経営に革新をもたらす新次元のAI「予測分析自動化技術」とは経営に革新をもたらす新次元のAI「予測分析自動化技術」とは

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 業務データやセンサデータなど、膨大なデータがビジネスの現場に日々蓄積されている。これらのいわゆるビッグデータを素早く分析し、次の打ち手につなげることは、企業にとってきわめて重要な経営課題となってきている。
 世界のトップ企業では「予測分析技術(Predictive Analytics)」に注目が集まっている。データ分析から“予測モデル”をつくるテクノロジーだ。未来が高精度に予測可能になれば、ビジネスチャンスは飛躍的に増大する。顧客の行動を先取りしたり、部品の故障発生を予測するなど、業種業態を問わずその活用が広がりつつある。
 日本電気(以下NEC)は、独自の「予測分析自動化技術」を昨年末に発表、2017年度中に顧客に提供できるよう準備を進めている。これは最先端のAI技術群「NEC the WISE」を駆使した新技術だ。昨年行ったNEC、三井住友銀行(以下SMBC)および日本総合研究所の共同実証実験では、SMBCの業務現場でこれまで2~3カ月かかっていたデータ分析作業が、新技術を使うと1日足らずに短縮でき、しかもこれまでと同等以上の分析精度を達成できたという。
 この予測分析自動化技術の開発に携わったNECデータサイエンス研究所の若き主席研究員、藤巻遼平氏にこのテクノロジーがビジネスにもたらすインパクト、そしてこれからの展望について話を聞いた。

「予測分析自動化技術」開発の背景とは

藤巻 遼平 氏

NEC
データサイエンス研究所 主席研究員
藤巻 遼平 (ふじまき りょうへい)

── NECデータサイエンス研究所の主席研究員として、藤巻さんの業務をお聞かせください。

藤巻遼平(以下、藤巻)今日は慣れないスーツですが、普段はTシャツを着て仕事をしています。

 私自身の研究拠点は北米をベースに、中国、日本の3カ所にあります。率いている開発チームはインドとヨーロッパ、そして日本にあり、お客さまは北米を中心に世界各国に広がっています。そのため、私は2~3週間に一度は出張しており、どこでも研究をしているような状態です。

 私自身は、機械学習のアルゴリズムを得意としている研究者ですが、単にアルゴリズムを研究するだけでは本当に競争力のある技術をつくることはできません。そこで、基本原理の開発とともに、お客さまとの議論や市場調査を繰り返しながら、技術と市場のビジョンを描くことが最も重要な仕事です。このビジョンにしたがって、様々な専門性を持つ世界中のメンバーの力をまとめて技術をつくります。

── この度開発された予測分析自動化技術はどのようなもので、どのような導入効果が望めるのか、また、NEC独自のテクノロジーについてもお聞かせください。

欧州の開発チームと。欧州の開発チームと。

藤巻 予測分析自動化技術とは、企業内に蓄積される業務データをAIが自動的に分析し、ビジネス課題を解決する予測モデルを自動で作成するものです。例えば、製品やサービスを購入してくれるのはどのような人なのかという見込み顧客が事前に予測できれば、宣伝広告や販売促進キャンペーンを実施するときに効率よく売上げをUPすることができるでしょう。他にも店舗在庫や欠品削減に役立つ需給予測、工場における部品の故障を予知する故障予測など、高精度な予測分析は様々な業種や業務で不可欠なものとなりつつあります。

 これまでは、熟練のデータサイエンティストが仮説を立て、予測モデルを構築してきました。しかし、仮説を立てるには膨大なデータを整備し、どのデータに注目するかといった特徴量を作成し、機械学習のアルゴリズムをチューニングして、高精度な予測モデルが得られるまで試行錯誤を繰り返します。データサイエンティストは数学や統計数理といった専門知識を備えた人材ですが、そうした人材をもってしても1つの予測モデルを作成するのに何カ月もの時間を要してしまうのが現状です。そもそもそういった人材は世界的に不足しており、お客さまが社内に抱えることも容易ではありません。

欧州の開発チームと。写真 欧州の開発チームと。
図1 NECが実現する予測分析自動化の価値図1 NECが実現する予測分析自動化の価値
図1 NECが実現する予測分析自動化の価値図1 NECが実現する予測分析自動化の価値

