「革命」においてIT企業が果たすべき役割~「第4次産業革命」の課題と可能性~「革命」においてIT企業が果たすべき役割~「第4次産業革命」の課題と可能性

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英国で最初の産業革命が始まってからおよそ250年。産業や人々の生活を大きく変える可能性がある「第4次産業革命」が世界中で起きている。波乱が続く世界経済に、第4次産業革命は社会やビジネスのあり方をどう変えていくのか。経済学者、竹中平蔵氏に聞いた。※2017年3月取材

第4次産業革命の4つのキーワード

竹中 平蔵 氏

東洋大学教授
慶應義塾大学名誉教授
竹中 平蔵 (たけなか へいぞう)

── 現在、欧米を中心に進行している第4次産業革命に日本はどのように取り組んでいけばいいのでしょうか。

竹中平蔵氏(以下、竹中) 私は、第4次産業革命に関して日本が取り組むべき課題は、大きく4つのキーワードに集約されると考えています。「レギュラトリー・サンドボックス」「ビッグデータの司令塔組織」「リカレント教育」「大学へのコンセッション方式の適用」です。

 「レギュラトリー・サンドボックス」から説明していきましょう。レギュラトリー・サンドボックスとは、直訳すれば「規制の砂場」を意味します。子供が公園で自由に遊ぶように、規制やルールを気にせずに実験などができる仕組みのことで、英国の金融当局がフィンテック(金融とITを融合したサービス)の自由な実験の場として初めて試みたものです。現在、シンガポールが同じ取り組みを始めていますが、日本ではまだ実現していません。しかし近々、この仕組みを使った国家戦略特区で自動走行の実験ができる法案が提出される見通しになっています。これは早晩実現することになるでしょう。

 現在、物流の世界はたいへんなドライバー不足に悩まされています。一部の宅配事業者は、人手不足のために荷物の受け入れ量を制限せざるをえないとまで言っています。それを解消する技術として期待されているのが自動車の自動走行です。

 自動走行に求められるセンサー、カメラ、そして自動車そのものの技術力において、日本は世界でトップクラスにあります。しかし、一方で自動走行を実現させるにあたっての大きな障壁もあります。それは法律です。現在の取り決めでは、自動車が公道を走る場合は人間が運転しなければならないことになっています。この法律があるために、現状では公道での自動走行実験ができないのです。その規制を乗り越えるために必要とされるのが、レギュラトリー・サンドボックスです。

── 2つめのキーワードは「ビッグデータの司令塔組織」ですね。

竹中 第4次産業革命の推進力になるのがビッグデータです。例えば、シェアリングエコノミーは、サービスの評価や実績などのビッグデータがなければ成立しません。では、ビッグデータはどこにあるのでしょうか。米国では、アマゾン、グーグルといった巨大IT企業が膨大なビッグデータを保有しています。一方最先端のIT国家と称されるエストニアでは、政府が主導してビッグデータの整備を行っています。これは人口約120万人という小国だからこそ可能なことです。

 日本に目を向けると、IT企業がデータ管理をするというわけでもなく、政府がデータをすべて管理できるほど国の規模が小さいわけでもありません。そこで参考になるのが、英国の取り組みです。英国では、ビッグデータを整備するための官民合同の司令塔組織を作りました。日本でも2016年12月に議員立法でビッグデータを整備するための「官民データ活用推進基本法」が国会を通過しており、その中に司令塔になる組織を作るべきだという文言が含まれています。これも近いうちに実現することになると思います。

サイバーセキュリティ強化のための人材育成を

── 司令塔組織では、具体的にどのようなデータを整備するのですか。

竹中 例えば、自動走行に必要な地図情報を国や市町村から集めます。あるいは、医療機関などが持っている健康に関する情報を集めて保険行政に役立てていくという方向性もありえます。一つ一つ分野を絞って整備していくことになるでしょう。この司令塔は、内閣総理大臣をトップにするような強い組織でなければなりませんが、その事務局機能は民間のAI、通信、データアナリティクスなどの専門家が担うべきであると思います。

 さて、3つめの「リカレント教育」ですが、これはとりわけサイバーセキュリティにかかわるキーワードです。第4次産業革命が進んでいけば、サイバーセキュリティの強化が重要になります。しかし経済産業省は、2020年までにサイバーセキュリティの専門家がおよそ20万人不足するという予測を出しています。そこで求められるのがリカレント教育です。リカレントには「反復」といった意味がありますが、これは社会人を対象とした生涯教育のことを意味します。ITの基礎知識がある人に、例えば2年間、夜間の大学院に通ってもらい、そこでサイバーセキュリティの専門家になってもらう。その学費を政府がある程度補助する。そんな仕組みができれば、第4次産業革命の基盤が強化されることになるでしょう。

── 最後のキーワードの「コンセッション」は、国が所有するインフラを民間が運営する仕組みのことですね。

竹中 日本でもこの制度が去年から導入され、関西国際空港、仙台空港などに適用されています。この制度を国公立大学にも適用すべきであるというのが、私の考えです。大学は土地をはじめ、様々な資産を保有しています。例えば、大学の敷地を商業目的で活用し、そこで得られた収益を、第4次産業革命を支える研究開発予算として使うという方法がありうると思います。そのためには、「大学の施設や敷地は教育と研究のためにしか使えない」という規制をなくす必要があります。この取り組みが重要なのは、第4次産業革命を進めていくにはお金が必要だがこれ以上国の予算を増やすのは難しい、という事情があるからです。大学が持っている資産を有効活用できれば、この問題は解決します。

 

技術力と人材力で革命を先導していってほしい

竹中 平蔵 氏

── 第4次産業革命を進めていくにあたって、民間企業、とりわけIT企業が主導して取り組めることは何でしょうか。

竹中 第4次産業革命は様々なイノベーションによって進んでいくものです。イノベーションという言葉を最初に定義したのは、経済学者のジョセフ・シュンペーターでした。彼はイノベーションを「新結合」と表現しました。いろいろなものの新しい結びつきこそがイノベーションなのだ、と。

 技術や人材を結びつけ、そこに新しい価値を生み出すには、その「拠点」が必要です。私は、IT企業こそがその役割を積極的に果たしていくべきであると考えています。

 もう一つ、先進的なIT企業は第4次産業革命がもたらす新しい働き方の実験の場になりうると思います。現在、多くの企業には副業禁止規定があります。しかし、今後AIが導入されて職場の環境が大きく変わっていく中で、専門的な技能や知識を持った人が複数の会社で働くことが当たり前になっていくと私は考えています。いわば、人材のシェアリングが進むということです。

 NECをはじめとした日本のIT企業には多くの専門家がいます。その専門家たちが多様な働き方をして、社会に新しい価値を提供していく。そんな実例をNECには率先して示していってほしいと思います。もちろん、守秘義務などの厳格なルールは必要です。それを整備したうえで人材を環流させることが、第4次産業革命を進めていくには極めて重要です。

 最後に、2020年に向けて、第4次産業革命の目に見える成果を示してほしいと思います。50年以上前に造られた新幹線、首都高速、あるいは世界に通用するような近代的なホテル──いずれも今や日本の技術力の高さを示す象徴的なものです。同じように2020年までに最新のテクノロジーによる事例を世界に示すことができれば、それがすなわち第4次産業革命の成果といえるでしょう。

 NECには、技術力においても人材力においても、第4次産業革命をリードしていく十分なポテンシャルがあると思います。ぜひ、未来に向けた力強い第一歩を踏み出して、革命を先導していってほしい。そう願っています。

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