株式会社タカラトミー 代表取締役社長 兼 CEO H.G.メイ 氏株式会社タカラトミー 代表取締役社長 兼 CEO H.G.メイ 氏
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グローバル化を加速するタカラトミー~トップは何を求め、IT部門はどう応えたのか~

多くの企業がグローバル市場の攻略に取り組んでいる。日本を代表する玩具メーカーのタカラトミーもその一社だ。創業家から社長兼CEOを引き継いだH.G.メイ氏のかじ取りのもと、様々な改革を推進している。そのうちのひとつがITの領域である。自社の強みをどう捉え、グローバル市場で強みを発揮するには何が課題と考えたのか。メイ社長と改革のキーパーソンに話を聞いた。

玩具だからこそ「文化」「国境」「年齢」を超えられる

── 近年、特にグローバルビジネスの強化に注力していますが、理由をお聞かせ下さい。

H.G.メイ 氏

株式会社タカラトミー
代表取締役社長 兼 CEO
H.G.メイ


メイ 国内市場の縮小などを受け、海外市場の重要性がより高まっていることは、日本の他の多くの企業と同じです。加えて、当社の場合は「タカラトミー」という企業の特徴を踏まえた上での決断でもあります。
 「トミカ」「プラレール」「リカちゃん」「トランスフォーマー」など、創業以来、タカラトミーは様々な玩具を提供してきました。現在は、デジタル要素も取り込み、子どもだけではなく、大人向け、あるいは家族で楽しめる玩具も多数用意しています。例えば、玩具と自然な会話を楽しめる「OHaNAS(オハナス)」などが一例です。
 これらの玩具が持つ魅力は、決して日本人に限定されるものではありません。どの国の子どもでも自動車や電車、お人形が大好きです。つまり、玩具こそ「文化」「国境」「年齢」に関係なく受け入れてもらえるボーダーレスな商品なのです。
 私たちは既に130以上の国と地域で玩具を販売していますが、この特徴を生かすため、さらなるグローバルビジネスの強化に着手しました。

── グローバル市場には数多くの玩具メーカーが存在します。ライバルとはどのように差別化していきますか。

厳しい品質基準を設けている「トミカ」

厳しい品質基準を設けている「トミカ」
数百の項目を定め、厳しくチェックしている。トミカに基本的に「ドアミラー」がないのは、子どもの手や足を傷つけないため。

細部にまでこだわった動物フィギュア「アニア」

細部にまでこだわった動物フィギュア「アニア」
子どもたちが親しみを持てるデザインにデフォルメしつつも、皮膚感、毛並みの質感、手足の形状や足裏の肉球などにまで表現にこだわっている。

メイ タカラトミーの玩具には「日本の良さ」が凝縮されています。具体的には、「品質」「安全性」「発想力」です。これらは、グローバル市場で大きな武器になると考えています。
 みなさんもよくご存じの「トミカ」。手の平に乗るくらい小さな商品ですが、この小さなミニカーの品質検査には、実に数百項目のチェックポイントが設定されています。
 また、動物フィギュアシリーズの「アニア」も実際に手に取って見ていただきたい。形、色、動く首など、リアルに動物を再現しています。これほど細部にまでこだわった玩具はタカラトミーならではです。
 発想力についても、最新のプラレールには子どもを喜ばせるための様々なアイデアを取り入れています。
 例えば、「笛」の音で発車や停車、加速をさせて“車掌さんごっこ”ができます。また、車体の運転席と車窓部分に2つのカメラを搭載しており、その映像をスマートフォンに転送することが可能。映像を見ながら遊べば、運転士や乗客の気分を体感できます。
 競争力のベースとなるのは、日本の玩具メーカーならではの強みです。この強みを生かすことで、海外売上比率は2倍、3倍、4倍へと拡大できると信じています。

── 玩具の持つ普遍性と日本を代表するタカラトミーならではの製品の力が武器になるわけですね。では、それを支える体制面の改革について伺います。

厳しい品質基準を設けている「トミカ」

厳しい品質基準を設けている「トミカ」
数百の項目を定め、厳しくチェックしている。トミカに基本的に「ドアミラー」がないのは、子どもの手や足を傷つけないため。

細部にまでこだわった動物フィギュア「アニア」

細部にまでこだわった動物フィギュア「アニア」
子どもたちが親しみを持てるデザインにデフォルメしつつも、皮膚感、毛並みの質感、手足の形状や足裏の肉球などにまで表現にこだわっている。

組織体制、評価制度、意識、ITシステムの改革を断行

── 体制面などでは、どのような取り組みを進めていますか。

メイ 地域の購買力に応じた商品開発やマーケティングを行うための整備を進めています。組織体制や評価制度も改め、経営の効率化や次世代の幹部の登用などを図りました。
 同時に取り組んでいるのが、社員たちの意識改革です。なぜグローバルビジネスを強化するのか、それを理解してもらうために積極的に社員とコミュニケーションをとっています。その上で、成功体験を積み重ねていけば理解はさらに深まり、全社を挙げてグローバル市場に挑む体制ができあがると考えています。
 さらに絶対に欠かせないのがITシステムの改革です。現在のビジネスが、ITというインフラなしに成立しないことはいうまでもありません。グローバル戦略を推進するとなると、これまで以上に高度な要求に応えられなければなりません。
 例えば、新しい国でビジネスを開始するときにすぐに対応できる、必要なシステムをすぐに立ち上げられる、あるいは追加していける。こうした要求の重要性はさらに高まります。
 加えて、玩具は非常に開発期間の長い商品ですが、今後、グローバルレベルで関係者が関与するようになったとしても、今以上に長期化させるわけにはいきません。むしろ、どれだけ短期化できるかが競争力を左右します。そのためには、関係者や拠点、工場間で同じシステム上のデータを確認できたり、コミュニケーションをスムーズに行えたりする必要があります。
 そうした観点から、IT部門に既存システムのレビューを依頼し、改革を進めました。

