NEC 執行役員 榎本 亮 氏 × GEデジタル チャネル・アライアンス・ビジネス開発 ベンチャー担当 グローバル責任者 デンジル・サミュエルズ 氏NEC 執行役員 榎本 亮 氏 × GEデジタル チャネル・アライアンス・ビジネス開発 ベンチャー担当 グローバル責任者 デンジル・サミュエルズ 氏
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NECとGEの協業によって実現する
デジタル・トランスフォーメーション

 日本電気(以下、NEC)とゼネラル・エレクトリック(以下、GE)のデジタル関連機能を統合した組織であるGEデジタル(注1)がIoT分野で包括的な提携を発表した。両社は、ものづくりや社会インフラなど、さまざまな産業のグローバルな事業活動に革新と成長をもたらす「IoTソリューション」の提供を目指す。NECは、AIやIoTにおける先進技術を保有し、システム構築と運用において広範な技術と豊富な実績を保有している。GEは、産業用IoTのためのクラウド・プラットフォーム「PREDIX」で「インダストリアル・インターネット注2」をグローバルに推進している。NECとGEが提携することで、IoTソリューションの開発から導入、保守サポートにいたるまで一貫した体制が国内に構築される。これにより、先進かつ高信頼なIoTソリューションが提供可能となり、顧客企業のデジタル・トランスフォーメーションを支援していく。
 今回の提携における両社の指揮者、NEC 執行役員の榎本 亮氏と、GEデジタル Global Head Channels & Allianceのデンジル・サミュエルズ氏に、提携のインパクトと今後の展望について聞いた。

注1)顧客の課題を解決するためのソフトウエアを提供することを目的としたゼネラル・エレクトリック社の一事業部門。GEソフトウエアセンター、グローバルIT部門、各事業のソフトウエアチームと、2014年に買収したワールドテックのOT(オペレーション・テクノロジー)向けセキュリティ部門を統合した組織。

注2)自社製品のIoT化により得られたデータと分析による新たなサービスビジネスモデル。そのデータを取得するクラウド・プラットフォームがPREDIX。

社会価値の創造を支えるテクノロジー

── GEとNECは産業分野の顧客に向けて、それぞれどのような価値を持った製品・サービスを提供しているのでしょうか。

デンジル・サミュエルズ 氏

GEデジタル
チャネル・アライアンス・ビジネス開発
ベンチャー担当 グローバル責任者
デンジル・サミュエルズ

サミュエルズ GEは非常に大きな産業機器を取り扱っている会社です。例えば、航空用のジェットエンジン、石油・ガス精製工場、発電所など「産業」そのものを扱っているともいえます。また、GEは、世界の製造業における効率が1%改善すれば、今後15年間で1兆米ドル以上の経済価値を生むことができると試算しています。こういった理由から、GEは産業機器とデジタル技術の融合を推進しています。
 例えば、航空用のジェットエンジンでは、重大事故の要因となる飛行中の不具合が生じないよう、常に稼働状態を監視する必要があります。デジタル化されたエンジンは、エンジンブレードの一枚ごとにセンサーを取り付け、このセンサデータを基にブレードの性能や状況を「デジタルツイン注3」で再現しています。その結果、パーツ交換の必要性がリアルタイムに把握できるようになり、保守・メンテナンスの効率化や故障の予測にもつなげられました。これまでのエンジンの保守業務は、エンジンを脱着して検査を行わなければならず、非常に時間とコストがかかりました。また、問題が突発的に起きた時は、当然のように運航計画が乱れますし、原因究明や修理部品の調達などに長い時間を要します。デジタルツインを用いてジェットエンジンを監視することで、航空機の場合には1機あたりの稼働時間を上げることができ、航空会社は売り上げを伸ばすことができるのです。さらにデジタルツインは、ジェットエンジンのような製品単体だけでなく、発電所のような大きなシステムやオペレーションにも適用できます。

注3)実際に製造される製品や部品をバーチャル環境でテストするCAE(Computer Aided Engineering)テクノロジー。

榎本 亮 氏

NEC
執行役員
榎本 亮(えのもと まこと)

榎本 NECは社会価値創造企業として、社会が抱えるさまざまな課題をICTの力で解決していきたいと考えています。
 NECが社会課題としてフォーカスしているのは人口の問題です。人口には2つの側面があり、一つは日本の人口問題です。各統計によって数字は変化しますが、日本の人口は、2050年までに7割程度まで減少すると言われています。
 一方、世界全体でみると、現在70億人の人口が1.3倍になると言われています。その中でも、都市群の人口は35億人が1.8倍の63億人にまで増えていくと言われています。
 この変化に合わせて、水・食糧・エネルギーの需要が1.8倍前後に引き上げられると、地球2個分の資源が必要になると言われています。
 このような地球規模の変化に対し、NECは社会価値創造型企業として、ICTを活用することで課題解決を提示できるのではないかと考えています。
 今後、少子化による人口減少が進むと予測されている日本では、1億2000万人の国民が利用・運用することを前提にして作った社会インフラを、2050年時点の推定人口が7割程度に減少しても、確実かつ効率よく維持できるように作り変える必要があります。人口の減少による影響の一例として、空港やスタジアムのような大勢の人が集まる場所において、安全を確保するための要員をきめ細かく配置することができなくなる可能性があります。NECは高度な映像認識技術を活用し、群衆の中から一人を把握し、例えば不審者が混じっていても直ちに見つけ出すような顔認証技術を用いたシステムを開発・提供し、最小限の要員で安全を確保できるように目指します。

