クラウドが勝ち抜けのための武器になる

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想像もしていなかったライバルが登場し、瞬く間に成長。業界に大きなインパクトを与える──。様々な業界で、このような変化が起こっている。背景にあるのはICTの進化だ。ICTによって、ビジネスを全く新しいものに構築し直したり、アイデアを容易に具現化できたりするようになった今、すべての企業が「デジタイゼーション(デジタル化)」への対応を迫られている。では、そのためには、どのようなプラットフォームが必要なのか。多くの企業のICT戦略を支援するNECのキーパーソンに話を聞いた。

ICTでビジネスの再定義、創出に挑戦
デジタイゼーションへの対応が浮沈を左右

畔田秀信氏

NEC
C&Cクラウド基盤戦略本部 主席主幹
畔田 秀信(あぜた ひでのぶ)

── ICTは、ますますビジネスの成長を左右するようになっています。企業のICT活用におけるトレンドの変化をどのようにとらえていますか。

畔田 今日、企業にとってはビジネスの「デジタイゼーション(デジタル化)」が重要なテーマの一つとなっています。例えば、有名なのがICTを活用して、タクシー配車の領域に参入し、急成長を遂げたUberです。同社の登場は「Uberization(ウーバライゼーション)」という造語を生み出すほどインパクトの大きなものでした。ICTを使って既存のビジネスを再定義したり、新たなイノベーションを創出したりすることが、現在、そして今後の市場を勝ち抜いていくために不可欠になっています。そのためには、スマートフォンやSNS、IoT(Internet of Things)、AI(人工知能)など、最新の技術とビジネスをどのように融合させるかを考えなければなりません。Uberのように新たな価値を生み出す「SoE(Systems of Engagement)」の領域はもちろん、企業の基幹システムなど「SoR(Systems of Record)」の領域にも目を向け、互いを連携させながらICT全体を最適化。商品・サービス開発サイクルの高速化、ビジネスプロセスのさらなる効率化などを図っていく必要があるのです。

多種多様なニーズにトータルに応える
包括的なクラウドソリューション

図1NEC Cloud Solutionsの体系 図1 NEC Cloud Solutionsの体系※2016年度以降順次提供予定 サービスとして提供するSaaSやPaaS、IaaS、オンプレミス環境のシステム基盤構築を支援するソリューションなど、ビジネスのデジタル化を支えるメニューを網羅。随所にシステムインテグレーターとして、多くの顧客のビジネスを支援してきたノウハウ、知見が生かされている

── ビジネスのデジタル化のためにNECは、どのような支援を行っているのでしょうか。

畔田 様々な取り組みを行っていますが、「NEC Cloud Solutions」として多様なメニューを体系化し、クラウドの活用を支援しています(図1)。複数のアイデアを他社に先駆けて形にし、トライ&エラーを高速に実践するなど、ビジネスに求められるスピードなどを考えるとクラウドの利用は避けて通れないからです。

── 具体的には、どのようなソリューションなのでしょうか。

畔田 一般にクラウドという言葉から想起するのは、ネットワークを通じてICTリソースを利用するサービスのことだと思います。しかし、そのようなクラウドサービスだけで、ビジネス活動のすべてをカバーできるわけではありません。
 例えば、セキュリティポリシーにより、データを社外に出したくないという企業は、オンプレミス環境にクラウドを持ちたいと考えます。このようなニーズに対応するには、サービスとして「利用」するクラウドと、お客様が「所有」するオンプレミスのプライベートクラウドを適材適所に使い分けつつ、互いを連携させていかなければなりません。また、「所有」には、自社のサーバ資産をデータセンターに預けるハウジングサービスという選択肢もあります。
 他にも、あらかじめ用意された機能で対応できる業務にはSaaSを利用する、ビッグデータ分析を行うために分析機能が実装されたPaaSを活用するなど、クラウドは様々なニーズに応えていかなければなりません。  こうしたお客様ごとに異なる多種多様なニーズにトータルに応えられるよう、「NEC Cloud Solutions」は、「導入・運用」「セキュリティ」「クライアント」「アプリケーション」「プラットフォーム」「データセンター」「ネットワーク」というすべてのレイヤーを網羅したソリューションとなっています。

