一元的に共創(協創)していかなければなりません。その仕組みを、スピード感をもって構築していくとともに、変わり続ける顧客ニーズを把握しながら本当に必要なサービスを必要とされるときに提供できるようデータをきちんと取得・分析して活用していくことが求められます。この革命は今後B2C(消費者向け)のみならずB2Bの領域で急速に立ち上がります。テクノロジー面も同様で、新たな「サービスエクスプロージョン(爆発)」を支えるためのAPI(アプリケーション・プログラミング・インタフェース)をいち早く提供もしくはそのAPIと連携し、オープンプラットフォームやクラウドの活用へ移行すべきです。

対談風景

「共創」に向けて異なる才能を組み合わせるエコシステム line

木原 B2Bビジネスの活性化で重要なキーワードとしてさきほど「共創」という言葉が出ましたが、具体的にどう取り組むのでしょう。

ヨルマズ 例えばアクセンチュアには、「デジタル・サービス・ファクトリー」と呼ぶビジネスモデル変革の仕組みがあります。イノベーションを生む革新的なソリューションやサービスについて、企画から実現・製品化までを担う組織・機能を提供するもので、海外ではフランスの「シュナイダーエレクトリック」、米国の「ディズニー」、英国の「ボーダフォン」などで実績があります。

在津 デジタル・サービス・ファクトリーは、共創を軸とした考えに基づいて作られました。通信業界では、いち早くプラットフォーマーやサービスプロバイダーにキャッチアップして競争力を高めなければ生き残れないという危機感があり、その解決策の一つとして、デジタル・サービス・ファクトリーによる共創が行われています。具体的には、通信会社にない強みを持つ外部企業と協調する仕組み、すなわちエコシステムの構築です。

ヨルマズ アクセンチュアは、現在のお客様のビジネスの強みまたは弱みを調査し、補完もしくは相乗効果が見込める強みを持つ外部組織とのエコシステム構築を支援します。企業のみならず、スタートアップや研究機関とも幅広く協業しています。そして、その共創部分は、技術であったり、人材であったりします。たとえば日本の製造業では、非常に優秀なモノづくり・ハードウエアに強いエンジニアは多いですが、ソフトウエアエンジニアやデザイナーのような人材は非常に少ない。しかし現在この両方ができる人材の需要は非常に増えており、人材不足が非常に深刻です。アクセンチュアでは「アクセンチュア・イノベーション・ハブ東京(AIT)」のような共創の場を通じて、産官学の連携を図りながら、デジタル人材が企業の枠を超えて革新的なサービスを開発できるように支援をしています。

在津 アクセンチュアは昨今デジタルに強いコンサルティングファームとして成長し、通信の領域においても「5G」を含めたネットワークの先端的なサービスやテクノロジーに関する知見や実績を豊富に蓄えてきました。通信業界のコンサルティング会社は狭い専門領域にフォーカスした小規模な企業が多いので、アクセンチュアはそうした企業と協業しながら、ビジネス、業務オペレーション、ネットワーク技術、センサーやハイテクデバイスといった複数の領域をまたがる戦略立案から実行までをご支援しています。サービスとつなげる、ビジネスとつなげる、ITとつなげるといった、幅と深みを持ったコンサルティングに注力しています。

対談風景

在津 結城氏

新技術をどう取り入れるのか-自社への適合性を評価すべきタイミング line

在津 「5G」に限ったことではないですが、ビジネスとテクノロジーが表裏一体になった今、スピードは、最重要経営課題になりました。例えば「5G」がきっかけで立ち上がる市場の気配が感じられた時には「5G」に対応した製品やサービスを用意できているくらいでないとライバルに後れを取ります。今までのように時間をかけてよいものを出す、では間に合わないので、ベータ版を提供し即修正していくといった姿勢が大切です。

熊谷 「5G」対応の通信サービスは、世界中の通信会社が「5G」で定義された要件をステップ・バイ・ステップで実現していきます。例えば超低遅については、最終的に5ミリ秒(0.005秒)以下にしますが、最初は10ミリ秒以上の段階があります。ステップごとに、通信サービスのレベルもユースケースも異なるため、企業も「5G」を活用したビジネスを、タイミングを見据えてステップ・バイ・ステップでローンチできるようにしなければなりません。ですので、他社に先駆けて「5G」でできるサービスをPoC(概念実証)などで模索し、ナレッジを蓄積しながら、共創のためのパートナリングを進めるなどで、ここぞというタイミングを見定める必要があります。

木原 最新技術をビジネスに取り入れていくには、「テクノロジーが完成してから」「成功事例が出てから」といったペースでは間に合わない時代です。アクセンチュアは技術とビジネスの両面で、最適なタイミングを目利きし、日本企業・日本経済の発展を支援してまいります。

ブロックチェーン・ハブのアーキテクチャ全体像 アクセンチュア:新しいネットワーク社会の到来

対談風景

アクセンチュア株式会社
通信・メディア・ハイテク本部 経営コンサルティング
アフリカ・アジア太平洋地区統括兼ハイテク日本統括
マネジング・ディレクター トゥンチゥ ヨルマズ氏

 国際経営学修士、および電気・電子工学、軍事科学の学位を保持。エリクソン副社長、トルコテレコム執行役員、伊藤忠商事など、通信・ハイテク分野に25年以上従事エリクソンの米国拠点では副社長としてコアネットワーク、ビジネス変革に関するセールスをリード、中東では上級副社長として28カ国にわたる地域統括チームに所属。伊藤忠商事では、海外ハイテク企業向けベンチャーキャピタルファンドを創設し、日本におけるベンチャー企業の創業を支援。趣味は旅行、トレッキング、テニス。

アクセンチュア株式会社
通信・メディア・ハイテク本部 通信・メディア統括
マネジング・ディレクター 在津 結城氏

 1996年に慶応義塾大学を卒業後、アクセンチュア入社。通信・メディア・ハイテク業界における、新規事業戦略策定、デジタルトランスフォーメーション、業務改革、システム開発、アウトソーシングサービスなど幅広い業務に従事。余暇は2人の息子とスポーツに勤しむ。

アクセンチュア株式会社
通信・メディア・ハイテク本部
シニア・プリンシパル 熊谷 太一郎氏

 幼少の頃から海外生活が長く英国の大学で総合工学を学ぶ。モトローラ、ノキアを経てアクセンチュアへ。モトローラでは米国本社で変革プロジェクトに参画。帰国後は、技術部門にて戦略・企画、通信事業者向けネットワークのプリセールスから開発、導入、保守とライフサイクルの全工程において、多くのプロジェクトを統括。アクセンチュアでは通信事業者のビジネス変革、新事業立ち上げの支援、データドリブンな新たなマネジメントの提唱、ハイテク事業者に対する通信やネットワークに関するコンサルティングなどに従事。趣味は意外にも中国でハマり、英国で仕込まれた乗馬。

アクセンチュア株式会社
通信・メディア・ハイテク本部
シニア・マネジャー 木原 智子氏

 2009年に東京大学工学系研究科修士課程修了。アクセンチュアへ入社以来通信企業を主に担当し、システム開発、ビジネスプロセスリエンジニアリング、新業務デザインのためのワークショップなどを支援。モットーは「苦労は買ってでもしろ」。趣味はマラソン、登山、ゴルフ、テニスなどアウトドア系。フルマラソンは8回完走。

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