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対談 企業の活性化と日本流イノベーション

株式会社ワークハピネス 代表取締役 吉村 慎吾氏
株式会社東芝 執行役専務 東芝デジタルソリューションズ株式会社 取締役社長 錦織 弘信氏

AI(人工知能)やあらゆるモノがネットにつながる「IoT」を活用する「第4次産業革命」で、産業や社会の変化が大きく加速しようとしている。労働人口の減少をはじめ、さまざまな課題にさらされる日本企業が生き抜く道はどこにあるのか。東芝グループでデジタルソリューション事業を担う東芝デジタルソリューションズの錦織弘信社長と、イノベーション創出コンサルティング事業を展開するワークハピネスの吉村慎吾代表取締役が、IoTによる日本企業の活性化とものづくりの将来について語り合った。

「課題先進国」の日本が抱える課題とは

吉村日本は課題先進国といわれており、多くの会社が人手不足・人材不足に悩んでいます。また、従業員の会社へのエンゲージメント(思い入れ・忠誠心)が、従来と比較するととても低くなってきています。指示待ち、緊張感なし、仕事のやりがいも感じられない、というような人が増えてきているのではないでしょうか。しかし、体や脳が喜ぶようなやりがいを見いだせば、誰もがもっと活躍できる。

錦織確かにそうですね。人材の活性化や、モチベーションを上げることは、特に高齢化が進む日本企業の共通課題です。なかでも技術者の人材不足は大変深刻です。私たちは、お客様と一緒に新しい価値、ビジネスを創りあげる"共創プロジェクト"を推進しています。これは、指示待ちなどではなくお客様のビジネスを発展させるために、お客様と一緒に考えていく提案型のビジネスです。お客様からは、IoTやAIの技術者を可能な限り多く、プロジェクトメンバーにいれてほしいとの要望をいただいています。


社会的な課題を解決するために

錦織 弘信氏 フォト

吉村今、グローバルな視点では、交通渋滞や大気汚染、エネルギーや資源の需給などの問題が深刻化しています。IoTを活用すると、世界の課題を複合的に数値化することが可能です。見える化したり、ムダをなくしたりすることで、付加価値が高く効率的な仕事ができる可能性も生まれ、二酸化炭素(CO2)の排出や資源の浪費を減らし、結果として人々の暮らしを幸せにすることにつながるでしょう。若者のなかには、仕事を通して社会課題を解決していくことに自分のやりがいを見いだす人が増えてきています。

錦織そうですね。それは私も実感しています。グローバルでは、国連が制定したSDGsへの取り組みという視点でも、ICTやIoT活用は欠かせないものとなっています。IoTの真価はGDPの成長というより、むしろコストダウンや経済合理性にあります。「IoTをうまく活用すると製品購入時の価格や品質だけでなく、お客様が製品を5年、10年使っていくなかで、トータルコストを3割削減することもできますよ」という、ライフサイクルでのトータルコスト提案も可能です。東芝は、多くのお客様と共にものづくりに携わってきた140年以上の経験と知識を持っていますので、その知見を生かして貢献していきたいと思います。

吉村工場の現場で「IoTを使えば効率が上がります」と言っても、スムーズに導入できるかというと、まだ難しいのが実態ではないでしょうか。現場で働く人たちにとっては、自分たちの仕事が奪われ、リストラにつながると受け止められたりもするでしょう。IoTで業務を最適化し、働くみなさんがもっと付加価値の高い業務にシフトすると、企業にとっても働く人にとってもいい方向性に向かう、ということを実感してくれると良いですね。

錦織確かに、数年前までは「IoTは効果が見えないから投資もできない」という声が多かったですね。最近はIoTへの期待が高まり、成功事例も増えてきましたので、導入による効果を積極的に紹介したいと思っています。

当社が入っているラゾーナ川崎東芝ビル(川崎市、15階建、8000名)では、3万5千個のセンサーが従業員の動きや機器の状態を把握、照明や空調、エレベーターなどの最適な運用を行っています。これにより一般的なオフィスビルに比べ、二酸化炭素(CO2)排出量を半分くらいに抑えることができました。また、2013年11月のオープン当時からデータを集めていますので、膨大なデータをAI技術で分析すれば、ほかに応用できる可能性もあり、提案時の説得力につながります。


求められる企業姿勢

吉村 慎吾氏 フォト

吉村IoTが広まり、世界の産業や社会は急速に変化しています。日本人はもっと世界に飛び出して、その変化に衝撃を受けるべきです。そうした体験が、現状を変えたいとか、変わらなければという「健全な危機意識」を生み、「社会をこう変えたい」というビジョンを育てるのです。世界の変化を感じたり、学んだりして、行動を変革させていくことが必要です。

