松田成彦
1956年生まれ、兵庫県出身。81年、岐阜歯科大学(現朝日大学)歯学部卒業。神戸市内の歯科医院に勤務した後、84年神戸市兵庫区に松田歯科医院開設。93年、医療法人社団松田歯科医院に変更。97年に歯学博士、07年日本口腔インプラント学会専門医、2011年精密入れ歯BPSデンチャー国際ライセンス取得。
http://www.kobe-md.com/

INTERVIEW

歯科医師という仕事はやればやるほどいろんな疑問が出てくるものです。私が咬合(こうごう)論を学んだのも「どうして詰め物やかぶせ物は何度も壊れるのか」という疑問がきっかけでした。前歯の位置関係が悪いために奥歯に力がかかってすり減り、かぶせ物が外れたり歯周病を引き起こしたりすることは、咬合論を学ばなければ分からなかったでしょう。歯医者は虫歯を治す人だと思われがちですが、咬合論のように生理学で口腔環境を良くしたり、矯正治療など歯を長く維持させたりするという仕事もあり、非常に面白いですよ。これからも生理学を追求して、正しい学術の基に歯を治していきたいです。

阪神淡路大震災を機に

松田成彦

比較的裕福な家庭に生まれ、かわいがられて育ちました。学生時代はアメフト三昧。とにかくよく走りました。特に高校の時の練習は厳しく、合宿では毎日120ヤードのダッシュを20往復こなさなければならず、地獄でした。今でも、この世で一番恐ろしいのは走らされることだと思っています。おかげでたとえクレームが来ようが、少々の経営難が来ようが怖くありません。

父がタクシー会社を運営していたのですが、「タクシー業界は厳しそうだな」と思いながら見ていました。では安定した業界は何だろうと考え、当時不足していた歯科医師がよさそうだと思ったんです。歯科大に進学したのは、そんな短絡的な理由からでした。

新人時代は、開業医をしている先輩に「使ってください」と頼み込んで働かせてもらいました。朝から晩まで三つの診療所を掛け持ちです。とにかく実践を積んで腕を磨こうと必死でした。勉強させてもらえてなおかつお金までもらえる、非常に良い環境でしたね。

私が開業して12年目に起こった阪神淡路大震災は大きな転機になりました。特に兵庫区は被害が大きく直後は途方に暮れましたが、30人近くいるスタッフたちをどうやって守っていくかということですぐに頭がいっぱいになりました。ありったけのお金を集めてスタッフ一人ひとりに電話し、「前倒しで給料を支払うから取りに来い」と声を掛けたんです。無茶をしましたが、とにかくスタッフに元気を出してほしい一心でした。復興のためにはスタッフの力が不可欠ですから。実際、「元気を出せ」などと言いながら私自身もどうすればいいか分からなかったんですけどね。

  • 松田成彦
  • 松田成彦

なぜ同じ治療を繰り返してしまうのか

復興してクリニックをやり直すなら、今までと同じやり方ではだめだと思いました。開業当初からいろんな技術を磨いてきたつもりですが、疑問はたくさんありました。この際、今まで感じた疑問をすべて解消して、圧倒的な実力と知見を備えてやり直そうと心に決めたんです。私はスタッフに事情を説明すると現場を離れ、ひたすら勉強に明け暮れました。半年ほどの期間でしたが、学術的な面で大幅に向上できたという手応えがありましたね。その間、スタッフたちは現場で頑張ってくれたし、復興もずいぶん進みました。

咬合論を学んだのもこの時です。抜けた歯をインプラントや入れ歯で補うのも、虫歯を削って詰め物やかぶせ物をするのも多少の技術があれば誰にでもできますし、これらは対処療法にすぎません。なぜそうなったのかという根本的な原因を取り除かない限り同じことを繰り返して、患者さんは「高い治療費を払ったのに」と不満を持ち続けるでしょう。歯の位置関係やかかる力に着目する咬合論の視点は、歯科医師の間でもまだ浸透していません。このまま表面的な治療をしていては、歯科界の発展はありません。国家試験を難しくして歯科医師のハードルを上げるような話もありますが、それよりも、臨床に携わる者たちがもっと学術的なことを学ぶ機会を与えるべきです。そうすれば歯科界はもっと良くなると私は思っています。

神戸市兵庫区で今日に至るまで私は頑張りましたが、スタッフも本当に頑張ってくれました。受付も技工士もアシスタントもみんなかけがえのない仲間です。私には彼らの代わりは務まりません。彼らのおかげで、私は歯科診療と学術に没頭できています。人あっての診療所なので、経営の安定も大事だし、スタッフ達の生活も安定させたいと思っています。それによって良質な歯科医療を提供できますし、ひいては患者さんへの還元にもなると考えています。

人の歯はわずか30ミクロンの厚さを認識し、それが身体全体に影響を及ぼします。私は患者さんに「かめる」「気持ちがいい」と喜んでもらいたくて仕事をしています。この気持ちを忘れなければ、おのずと利益も上げられるはずです。

ページの先頭へ