図1NEC Cloud Solutionsの体系 図1 NEC Cloud Solutionsの体系 ※2016年度以降順次提供予定 サービスとして提供するSaaSやPaaS、IaaS、オンプレミス環境のシステム基盤構築を支援するソリューションなど、ビジネスのデジタル化を支えるメニューを網羅。随所にシステムインテグレーターとして、多くの顧客のビジネスを支援してきたノウハウ、知見が生かされている

── 「NEC Cloud Solutions」には、新旧様々なソリューションが含まれています。それらをどのように体系化しているのでしょうか。

畔田 適材適所に導入しつつも、あらゆるシステムを一体的に利用できるよう「連携」を強く意識しています。
 プラットフォームのレイヤーでは、IaaSである「NEC Cloud IaaS」、PaaSである「NEC Cloud PaaS」、そして、オンプレミス環境でのプライベートクラウド構築を支援する「NEC Cloud System」というソリューションを提供しており、ニーズに応じて適材適所に使い分けることができますが、これらは互いに親和性の高いソリューションとなっています。
 例えば、PaaSの領域では、オンプレミスにクラウドを構築する「NEC Cloud System」と、サービスとして利用できる「NEC Cloud PaaS」で、開発・実行環境、ビッグデータ分析基盤、IoT/M2Mプラットフォームなどを共通化していきます。
 また、「NEC Cloud IaaS」の提供拠点であるデータセンターにはハウジング環境も併設。互いがLAN接続されており、ハイブリッドな環境を容易に実現できます。さらに、AWS(Amazon Web Services)やMicrosoft Azureといった、他社のクラウドサービスとも専用線によって閉域網接続が可能で、マルチクラウド環境をセキュアに運用できます。
 NECのセキュリティに関するノウハウ・体制をソリューションとして提供する「NEC Cyber Security Solutions」を活用すれば、連携されたクラウドの安全性をさらに高めることも可能です。

── 自社の技術に加えOpenStackも有効活用と聞きました。OpenStackコミュニティでは、NECエンジニアの活躍が目立ちます。それが、ソリューションに還元されているのですね。

畔田 ありがとうございます。「NEC Cloud IaaS」のスタンダードサービスでは基盤技術にOpenStackを採用し、すでに多くのお客様にご利用いただくなど、NECはOpenStackの商用利用を他社に先駆けて実践してきました。そこで培った多くのノウハウをOpenStackの開発コミュニティに還元。その進化に大きく貢献していると自負しています。  
 「NEC Cloud System」のOSS版では、お客様のニーズに応じてOpenStackをカスタマイズすることがありますが、それらもコミュニティに還元しています。これは、お客様システムのオープン性を保つための取り組みでもあります。

独自技術を駆使したPaaSの拡充に注力
IoTやビッグデータ分析を即座に実行可能

── ソリューション間の連携以外には、どのような強化を行っていますか。

畔田 各ソリューションそのものの進化にも積極的に投資を行っています。
 「NEC Cloud System」には、あらかじめ用意された構成に基づいて、非常に素早くプライベートクラウドを構築できるレディメイド型のソリューションがありましたが、ここに、より自由度の高い環境構築を行えるセミオーダー型のモデルを新たに追加しました。
 また、「NEC Cloud PaaS」は、昨今、ニーズが高まっているIoTの活用を支援すべく、各種センサーデバイスからの情報を収集・活用するためのM2M(Machine to Machine)基盤サービス「CONNEXIVE」を提供しています。このCONNEXIVEは、すでに製造業のお客様のシステムや、農業ICTクラウドサービスの基盤として豊富な実績を持つサービスです。
 他にも、基幹システムとクラウドを連携させるための「Enterprise Gateway」というサービスがあります。SAP ERPといったオンプレミスの基幹システムとSalesforceのような外部にあるクラウド間の連携が容易かつ柔軟に行えます。
 もちろん、今後もソリューションの拡充は継続します。特にPaaSの領域において、NECはビッグデータやIoTの活用に役立つユニークな技術を多数保有しています。例えば、機械学習や群衆行動解析、「NeoFace」による顔認証、「GAZIRU」による物体画像認識などです。
 これらの技術を駆使して、売り上げ拡大につながる高度な顧客行動の理解、犯罪・事故件数の低下に貢献できる低コストかつ高性能な監視などを実現。お客様の新たな価値創出に貢献していきます。

