長崎雄太
1971年生まれ、東京都出身。昭和大学薬学部大学院を修了後、株式会社資生堂に入社。2000年に株式会社東京調剤センターに入社。常務取締役、専務取締役を経て2015年、代表取締役に就任。
http://www.tokyo-chouzai.co.jp

INTERVIEW

家業に入って間もない頃、マネジメントスクールの卒業旅行でイタリアに行き、ファッションブランドのフェラガモ本社を訪れました。その際、社長室長に「御社は同族経営だから一般社員が社長になることはまずありませんが、そんな環境の中でどんなモチベーションで働いていますか」と質問すると、「われわれは創業者一族と一緒に仕事ができることが光栄でしかありません」との答えを頂いたんです。すてきな会社だなと感激したのと同時に、私たちの会社もそうならなければと思いましたね。

父はこわくて苦手だったけれど

長崎雄太

世田谷区で生まれ育ちました。初孫、長男なのでとてもかわいがられたことを覚えています。近所の商店街にはいくつもの店が軒を並べていて、おじさんおばさんにあいさつをしながら学校に通いました。学生の頃は獣医に憧れましたが、父が経営する薬局を長男の私が継がないといけないだろうと考えて薬学部へ進学しました。大学院を出ると大手化粧品メーカーの医薬品事業部に就職。最初は海外メーカーの資料を和訳して日本語のレジュメを作る作業の繰り返しでしたが、人の役に立っていることを実感できると楽しかったですね。ある時、開発会議でプレゼンをする機会があったのですが、事前の打ち合わせで上司に反対されていたことを私の独断で発表してしまったんです。しかし上司はとがめることもなく「打ち合わせで君を説得できなかった私の責任だ。これからも事前に何でも相談してほしい」と言ってくれました。私もそんな上司でありたいですね。この時の仕事仲間には非常に恵まれていて、今でも付き合いがあります。

2000年、父が還暦を迎える年がターニングポイントになりました。そろそろ家業に入る決断をしないと、今の仕事が楽しくて戻れなくなるだろうと思ったんです。意を決して父を昼食に誘い、「私を一社員として雇ってください」と頭を下げました。父は言葉少なでしたが、喜んでくれたのが分かりました。薬剤師としての現場経験がなかったので、入社後は必死に勉強しましたね。経営を学ぶために、父に頼んでマネジメントスクールに通わせてもらいました。

正直に言うと、父のことはずっと嫌いでした。子供の頃はあまり顔を合わせる時間もなく、会えば叱られてばかりでしたから。ただ、一社員として父の下で働き、社長としての姿を見て尊敬の念を抱くようになりましたね。社員一人ひとりの出身地を普段から把握し、社員の地元で災害などがあればさっと見舞金を渡すようなところが父にはありました。経営者として家庭よりも多くの家族を養っていかないといけないという、責任や重圧を常に抱えていることも感じました。ぶつかることもありましたが、15年に社長の座を受け継ぎました。

  • 長崎雄太
  • 長崎雄太

薬剤師は薬局で待っているだけではダメだ

今は15店舗の調剤薬局と居宅介護支援事業所を運営しています。「目の届く範囲で経営をしないと痛い目に遭うぞ」と父に言われた通り、すべての店舗を城南エリアに集中させることで物流も効率化でき、各店舗とも密に連携できています。「私たちは薬を通じた医療コンシェルジュです」という企業理念を掲げました。薬剤師は来た人に薬を出すだけではなく、地域の皆さんの健康や医療について何でもお手伝いをするマインドを持っていないとこれから生き残っていけないという危機感を含んでいます。この理念は少しずつ浸透していて、スタッフたちは自分たちにできることを考えて動いてくれるようになったと思います。

本業を軸に、次の時代は何が求められるかということを常にアンテナを張っておかなければいけません。うちは一部の店舗で抗がん剤を調剤できる無菌調剤室を用意しています。珍しい取り組みですし、つくった時は需要がありませんでした。でも、需要が起こってからつくっても遅いのです。今は無菌調剤室があることでこれまでお付き合いのなかった先生や高齢者施設から声を掛けていただくことが増えました。また在宅医療の増加に備えて、薬剤師がご利用者様のご自宅へ薬を届けるサービスも導入しました。地域の人にとって、介護や医療のことで困ったら気軽に相談できる存在になりたいですね。

世田谷で生まれ育ち、地元の人たちの温かさに触れながら大きくなりました。これからは事業を通じてその恩返しをしていきたいです。なるべく薬の世話にならなくていいように手助けができればと思っています。一見、商売とは逆行するようですが、病気を未然に防ぐためのお手伝いという観点もこれからの薬局には必要です。
若者の皆さんは無限の可能性を秘めています。その仕事がやりたくないことならば、やらなければいい。やりたいことなら、あとは実行するかどうかです。やると決めたなら、環境や条件のせいにしないでしっかりとやり通してください。期待しています。

ページの先頭へ