 ビジネス環境の変化に俊敏に対応していくことが求められる今日の企業環境において、予測モデル作成にかかる時間は非常に大きな課題です。そこでNECは、予測分析自動化技術のコアとして「特徴量自動設計技術」と「予測モデル自動設計技術」を開発しました。特徴量自動設計技術は業務システムで幅広く使われるリレーショナルデータベースから、特徴量を自動で設計します。これにより、分析経験やデータに対する知見に頼っていた特徴量の仮説立案や、データベースを操作して特徴量を作成する多大な作業が不要となり、分析を大幅に短期化・省力化することができます。また、人手による分析をはるかに越える大量の仮説探索を短時間で実行できるため、分析結果の高精度化や、人が気づかない新しい知見の発見も可能になります。一方、予測モデル自動設計は様々な機械学習手法を用いて作成された大量の予測モデルから、ユーザーが目的とする分析結果に最適な予測モデルを選択、あるいは組み合わせを行います。その結果、予測分析自動化技術によって、データ分析にかかる時間を圧倒的に短縮することができました。これらは顧客の経営戦略の質を高め、企業価値をいち早く大きくするというベネフィットを提供することにつながります。そうした点でこの技術は、データサイエンティストの役割に変革をもたらす可能性を秘めているともいえます。

図2 NECの特徴量自動設計技術図2 NECの特徴量自動設計技術

── データ分析のニーズが高まる一方で、データサイエンティストの不足は切実な課題ですね。

図2 NECの特徴量自動設計技術図2 NECの特徴量自動設計技術

藤巻 商品・サービスがあれば、それを誰が買ってくれるのかを企業は知りたい、という話をしました。一方で、購入して使っているお客さまのうちどういう人がその利用をやめてしまうのか、つまり離反や解約の予測や、さらに優良顧客になり得る人、つまりロイヤリティの向上が見込めるのはどういう人かといった予測なども不可欠です。それだけモデルがたくさん必要になるため、さらに多くのデータサイエンティストを配置する必要があります。日本ではまだ顕著ではないかもしれませんが、人材不足は今後さらに切実な問題になってくると考えています。

 すでに北米では上級データサイエンティストの囲い込みがはじまっており、優秀な分析人材の確保が経営課題となっています。データサイエンティストの不足に応じて、ビジネスアナリストやデータエンジニアがデータ分析を行う市民データサイエンティストと呼ばれる人材も出てきています。これに対し、予測分析自動化技術を活用すれば、市民データサイエンティストが上級データサイエンティストと同等以上の精度で各種予測モデルを作成できるようになり、人材不足という課題を解決することができます。

「ナゼ?」が分かる「ホワイトボックス型」AIエンジン

── NECの予測分析自動化技術の強み、さらに他社との差別化ポイントについてお聞かせください。

藤巻 最近では、ディープマインド社のアルファ碁などで注目されている「ディープラーニング」というAIテクノロジーがあります。これはニューラルネットという機械学習モデルとその周辺技術の総称です。我々の最大の差別化ポイントは、業務データが蓄積されるリレーショナルデータからの特徴量と予測モデル作成を自動化している点です。これはディープラーニングを含め、既存の技術にはできないことです。

 また、ディープラーニングは特定分野でブレークスルーとなる高精度の予測をしている代わりに、その結果に至った理由を説明できない「ブラックボックス型」といわれています。一方で、分析部門が作成したモデルをビジネス部門が利用する場合や、政府など公共の利益にかかわる予測を実施する場合など、現実の予測分析では「なぜ」そのように予測したのかという問に答える必要があります。その点、予測分析自動化技術では、AIが自動的に設計する特徴量やそれを組み合わせた予測モデルを可視化し、どのようなロジックによってモデルが導き出されているのかを明確にすることが可能です。これを「ホワイトボックス型」のAIと呼んでおり、我々の技術のユニークな特長の一つです。

