松本章子
1941年生まれ。和歌山県出身。専門学校卒業後は稼業であるクリーニング店を手伝う。67年、和歌山県白浜でお好み焼き店「おはなはん」を創業。82年、生カップお好み焼きの製造販売を開始。83年、株式会社おはなはん設立。87年に生カップお好み焼製法特許取得。
http://www.ohanahan.co.jp

INTERVIEW

子供の頃、母が家族や住込みの職人さんたちの食事を作るときに「何を作ると喜ぶかしら、どんな味付けにするとおいしいかしら」と工夫を凝らす姿を見て育ちました。おいしいものを食べさせて喜んでもらいたいという母の思いは、今の私の原点になっています。商売なのでもうけも必要ですが、絶対に変わってはいけないのは相手への思いやり。それが少しでも自分本位になってしまえば、味は変わってしまいます。

頑固な父と、尽くす母の姿を見て育った

松本章子

地元では名の知れたクリーニング店の一人娘として生まれ、子供の頃から家業を手伝いました。両親は従業員や住み込みの職人さんのことをとても気に掛けて大切にしていましたし、私も幼い頃から従業員の方への感謝や心遣いを叩き込まれました。頑固な父が職人さんを厳しく指導するのを見て「そこまで言わなくても」と思うこともあったのですが、今思えばその頑固さがあったからお客様に信頼されたのでしょうし、職人さんを育てることができたんでしょうね。母は父に尽くす人でした。父はモテるタイプだったので母は何度も泣かされましたが、父を悪く言うことは一切なかったです。一度だけ私の前で「悔しいけど、私が狂ったら家庭も店も壊れてしまう」と自分に言い聞かせて耐えているのを見ましたが、その姿は今でも脳裏に焼きついています。両親の姿は、今の私の生き方そのものになっています。

クリーニング店は兄が継ぐ予定だったので、私には別の商売をさせたいと父は考えていました。ところが、私が結婚したいと連れてきた相手は農家の長男だったので父は大反対。商売をすることを条件にどうにか結婚を許してもらいました。結婚してしばらく農業を手伝い、2年経った時に白浜にレジャーセンターを開業した知人にテナントの一角を譲っていただいたのがきっかけで、商売を始めることにしました。お好み焼き店にしたのはただ手っ取り早いからというだけで、誰かに作り方を教わったわけでもありません。何度も試作を繰り返しながら納得のいく味に近づけていきました。店名は、当時人気だった朝ドラにちなんで「おはなはん」と名づけました。

しかし、レジャーセンターのお客様の大半はその場限りのいちげんさんです。最初は慌しくてそんなことを気にする暇もありませんでしたが、「おいしかったよ」とまた来てもらえない寂しさを少しずつ感じ始めて、路面店に移転しました。商売の醍醐味はお客様が喜んでくださることで元気を頂くことなのだと痛感しました。

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家でも焼き立てのお好み焼きを食べてほしくて

当時お好み焼き屋といえば学生向けの大衆的なイメージでした。でも、私はあえて大人をターゲットにして高級感を出したんです。店内のインテリアにも凝って、絣(かすり)生地の椅子をそろえました。最初は敬遠されましたが、次第に「高いけど美味しい」と評判になり、常連のお客様も増えました。お土産に持ち帰るお客様もいらっしゃったのですが、一度冷めたお好み焼きを温め直すと食感が変わってしまうので、焼きたての美味しさを家でも味わっていただくためにはどうすればいいか悩みました。

そして思いついたのが、カップに詰めた具材を混ぜて焼くだけの「生カップお好み焼き」です。メーカーとして会社を立ち上げ、商品を少しでも広く流通させるために小売店を訪ねて回りました。品質を保つために何度も改良を重ねました。大阪、東京に支店を持ち、時代に応じて工場を拡大し、コンピューターシステムを導入して生産ラインも強化していきました。今は年間550万食流通しています。

どんなに時代が変わっても、おいしいお好み焼きを食べてもらいたいという思いは変わりません。味が一番のこだわりなので、材料が値上がりしても経営が苦しくても、妥協して安い材料を使うことは絶対にしません。そこは自分本位になってはいけないと思っています。おはなはんを全国の人に知ってもらえるように、まだまだ頑張っていきます。

創業から30年以上経ちますが、今でも現場に出てお好み焼きを焼きますし、声を出して接客もします。単身赴任生活も30年です。主人には寂しい思いもさせましたし、ずっと円満だったわけではありません。仕事と家庭のどっちが大事なのかと責められたこともありました。リタイアしたら主人とゆっくり過ごしたいですね。若い方たちにアドバイスするとしたら、人の役に立ち喜んで頂くことをしましょう。役立ち方を勉強し実践すれば世情の変化に対応ができ、老いても若い。老いても若者とタックが組める。幸せの必須条件だと思います。

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