【特別セミナー】広がる資産形成の選択肢 従業員向けの金融教育を考える

 「iDeCo」に続いて「つみたてNISA」がスタートするなど、貯蓄から資産形成への流れはさらに加速している。自助努力による資産形成が求められるなか、企業や自治体の取り組みはどうあるべきなのか。2018年2月に開催された本セミナーでは、企業・自治体向けセミナーの講師経験豊かな専門家や、企業側の社員教育担当者などが講演を行った。ライフプラン教育やマネープラン教育のあるべき姿を探るとともに、つみたてNISAなどの制度の普及や金融教育の実践についても学ぶ機会となった。

基調講演

職場セミナーで社員が
本当に知りたいお金のこと

ファイナンシャルプランナー/生活設計塾クルー取締役
深田晶恵

お金のことに配慮したサポートで、
従業員の不安解消へ

話をする深田氏の写真

深田晶恵氏

 会社員や公務員をとりまくお金の現状から見えてくるのは、衝撃的な事実です。同じ額面年収でも、社会保険料のアップや、定率減税の廃止などで手取り額が下がっているのです。40〜50代が貯蓄できないのはこうした手取り額の減少、長引く超低金利環境、教育費の高額化、住宅ローン負担の増大などが原因です。では、老後のお金はどうなるのでしょうか。60歳以降、収入ダウンの崖は3回訪れます。定年退職後に再雇用で働きはじめるとき、年金だけの生活になるとき、配偶者が亡くなって一人分の年金になるときです。お金をためられるのは60歳までといっていいでしょう。

【図】給与の額面年収700万円の手取り推移を示した折れ線グラフです。2002年には587万円でしたが、2003年にボーナスの社会保険料がアップしたことで583万円になりました。その翌年の2004年には配偶者特別控除の一部廃止があり、577万円になりました。2006年には定率減税の廃止の影響で570万円になり、2010年には子どもの扶養控除の縮小と廃止で559万円になりました。その後も2012年に542万円、2015年に539万円と下がっていき、2017年は537万円になっています。つまり、手取りは15年間で50万円減っているのです。※注意:このグラフは40歳以上で専業主婦の妻と15歳以下の子どもが2人いる会社員の例です。健康保険は協会けんぽ加入として試算しています。(Copyright:試算・グラフ作成 深田晶恵)

 実際、住宅購入などでまとまったお金が出て行くこともありますが、60歳まで貯蓄残高は増えていきます。最後のためどきは、子どもが社会人になってから定年退職までの間でしょう。その後、60代前半は収支トントンの暮らしを目指したい時期になります。退職金をすぐに取り崩してしまうと、長生きしたときにお金がなくなってしまうからです。企業や自治体は、こうした状況に配慮しつつ、従業員が不安なく仕事に向き合えるようにサポートすることが大切になのではないでしょうか。

【図】お金は「使いながら、ためていくもの」。「ためどき」を逃がさないようにしよう! という貯蓄高推移のイメージ図です。20代後半に結婚で貯蓄が減少し、40代では住宅購入の頭金で貯蓄が減少します。また、50代になると子どもの大学進学で貯蓄が減少します。60代前半は、収入がダウンするため、働きつつ貯蓄を減らさないようにし、65歳以降は年金生活に入り、少しずつ取り崩します。貯蓄ができるのは60歳までです。(Copyright:図版作成 深田晶恵)

具体的なモデル例で示す、
従業員が知りたいお金のこと

 ライフプランセミナーの構成は会社ごとに様々です。例えば、資産運用を一切取り入れない会社もあれば、一部に取り入れる会社、生活設計編とは別に開催する会社もあります。確定拠出年金がスタートしてからは、資産運用の注意点の話をしてもらいたいといった依頼も増えています。セミナーの内容も、少しずつ変化しているといえるでしょう。

 私が担当した民間企業のセミナーでは、保険を見直しつつ定期的な貯蓄プランを考えることを目的としたもの、モデル公的年金額、退職一時金、企業年金の金額を折り込んだもの、ワークを組み入れたものなどもありました。また、公務員向けでも、福利厚生について数字を出して具体的に説明したものや、保険の見直しセミナーなどを別途開催する場合もあるなど、内容は統一されていません。老後不安が高まるなか、従業員は老後の必要資金を知りたいはずです。実際の勤務先の制度に合わせて、世代別セミナーなどでモデル例を使って説明することで、興味の喚起を図るといった取り組みが必要でしょう。

 私は、例えば保障設計であれば、ベースになる公的な制度に、職場の福利厚生制度、私的保障と積み上げて、足りない部分があれば、民間の保険で補う必要があることへの理解を促した後に、死亡保障と医療保障に分けて説明します。そのように、勤務先の遺族厚生年金や遺族基礎年金、死亡退職金などを組み込んでカスタマイズすることで、従業員が関心を高められるセミナーは実現します。ですから、医療費でも、高額療養費制度によって最終的な自己負担は10万円前後になること、健保組合加入の会社員と共済組合加入の公務員、その家族であれば、1カ月2万円から5万円という例もあるなど、職場の福利厚生制度にそって、具体的に解説する必要があるでしょう。

【図】保険に入る前に「すでにある保障」を知ることが大切です。保障設計は「社会保障」「職場の保障」「私的保障」の順に設計していきましょう。「社会保障」は遺族年金や健康保険制度など、「職場の保障」は死亡退職金や健康保険、職員互助会の付加給付など、「私的保障」は貯蓄や家族の収入などがあたります。これで足りない部分に民間保険をつけていきます。ほとんどの人が逆の順で設計をしているのが現状ですが、これではムダが多くなってしまいます。

 では、そんなライフプランセミナーで資産運用を取り上げる必要はあるのでしょうか。現在の日本では、投資経験を持っている人は多くありません。退職金や相続でまとまったお金を受けとったときに投資を始めても、失敗する可能性が高いといえます。そこで私は、退職直前のセミナーで失敗を減らすコツを伝えるようにしています。職場のセミナーで資産運用を取り上げれば、資産運用に興味がない人にも聞いてもらえます。確定拠出年金と合わせて考えることも必要ですので、職場のセミナーで取り上げる意義はあるといえます。

充実したライフプランセミナーで、
経済的自立を支援

 職場開催のライフプランセミナーを充実させるためには、「職場の福利厚生や退職金制度を踏まえてカスタマイズしたセミナーにすること」「世代別に毎年定期開催すること」「カスタマイズしたセミナーをつくろうという意欲のある講師を選定すること」が必要でしょう。講師については、人事研修などで関わりのある研修会社にサポートを依頼してもいいかもしれません。また、セミナー参加者の属性は様々である、ということを忘れずに構成することが重要です。モデルケースは4人家族だとしても、単身者や子どものいない夫婦など、異なるケースについても解説するといった方法です。従業員が本当に知りたいことを盛り込んだセミナーを実現できると、従業員の経済的自立支援につながります。それによって、仕事へのモチベーションを上げ、勤務先への帰属意識を高めることもできるのではないでしょうか。

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