図3 NECの予測モデル自動設計技術図3 NECの予測モデル自動設計技術

── NECが予測分析自動化技術を広く市場に提供していこうと考えたのは、どのような動機からでしょうか。

図3 NECの予測モデル自動設計技術図3 NECの予測モデル自動設計技術

藤巻 NECでは、例えばコンビニの店舗に向けた自動発注ソリューションや、ハードウェア製品を提供するメーカーに向けた予防保全のソリューションなど、予測分析に基づく様々な課題解決に向けた提案を行っています。そこではNECがお客さまのデータをお預かりしてモデルを作成し、使っていただくという方法をとっており、予測分析の自動化は、元々NEC内部の分析を効率化するために研究開発が進めていました。一方で、データ分析は企業の成長を左右するほどに重要となっており、お客さま自身が分析部門を設立され、インハウスでの分析を高度化する動きが顕著になってきています。しかし、我々も苦労するように、高精度な予測モデルを作成するのは決して簡単ではありません。そこでこの状況を逆に勝機と捉え、お客さま自身による高度な予測分析を可能とするプラットフォームとして、市場への投入を決断しました。

処理性能がさらに向上すれば、ビジネスに新たなイノベーションが生まれる

── すでにSMBCや日本総合研究所と、予測分析自動化技術の実証実験をしたそうですが、その内容についてお聞かせください。

藤巻 実証実験ではSMBCさまが扱っている金融商品において、その商品をどういうお客さまが買ってくれるかなど、いくつかのテーマを設定しました。それらのテーマは、過去にSMBCさまのデータサイエンティストが銀行内で蓄積された膨大なデータ(お客さま情報、入出金情報、アクセスログ等)を機械学習技術で横断的に分析することで、個々のお客さまのニーズを推定し、お客さまに合ったサービスのご提案を進めておりました。しかし、従来の機械学習技術では1つテーマを分析するために、複数のデータサイエンティストからなるプロジェクト体制と、2~3カ月もの時間がかかるという問題がありました。そのため、近年多様化しているお客さまのニーズ、そのニーズの背景、お客さまが提案を望むタイミングや手段などを推定するための細かな分析が十分にできないという課題がありました。そこに予測分析自動化技術でモデルを作成し、両者の間で答え合わせを行うという検証を行いました。結果、予測分析自動化技術が1日で作ったモデルでは、かつてデータサイエンティストが2~3カ月を要して作ったモデルと比べて、同等あるいはそれをしのぐ精度を実現できることが確認できました。この実験からも分かるように、スピード感がまったく異なるのです。

 今回はあくまでも技術の検証ということで、そのモデルを使ったキャンペーンなどの施策を展開するというところまでは進めていませんが、実際にそうした運用に入れば当該商品の成約率を確実に向上させていくことができるはずです。

藤巻 遼平 氏

── 予測分析自動化技術で描いている今後のロードマップについて教えてください。

藤巻 今後、お客さまにご提供する形態はいくつかのアプローチが考えられますが、有力な選択肢として我々が考えているのがクラウド型のSaaS(Software as a Service)による提供です。予測分析自動化技術のプラットフォーム自体をサービスとして、お客さまにご利用いただくことになります。また、自社でモデルを作成することにこだわらないお客さまに対しては、NECがデータをお預かりし、1日でモデルを作成し提供するという方法も考えています。その他にも、NECがシステム構築などによってお客さまに提供するソリューションの中に予測分析自動化技術を組み込むという方法も考えられます。

 現在、そうしたいくつかのパターンを候補に検討を進めているところで、2017年度中には日本および北米市場において、提供を開始する予定です。その後、北米以外のグローバル市場へも順次展開していきたいと考えています。

 おそらく当初は大手企業さまを中心に導入の検討が進むものと想定していますが、クラウド型での提供など、最終的には中堅中小規模の企業のお客さまにも手軽にご利用いただける形に整えていく予定です。

 もちろん、並行して技術自体のさらなるブラッシュアップも図ってまいります。例えば、テキストデータなどの非構造データを含めて扱えるデータの幅をさらに拡げていくことは、ひとつの大きな課題です。また、性能の向上も目指していきたいです。現在でも予測分析自動化技術では、これまで人の手によって2~3カ月かかっていたモデルの作成を1日で行うことが可能ですが、それが1時間でできるようになれば、あるいは1分でできるようになれば、まったく新しいユーザーエクスペリエンスとなり、分析の世界を大きく変えることができます。

 今後もNECは、予測分析自動化技術がもたらす価値の提供を通じて、お客さまのビジネスにおけるイノベーション創出に貢献していきたいと考えています。

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