図1 NECとGEの提携によるIIoTソリューションの提供

図1 NECとGEの提携によるIIoTソリューションの提供

 また、電力の運用においても、NECの最先端AI技術群「NEC the WISE」注4の1つである「異種混合学習技術」を活用することで、運用データと複雑な付帯条件から電力需要を精緻に予測し、発電や配電の効率を上げることができるのです。NECの最先端AI技術は様々な場面において高い精度で活用できるまでになっています。

注4)「NEC the WISE」(エヌイーシー ザ ワイズ)は、NECの最先端AI技術群の名称。"wise"は通常、形容詞で「賢い」という意味で使われるが、"The WISE"とすると複数形の名詞「賢者たち」という意味となる。複雑化・高度化する社会課題に対し、人とAIが協調しながら高度な叡智で解決していくという想いを込めている。

図1 NECとGEの提携によるIIoTソリューションの提供

図1 NECとGEの提携によるIIoTソリューションの提供

第4次産業革命を加速

── GEとNECは共に、産業や社会が抱える問題を、新たな価値を持つシステムやサービスを提供することで解決しようとしているのですね。

デンジル・サミュエルズ 氏

サミュエルズ NECが提供する価値とGEが提供する価値は、世界の産業が継続的に成長していくための解になると確信しています。
 現在、あらゆる分野の産業が、「第4次産業革命」と呼ばれる大きな変革の中にあります。1991年から2010年にかけて、世界の産業の生産は年率4%ペースで向上してきました。これは、「シックスシグマ」「リーンマニュファクチャリング」「ジャストインタイム」といった、生産性を改善する手法による成果です。しかし、2011年以降は年率1%しか伸びていません。先に申したように、GEは「世界の生産性を1%向上させることで、1兆米ドル以上の価値が生まれる」と見ています。生産性の向上は、社会活動や雇用を維持・活発化していくために欠かせません。このため、新しい発想での生産性向上策が求められているのです。GEはNECと共に産業のデジタル化を推し進めることで、「第4次産業革命」を加速させていきたいと考えています。両社の提携は、かつての4%の伸びどころか、10%、20%と飛躍的な生産性向上も実現できる革命的ともいえる効果をもたらすことでしょう。

榎本 GEとNECは、IoTの進展によって得られる効果や効率、日本のIoT市場の規模について、同じような見通しを立てていました。そして、来たるべきIoT時代に備えて進めていた技術開発の到達点も、同様に高いレベルに達していました。GEとNECは共に、お客様にシステムやサービスを提供する前に自社内で活用して効果や運用方法を検証し、ブラッシュアップする文化があります。提携に先立ち、NECのエンジニアをGEの工場に、GEのエンジニアをNECの工場に派遣し、それぞれが自社内で構築して利用していた生産システムを見せ合うことで、お互いの改善案を提示する機会を設けました。その結果、両社とも非の打ち所がないシステムを構築していたことがわかり、信頼をより確かなものとしました。

両社の力を融合して新しい価値を創出

── NECとGEはお互いのどのような力を求めて提携に至ったのでしょうか。

榎本 亮 氏

榎本 GEの運用システムを詳しく見ていく中で、サプライチェーンが百数十カ国にまたがるエンジニアリングを管理するような大規模システムに関して、GEから学ぶことが多いと感じました。NECのソリューションは、お客様向けにカスタマイズした後、工事、据え付け、調整、とエンジニアリングを経て稼働しますが、それぞれの段階で物流が発生し、グローバルなビジネスではその経路が国をまたがって複雑になります。
 こうしたグローバルな物流の効率をどこまで引き上げるかが、以前から課題になっていました。ところが、その解はGEが既に持っており、PREDIXに取り込まれていたのです。そこで、自社でシステム開発するよりも、GEのシステムを活用した方が時間も費用も効率が良いと判断しました。今あるものを早期導入して検証・ブラッシュアップした方が、グローバルなビジネスを展開するお客様の要求にいち早く応えられるからです。

サミュエルズ GEはNECが保有する最先端のAI技術である画像認識や高度なITを活用することで、GEが蓄積してきたOTの結晶であるPREDIXの価値をさらに高めることができると考えました。
 これもジェットエンジンの整備を例に説明しましょう。NECは「物体指紋認証技術」と呼ばれる、世界最高レベルの画像認識技術を持っています。この技術を活用すれば、何百万本ものネジの中から違う種類の1本を瞬時に見つけ出すことができます。たとえエンジンに規格より短いネジを誤って打ってしまっても、外からネジ山の写真を撮影しただけで間違いを発見できます。いつ打ったネジであるかも分かります。この技術がPREDIXで利用できれば、ネジを打ったエンジンを画像で点検し、交換すべき部品が見つかれば、その準備や発注まで自動的に進めることができます。そのインパクトは計り知れません。

