受益者の利益向上を図る議決権行使

GPIFも公表を要請
利益相反を抑える効果も

 機関投資家の行動規範を定めた日本版スチュワードシップ・コードが、2017年5月に改訂された。今回の改訂では、中長期的な企業価値向上の観点から議決権を行使するとともに、個別議案における議決権行使結果の公表を求めている。機関投資家が議決権を正しく行使し、企業価値の向上を促すことで、受益者のさらなる利益向上が期待される。

日本企業の「稼ぐ力」を強くする

  機関投資家と企業との建設的な対話を通じて、企業の持続的成長を実現するための機関投資家の行動原則である日本版スチュワードシップ・コードが、2014年2月に策定された。コードは7つの原則で構成されている。(表1参照)

表1・スチュワードシップ・コードの7つの原則

  金融庁がコードを策定した背景の1つは、日本企業の「稼ぐ力」が海外企業と比較して相対的に弱かったことだ。売上高営業利益率(ROS)や株価純資産倍率(PBR)などの指標は、米国企業に比べて大きく劣後している。企業が保有する現預金の比率も、15年時点のGDP比で米国の5%に対し、日本は48%と大幅に上回る。設備投資も1995年比で米国は2.3倍に増えたが、日本は3%減少している。

 「失われた20年」と呼ばれるデフレ環境の中で、日本企業は資金の多くを内部留保に充ててきた。一方で、こうした中でも、明確な経営戦略を確立し、持続的に企業価値を向上させている企業は存在する。こうした企業の取り組みを企業セクター全体に広げ、ひいては日本経済の成長を促すために策定されたのがスチュワードシップ・コードであり、上場企業の行動規範として15年に策定されたコーポレートガバナンス・コードである。

 スチュワードシップ・コードは拘束力のある法令ではなく、機関投資家がコードを受け入れるかどうかは任意である。金融庁はコードの受け入れを表明した機関投資家のリストを公表している。機関投資家はコードを実施するか、実施しない場合はその理由を説明することが求められる。

 16年12月時点で、コードを受け入れている機関は214で、そのうち約7割を資産運用会社が占める。各運用会社のホームページでは、コードに対する方針や具体的な取り組みについて説明している。

コード改訂の目的は建設的な対話の深化

 スチュワードシップ・コードの内容は、企業や金融市場の状況や、企業と機関投資家との関係性の変化に合わせて、常に最適化される必要がある。

 金融庁はコードに関するフォローアップ会議を、15年9月から16年11月まで10回にわたって開催。同月末に公表した意見書で、スチュワードシップ・コードの見直しを提言した。これを受けて、17年1月から3月にかけて「スチュワードシップ・コードに関する有識者検討会」を開催し、5月29日に改訂版スチュワードシップ・コードを公表した。

 検討会では、機関投資家と企業との建設的な対話をさらに深化させることが重要だという認識が示された。コードの改訂に際しては、運用機関のガバナンス(統治)や利益相反管理の強化と、年金基金などのアセットオーナーの役割の明確化等が盛り込まれた。(表2参照)

表2・スチュワードシップ・コード改訂の概要

 今回の改訂における大きな変更点の1つが、議決権行使結果の公表の充実である。機関投資家による議決権行使の可視性の向上は、議決権行使が、最終受益者のために行われることにつながるものである。

 これまで多くの機関投資家は従来のコードに基づいて、議決権行使結果は議案の種類ごとに、複数の企業を合算した集計結果を公表していた。16年12月末時点で、議決権行使結果を個別に公表している機関投資家は、投信投資顧問で9%、年金基金では8%にとどまり、公表していない機関はそれぞれ約3割に及んだ。(表3参照)

表3・議決権行使結果の公表状況(2016年12月末)

 これでは利益相反管理の観点から見て開示が不十分だという指摘が、海外の機関投資家を中心になされた。実際に、米国などでは多くの機関投資家が、個別企業ごとに具体的な議決権行使の内容と結果を公表している。

 改訂版コードでは、議決権行使に対する可視性をさらに高めるため、原則として、機関投資家は、議決権行使結果を個別の投資先企業および議案ごとに公表すべきとしている。

 機関投資家が個別議案ごとの公表を行うようになれば、個人投資家や年金受給者などの受益者にとって以下のようなメリットが期待できる。1点目は利益相反の抑止。議決権行使の詳細を自ら開示することで、機関投資家は受益者より投資先企業の利益を優先するような投資行動を行いにくくなる。2点目として、適切な議決権行使は投資先企業のガバナンスの改善につながり、企業の競争力が増すことで投資収益の拡大につながる点が挙げられる。3点目は、投資信託を購入する個人投資家にとって、議決権行使の方針や結果が有益な判断材料となることだ。

国内の運用会社が第三者委員会を設立

 投資先企業の株主総会での議案に対し、機関投資家が賛成か反対かを判断するために、議決権行使助言会社を活用する事例が増えている。機関投資家は1社で何百、あるいは何千もの企業に投資するため、各企業の議案について個別に検討するのが難しい。そこで、各企業の株主総会議案を継続的に調査している助言会社のアドバイスを活用するというわけだ。

 ただし、現状、日本では株主総会が特定の時期に集中しやすいこともあり、議決権行使の判断を専門に扱う会社であっても、人的資源が不足し、個別の議案に対して適切な判断が下せていないのではないかとの懸念も指摘されている。そのため、改訂版スチュワードシップ・コードでは、議決権行使助言会社に対して十分な経営資源を投入することを明確に求めている。

 金融庁は、コードを受け入れている機関投資家に対して、改訂版コードが公表された6カ月後の11月までに、改訂内容への対応を表明するよう求めており、すでに多くの機関投資家がコード改訂に合わせた取り組みを始めている。世界最大の年金基金であるGPIF(年金積立金管理運用独立行政法人)は、委託先の資産運用会社に向けて「議決権行使原則」を制定し、個別の議決権行使結果の公表を求めている。国内の運用会社では、議決権行使の独立性を担保すべく、社外取締役などを含む第三者委員会を設立する動きが広まっている。

 機関投資家の議決権行使への取り組みに関して、改善の余地は大きい。適切な議決権の行使と利益相反の排除が企業価値を高め、受益者の利益向上につながることを期待したい。

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