── 「NEC Cloud Solutions」の各ソリューションを利用して成果を上げている企業の事例を教えてください。

畔田 牛乳・乳製品などの卸売を行う明治フレッシュネットワーク様は、販売データ分析、WMS(Warehouse Management System)などの基幹業務システムを「NEC Cloud IaaS」に移行。性能と可用性を保ちながら、システム機能の統合を図ってサーバの集約・共有化を進め、運用コストの大幅削減、販売分析の精度向上をあわせて実現しています。
 また、ビジネススーツからカジュアル、レディースなどの衣料の販売事業を展開するAOKI様は、顧客管理、MD(マーチャンダイジング)、顧客向けスマートフォンアプリなどの基盤として「NEC Cloud IaaS」を採用。顧客数やデータ量の増大に対応した柔軟なシステムの拡張、顧客ニーズに合わせた新サービスのスピーディーな立ち上げを実現できる体制を整えています。

クラウドは業種・業態の垣根を越えた
新たな価値を創出するプラットフォームへ

図2クラウドによる新たな価値の創出 図2 アサヒビールが実施した発売後予測のグラフ クラウドというプラットフォームを活用することにより、新たな価値を生み出す「SoE(Systems of Engagement)」、企業の基幹システムなど「SoR(Systems of Record)」両方のシステムを実現し、さらには業界の垣根を越えた新たな価値を創出していく

── 今後の展望をお聞かせください。

畔田 今後、クラウドを活用したサービスの高度化はますます加速するでしょう。例えばイベント会場では、IoTや顔認証の技術を活用して、入場時だけでなく、買い物の決済も顔パスで行えたり、不審な行動をしている人を自動発見して事件を未然に防ぐなど、今まで以上に便利かつ安全・安心な環境を実現できるようになります。
 この例では、イベント主催者、小売、メーカー、決済を担う金融業、会場提供者、セキュリティ会社など複数のステークホルダーが、クラウドというプラットフォームの上で連携し、新たな価値を創出しています。このような世界の実現に向けて、クラウドは、あらゆる業界が連携して新たなビジネスを起こせる「マルチサイドプラットフォーム」へと進化を遂げていくことになります。ますます、業種・業態の垣根は低くなり、企業間のコラボレーションが重要になるでしょう。だからこそ今、セキュアでオープン、どんなニーズにも即座に対応できるクラウドを活用したプラットフォームの構築が必要なのです。
 NECは、システムインテグレーターとして多種多様な業種・業態のお客様の支援を行ってきました。お客様のビジネスイノベーションを共に考えている人材も多数います。このような経験やノウハウ、人材を積極的に活用しながら、お客様が何を求め、ビジネスの成長に何が必要かを考え、今後も「NEC Cloud Solutions」の強化、拡充を図っていきます。

図2クラウドによる新たな価値の創出 図2 アサヒビールが実施した発売後予測のグラフ クラウドというプラットフォームを活用することにより、新たな価値を生み出す「SoE(Systems of Engagement)」、企業の基幹システムなど「SoR(Systems of Record)」両方のシステムを実現し、さらには業界の垣根を越えた新たな価値を創出していく

※本企画は日経BP社の許可を得て、「日経コンピュータ」2016年3月3日号に掲載された内容より転載したものです。

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