いま覚えておきたい フィデューシャリー・デューティー 「顧客本位」の政策で変わる 家計と金融機関の今後の関係

学習院大学大学院 神田 秀樹 教授に聞く

 今、金融業界で「フィデューシャリー・デューティー」という概念が登場し、大手金融機関などが次々と取り組み姿勢を表明している。「受託者責任」「信認義務」などと訳されるこの概念は、平易な表現で言うなら、金融機関に一般顧客から信頼されて資金を託されるよう、顧客の利益を第一に考えた経営を求めるものだ。金融庁の金融審議会「市場ワーキンググループ」座長を務める学習院大学大学院の神田秀樹教授に、個人の家計への影響や今後予想される金融機関の動きなどについて聞いた。

神田 秀樹(かんだ・ひでき)
1977年東京大学法学部卒。東大大学院法学政治学研究科教授を経て、2016年学習院大学法科大学院教授。東大名誉教授。フィデューシャリー・デューティー関連では、金融庁の金融審議会「市場ワーキンググループ」座長を務める。

神田 秀樹氏

預金頼みを脱却し
安定的な資産形成を

 フィデューシャリー・デューティー(Fiduciary Duty、FD)は、1990年代末にも一度、米国の信託における受益者と受託者との法的関係のことなどとして日本で紹介された概念。神田教授は、改めて全ての金融機関に関わる事項としてFDが脚光を浴びるようになった理由について、「日本が超高齢化社会を迎えており、公的な年金だけに頼れない。国民の安定的な資産形成に資することを目的にして再浮上した」と説明する。

 現状、日本の個人の金融資産は大半は預金であり、株式や投資信託など投資型の資産比率は低い。またリスクを好まない国民性もあり、金融や経済に関する知識や判断力「金融リテラシー」を高める必要があるが、成功体験も少ない。FDは個人と金融機関との関係をより深いものとし、預金に偏った日本の個人資産を様々な金融商品に広げたり資産運用スキルを身につけたりすることや、万一の金融リスクから家計を守ることなどを目指したものだ。

 一方、超低金利時代が続く金融機関側では、「預金を貸し出して利ざやを稼ぐ」従来のビジネスモデル展開が難しくなっている。そこで個人向け商品として、貯蓄から投資へのための少額投資非課税制度(NISA)やジュニアNISA、リタイア後に向けた商品では個人型の確定拠出年金(iDeCo)などを投入・準備している。金融機関ではこの機会にFD宣言を打ち出して、顧客本位の取り組み姿勢を明確化。品ぞろえの強化と顧客本位の姿勢をそろえることで、個人向けの投資型商品市場の活性化を狙う。

 さらに、神田教授は「高齢者向きの新商品や最近注目が集まる、IT(情報技術)と金融サービスを融合したフィンテックを活用した新商品やサービス展開ができるのではないか。あるいは顧客と向き合うワンストップサービスを生かした新しい仕組みづくりも考えられよう」と指摘する。

 スチュワードシップ・コードとは、投資先企業に持続的な成長を促すため、機関投資家に求められる行動原則のこと。7つの柱からなる。英国の取り組みを参考に、金融庁の「日本版スチュワードシップ・コードに関する有識者検討会」が策定した。コード受け入れを表明した機関投資家は16年5月時点で207に上る。

 機関投資家は個人や年金、保険契約者らからお金を預かって運用しており、顧客の利益を最大限に図る受託者責任を負う。この責任を果たすためには、ただ株式を売り買いするだけでなく、投資した企業の経営改善にも積極的に関わっていく姿勢が求められる。

 ただ、株主提案や買収提案を乱用して経営を揺さぶるようなアクティビストとは異なる。スチュワードシップ・コードでは、機関投資家がエンゲージメント(目的を持った対話)を通じて、あくまで中長期的な観点から企業に対して価値向上や持続的な成長への取り組みを後押しする。

 投資家が企業と建設的な対話をすることで企業価値が高まれば、株価は上昇する。機関投資家は資金を預けてもらった顧客の期待に応えられるし、企業側は高株価を利用して有利な資金調達ができるようになる。上場企業の企業価値が全体的に高まれば、日本の株式市場の魅力が増し、海外からの活発な投資が期待できる。

自主的な提案・開示
金融機関に求める

 金融庁が10月下旬に発表した今年度の金融行政方針では、「家計の安定的な資産形成を促進するためには、資金提供者と資金調達者との間に立って販売、助言、商品開発、資産管理、運用等を行う金融機関等の側においても顧客本位の業務運営が行われることが重要」と明記。

 その上で、FDについては、広義で「他者の信任に応えるべく一定の任務を遂行する者が負うべき幅広い様々な役割・責任の総称」と定義して、資金提供者や受益者の利益を第一に考えた業務運営を、全ての金融機関に求めている。

金融機関にとっての「顧客本位の業務運営」とは?

 具体的な取り組みとしては、運用機関には顧客本位の活動を確保するためのガバナンス強化、運用力の向上、顧客のニーズや利益にかなう商品の提供などで、販売会社には顧客本位の販売商品の選定・提案、顧客本位の経営姿勢と整合的な業績評価、顧客本位の取り組みの自主的な開示などを通じて、関係者が対話をするよう促している。

 FDの大きな特徴は、年金基金や機関投資家が守るべき行動規範を示した「スチュワードシップ・コード」と同様、法で規制するのではなく、金融機関がそれぞれの判断で自らの行動を決める原則(プリンシプル)主義をとったことだ。

 原則主義は「コンプライ・オア・エクスプレイン」といわれ、原則に従うか、従わない場合は関係者が納得するように説明をすることであり、取り組みの自主的な開示を求めるものである。

 また、スチュワードシップ・コードが機関投資家に、まず投資家やその背後にいる年金受給者らの利益を最大化することを求めたところも同様の文脈として読み取れる。

 「金融行政方針では、まず形式を整えた段階といえる。個別の金融機関が自社の業務内容に沿ったより具体的な策をどう打ち出していくか。今後が肝心だ」(神田教授)。顧客との信頼関係を構築することで金融市場に資産を呼び込んで、それを金融市場の健全な発展につなげる――。個人顧客と金融機関、あるいは運用会社と販売会社などの関係を、前進する車の両輪に見立てたFDの今後に注目が集まる。

私たちはフィデューシャリー・デューティーを
実践するため、「お客様本位」の業務活動に取り組んでいます。

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