さらに、日本企業は少子高齢化への対応も迫られています。これはいわば「幕末の黒船来航」。自分たちでコントロールできない外からの圧力です。日本人には、このような外圧が必要なのかもしれません。「人手不足で現場がまわらない」となれば、IoTでムダをなくして人に頼らない経営にシフトし、人間にしかできない仕事に人員を投入する経営に変えることができます。日本にとって、今こそ変わるチャンスですね。

そして、経営者にはぜひ「IoTでイノベーションを起こしたい」「一時的に痛みが伴ったとしても、みんなが幸せになれるならチャレンジして目的を実現する」という夢やビジョンを語ってほしい。そんな経営者が増えていくような日本でなくてはなりません。

錦織IoTには企業を変革させる力があり、その可能性を引き出すのは経営者の責任です。現在、世界のIoT導入率が3割程度なのに対し、日本はまだ1割くらいといわれています。実際に、お客様を訪問して感じるのは、導入に積極的な企業は経営者がしっかりした企業変革へのビジョンを持っている、ということです。まず、社長が明確なビジョンを示し、その実現のための一つのツールとしてIoTを導入、最終的にそれが成果となって表れると思います。IoTはあくまで価値を創り上げる手段で、グランドデザインを作った上で"まず、やる。導入するぞ!"という意識が必要です。

錦織 弘信氏フォト。企業の活性化と日本流イノベーション

デジタルシミュレーションがおこすイノベーション

吉村最近、私が関心を持っているのが自動車業界のイノベーションです。実際に試作して性能を検証するような従来の方法から、デジタルシミュレーションに既に移行しています。その背景にあるのは、車種や開発工数は増えるのに技術者が足りないという実態です。デジタルシミュレーションを活用することで手間やムダを大きく減らすだけでなく、自動車業界が新たな気づきや、より良いサービスを生み出すイノベーションの種になっていくと思います。

特に、工場などの現場におけるデータ活用と効果についてのシミュレーションは、ますます重要になっています。東芝には、IoTアーキテクチャー「SPINEX(スパインエックス)」に、AIを使ってシミュレーションする「デジタルツイン」という技術がありますね。

錦織SPINEXやAIをうまく活用すると、例えば品質に問題があった場合、その要因が工場内のどの生産ラインで何が原因だったのかを素早く見つけ、生産ラインにフィードバックし、改善できる。異常値が出始めたら、過去のデータと照らし合わせ、シミュレーションすることでトラブルを未然に防ぐこともできます。またデジタルツイン上でのシミュレーションで工程などのムダを削って生産性を上げたり、自動化を一段と進めたりすることにもつながります。

例えば、東芝メモリの四日市工場では、50品種の半導体の生産設備は200機種・4000台、生産には2万工程あります。SPINEXの活用で、不良原因の解析にかかる時間が6時間から2時間に短縮、欠陥の自動分類に成功する比率も49%から83%に大きく向上しました。

吉村それはすごいですね。製造業ではデジタル技術を活用した設計力や、シミュレーション力が大事になってきますね。IoTを活用することで製造業の生産性は向上し、そこにたずさわる人の働き方も変わる。まさに「働き方改革」が実現できるのではないでしょうか。世界のさまざまな企業は工場がそれぞれつながっていけば、その効果は容易に想像できますね。


製造業が抱える課題を解決する日本流テクノロジー

錦織日本のものづくりには、すばらしい知識と経験の蓄積があります。工場に「職人」のような熟練者がいます。長年の経験で、製品や製造ラインのおかしなところをパッと見抜く、まさに「匠(たくみ)」の世界です。でも、その匠も高齢化している。せっかくのノウハウが頭の中にしかないため、これに危機感を覚えている方々が多くいると思います。

吉村同感です。今の若者には製造ラインに入って熟練工になりたい、という将来像を思い描く人は少ない。人を採用できないとすれば、熟練工の「暗黙知」が受け継がれなくなって、日本のものづくりが途絶えてしまいますね。何とかすべき時がきています。

錦織匠の暗黙知をデータ化、デジタル化するためにAIが重要になってきているのだと思います。画像認識や音声認識なども取り入れていくと良いですね。例えば、匠が「これは何か変だ」とか「ここがポイント」とか、感じるところがあったらつぶやいてもらってそれをテキスト化する。目の動きなどの反応も全部記録してデータ化し、マニュアル化で共有。つまり、暗黙知を「形式知」にして、共有する訳です。共有化してそのノウハウを高齢化社会の中で継承していかなければなりません。工場のIoTでいえば、このような人に関わるAI技術の開発がまさに「日本流」だと思います。私たちも東芝のAIとして「RECAIUS(リカイアス)」と「SATLYS(サトリス)」を発表しています。