図2 GEが蓄積してきたOTとNECが磨き続けてきたITを融合し、IoT事業を拡大

図2 GEが蓄積してきたOTとNECが磨き続けてきたITを融合し、IoT事業を拡大

榎本 GEはNECの画像認識技術を紹介するビデオを見た後、このようにGE内で活用する方法を瞬時に発想されました。世界中の製造現場を知るGEの知見を生かせば、私たちが持つ技術を、より広く利用してもらえると期待しています。

サミュエルズ NECはIoT化された工場やプラントといった設備や産業機器をサイバー攻撃から守る、強力なサイバーセキュリティテクノロジーを保有しています。一方、GEはOTセキュリティテクノロジーで実績があるワールドテックを2014年に買収しました。これはGE製品に限らず、ネットワークで結ばれたお客様の産業機器を保護するためです。また、単に製品観点だけでなく、GEがお客様に対して行う脆弱性評価にも適用します。GEはNECとの提携により、従来から保有するOTのサイバーセキュリティとNECが持つITのサイバーセキュリティを融合させることができるのです。

 GEが蓄積してきたOTとNECが磨き続けてきたITを融合させて、一歩進んだIoTソリューションを生み出すこと。これこそ、両社が提携することによる最大のインパクトだと思います。

図2 GEが蓄積してきたOTとNECが磨き続けてきたITを融合し、IoT事業を拡大

図2 GEが蓄積してきたOTとNECが磨き続けてきたITを融合し、IoT事業を拡大

お客様に提供するのは機能ではなく成果

── これから両社で、どのような取り組みを進めるのでしょうか。

図3 両社が提携して取り組む6つのテーマ

図3 両社が提携して取り組む6つのテーマ

榎本 まず、6つのテーマに取り組んでいきます。
 1番目として、NECのソリューションやサービスのサプライチェーンでPREDIXを活用していきます。目的は、オペレーションエクセレンスを上げてコストも下げることです。そのプロジェクト経験を通じてPREDIXをどう活用するか、PREDIXとお客様の間に存在するシステムをいかに融合して最適化していくかのノウハウを確立し、基幹システムとも繋ぐことで最終的にはEnd to Endのソリューションを提供したいと考えています。
 2番目として、NECが保有する最先端AI技術群「NEC the WISE」のうちのいくつかを、PREDIX開発者向けサイト「PREDIX.io」上のマイクロサービスとして提供し、クラウドサービスとして世界規模に展開します。まずは、映像認識技術を対象にする予定です。
 3番目として、研修サービスの提供と認定技術者の育成を進めていきます。2017年度中に100名規模のエンジニアをPREDIXの認定技術者として育成します。その育成の過程で研修のノウハウも習得し、お客様に展開していきます。
 4番目は、保守とメンテナンスの提供です。NECの保守技術とリソースを活用して、日本のお客様が安心してPREDIXを導入・運用できる体制を整えます。NECは製品を売って完了という会社ではありません。最後までお客様に寄り添い、成果が出せるように支援していきます。
 5番目は、先にサミュエルズさんから紹介があったITとOTを融合させた産業用のサイバーセキュリティの提供です。
 6番目として、両社でPREDIXに関する「アウトプット」ではなく、お客様への「アウトカム(成果・成功)」をコミットしたような共同マーケティングを実行していきます。NECが自社で導入して得たノウハウと、GEがグローバルなお客様から得たノウハウの双方を生かし、日本と世界のお客様に新しい価値を持ったIoTソリューションを提供していきます。

図3 両社が提携して取り組む6つのテーマ

図3 両社が提携して取り組む6つのテーマ

サミュエルズ NECとはベンダーの関係ではなくパートナーの関係です。パートナーとは、投資をし、人を育て、一緒に成長する関係です。NECとGEがお客様に提供したいのは「IoTシステム」ではなく「成果」です。両社の技術を生かして生産性の向上、コストの削減、リスクの最小化などが達成されることを最優先で考えていきます。

── 強力な組み合わせが生み出すIoTソリューションが、これから多くの産業にどのような変革をもたらすのか楽しみです。

榎本 実は、NECの創業者である岩垂邦彦は、創業前の2年間、GEの前身であるエジソンマシンワークスで、トーマス・エジソンと共に技術者として過ごしました。奇しくも約120年経った今、次の時代の産業を支える役割をGEと共に担うことになり、運命的なものを感じています。
 これから進む第4次産業革命の中で、NECは、お客様の成果をGEと共に考えることで、グローバルなビジネスを展開するお客様のパートナーとして、さらに役立てる企業になりたいと考えています。