トップの要求を満たすために
クラウドへの統合に向けた選択

── 錦織さんは現場でITシステムの改革に携わっていると聞きました。具体的には、どのような施策を実施しているのでしょうか。

錦織 央行 氏

株式会社タカラトミー
経営企画室
システム企画部 課長
錦織 央行

錦織 まず既存のITシステムをレビューして明確になった、従来のシステムの課題からお話しします。
 当社は、アジア、北米、欧州などに現地法人や拠点を構えていますが、地域ごとに個別最適化されたシステムが利用されています。国内でも、グループ各社が独自に構築しているシステムが一部運用されています。
 しかも、本社のシステムは自社のデータセンターで運用していましたが、この地域は海抜が低く、自然災害によるシステム停止の回避、つまりBCP(事業継続計画)の観点からも対策が必要だと判断しました。

── それらの課題をどのように解決したのでしょうか。

錦織 クラウドの活用です。社長からの要求、明確になった課題を次期システムの要件に落とし込むと、「統合」「拡張性」「安全性」などがキーワードとなります。そこで、安全な環境で運用されている、拡張性の高いクラウド基盤サービスを活用したシステム改革に着手したのです。
 また、クラウドの活用はIT部門の要員を運用管理から解放し、グローバル化を見据えたより戦略的な業務に集中させるという狙いもありました。
 そこで選定したのが「NEC Cloud IaaS」です。

クラウドを活用したタカラトミーのシステム最適化イメージ

クラウドを活用したタカラトミーのシステム最適化イメージ
NEC神奈川データセンターの「NEC Cloud IaaS」とハウジング環境をハイブリッドに活用して、日本国内のシステムを全体最適化。安全な環境に設置したことで、事業継続性の向上にもつながっている。

── サービス選定の決め手をお聞かせ下さい。

クラウドを活用したタカラトミーのシステム最適化イメージ

クラウドを活用したタカラトミーのシステム最適化イメージ
NEC神奈川データセンターの「NEC Cloud IaaS」とハウジング環境をハイブリッドに活用して、日本国内のシステムを全体最適化。安全な環境に設置したことで、事業継続性の向上にもつながっている。

錦織 まず評価したのは、NEC Cloud IaaSの安全性です。サービス提供拠点であるNEC神奈川データセンターは立地、設備などあらゆる面で高度な安全性を実現しています。
 さらに、段階的にクラウドに移行できる点も魅力でした。利用していたシステムの中にはまだサーバの更改時期まで猶予があり、今の段階では、そのまま利用を継続したいものもありました。しかし、それらを今まで通りオンプレミス環境で運用しては課題解決につながりません。
 それに対し、NEC神奈川データセンターであれば、NEC Cloud IaaSとハウジング環境の両方を組み合わせてハイブリッドに利用することが可能。これなら、まだクラウドに移行しないシステムはまずハウジングに移行し、その後、段階的にクラウド化を進めることができます。
 NEC Cloud IaaSとハウジング環境の間はLAN接続しているため、リアルタイムにデータ連携させることもでき、システム統合の要件も満たせます。

── 実際の移行プロジェクトはどのように進んだのでしょうか。運用を開始した現在の状況と合わせてお聞かせ下さい。

錦織 NECと共に綿密に準備を進めた結果、クラウドへの移行作業をたった3日で完了できました。作業にはSAP ERPのOS/DBマイグレーションやバージョンアップ、周辺システムとの連携といった工程も含んでいる上、非常に大規模なシステムです。準備期間も含めて、この期間で対応できると言ってくれたのはNECだけでした。
 運用開始後はシステムの停止といったトラブルは全くなく、以前より安定稼働しています。これまでのように運用管理に追われることもなくなり、運用管理コストは最終的に20%程度削減できる見込みです。

メイ 運用管理コストを削減できるということは、ビジネスの効率化が進んだという証ですね。プロジェクトを支えてくれたNECには非常に感謝しています。

── 最後に今後の展望をお聞かせ下さい。

錦織 今回の取り組みはグローバルなシステム統合を見据えた最初のステップにすぎません。いち早く最適なシステムを実現する必要があります。
 とはいえ、統合と一言で言っても、どのようなプロセスで統合していくか、また、完全に統合するのか、主要地域ごとに統合するのかなど、様々な選択肢が考えられます。ですから、現在は海外の現地法人に直接足を運び、最適な方法について話し合いを重ねています。

メイ 繰り返しになりますが、玩具に「文化」「国境」「年齢」による壁はないと思っています。タカラトミーの魅力ある玩具によって、世界中の子どもたちに笑顔を届けたいですね。ITパートナーとして、NECのサポートにも大いに期待しています。