欧米などのIoTベンダーは、とにかくデータをたくさん集め、徹底的にシミュレーションして課題を解決していこうという考え方です。データは集めようと思えば、いくらでもあります。しかし実際に分析につながるのは、そのうちの一握りです。本当に必要なデータを分別して拾い出せるのが、ものづくりで培ってきた人間の現場の知識と経験の蓄積が成せる日本の技であり、日本ならではの「匠の力」だと思います。

吉村 慎吾フォト。企業の活性化と日本流イノベーション

日本企業に求められる事業構造転換の発想

吉村そういった日本の強さを生かしながらも、さらに日本企業が強くなるために必要なものが事業モデルの転換です。あるドイツのコンプレッサー(圧縮機)メーカーが、IoTを利用して新しいビジネスモデルをつくりました。メーカーなのに機械は売らず、圧縮空気を従量課金で売るサービスビジネスに転換したのです。200台のコンプレッサーをつないで、IoTで最適運転したら電気代が6割下がって、圧縮空気を安く供給できるようになった。これで業界の中堅から一気に大手に成長しました。顧客は、性能がいい機械がほしいわけではありませんでした。圧縮空気を安く使えることを求めていただけなのです。このように考え方を切り替えたことでビジネスチャンスが生まれた、イノベーション事例です。

錦織おっしゃる通りで、まさにそれが「デジタルトランスフォーメーション」です。わかりやすく一言で表現すれば、「Change」と「Create」。デジタル技術を活用することで、ビジネスプロセスを変革(Change)し、生産性を向上させ、働き方を改革し、お客様と共に新たな事業を共創(Create)していく。お客様がどのような事業をつくり出したいのか、どのように課題を解決したいのか。それを実現するために他社とも積極的に組んで、お客様と共にオープンイノベーションで価値を共創し続けていきたいと思っています。

吉村それが、東芝が考えるデジタルトランスフォーメーションの姿ということですね。私は、日本の企業や現場には底力があると感じています。経営者が「IoTで危機をチャンスに変える」という姿勢で挑戦すれば、現場の気持ちの持ち方も新しく変わっていくと思います。

錦織日本の製造業はIoTの力でもっともっと元気になれます。私は、東芝の経験やノウハウとお客様の現場の知見で、日本のものづくりに貢献したいと思っています。デジタル革命、第4次産業革命は「日本のものづくり強化」につながり、日本発の「Factory IoT」を世界に発信できるチャンスでもあります。そしてデジタル革命は製造業だけでなく、幅広い業界に成長をもたらします。それを具体的なカタチとして実現し、日本企業や社会を活性化させていきたい。これこそが私たちの役割であり、社員、そしてお客様と共に一丸となって取り組むべき命題なのだと思います。


東芝のIoTアーキテクチャー「SPINEX」

PROFILE

フォト:吉村 慎吾氏

吉村 慎吾

株式会社ワークハピネス 代表取締役

世界4大監査法人の一つであるプライスウォーターハウスクーパースにて公認会計士として活躍し、世界最年少マネジャー記録を更新。途中、現JASDAQ上場審査部で世界初の日米同時株式公開を手がける。2000年、企業変革支援アウトソーサーであるエスプールを創業。100年の伝統ある老舗ホテルの20年続いた連続赤字を1年でV字回復。栽培農業を活用した障がい者雇用支援サービスの立ち上げなど、数々のイノベーションを起こし、2006年JASDAQ上場に導く。同年、イノベーション創出支援コンサルティングファームであるワークハピネスを創業。現在は大企業の新規事業創出を支援。著書『イノベーターズ~革新的価値創造者たち~』は、ビジネス書ランキングで1位(2014年8月/丸善丸の内本店調べ)、図書館協会選定図書に選ばれるなど、多数の企業で「次世代幹部育成の課題図書」として扱われている。


フォト:錦織 弘信氏

錦織 弘信

株式会社東芝 執行役専務 
東芝デジタルソリューションズ株式会社 取締役社長

1980年、富士通入社。2009年、東芝のストレージプロダクツ社HDD事業部長を経て、10年、執行役常務。12年、執行役上席常務(セミコンダクター&ストレージ社副社長)。13年、執行役上席常務(クラウド&ソリューション社社長)。14年、執行役上席常務(クラウド&ソリューション社社長)、東芝ソリューション取締役社長。17年、執行役専務(インダストリアルICTソリューション社 社長)、東芝ソリューション取締役社長。17年7月から現職(東芝執行役専務、東芝デジタルソリューションズ取締役社長)



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