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先物・オプション投資の魅力

先物・オプション投資の魅力

現物とは異なる収益機会として注目が高まる先物・オプション取引。
個人投資家の参加も拡大する先物・オプション取引の魅力や投資戦略を紹介する。

  • オプション取引ABC
    第5回

    オプションを使った戦略:その1

    伊藤 祐輔
    シンプレクス・インスティテュート 代表取締役
     

    前回、オプションの価格特性として次の4つを説明しました。

    特性1:「日経平均が上昇するにつれ、コールの価格は加速しながら上昇する」
    特性2:「日経平均が下落するにつれ、プットの価格は加速しながら上昇する」
    特性3:「満期日が近づくにつれ、オプションの価格は下落する=タイム・ディケイ」
    特性4:「ボラティリティーが大きくなると、オプションの価格は上昇する」

    これらをもとにオプションを使った売買戦略を考えていきます。ここでは「大損」につながる可能性のある技術的に難しい戦略は避け、オプションの初心者でも実行可能な戦略のみを扱うことにします。今回は、単純な「オプション買い」の戦略について考えてみましょう。

    オプション買いは「タイム・ディケイ」との戦い

    伊藤 祐輔氏 シンプレクス・インスティテュート 代表取締役
    伊藤 祐輔氏
    シンプレクス・インスティテュート
    代表取締役

    オプションの買いという戦略は「損失限定、利益無限定」などといわれ安全な戦略ですが、実は利益を出すのは意外と難しいのです。その理由は上記の特性3「タイム・ディケイ」にあります。

    図表1をご覧ください。この表は日経平均がちょうど21,500円のときに満期日の15日前に行使価格21,500円のコールを280円で買い、その後満期日までに日数が経過するにつれ、日経平均をいろいろと動かしてみてコールの価格がどうなるかを計算した結果です。

    図表1 「コール買い」のオプション価格の変化
    図表1 「コール買い」のオプション価格の変化

    図表1で、例えば①の状況では、日経平均が21,700円で満期日12日前ならコールの価格は360円であり、280円で買ったコールからは80円(=360-280)の利益となります。一方②の状況では、日経平均が同じ21,700円であっても満期日当日ならコールの価格は200円となり、この場合は損失80円(=200-280)となります。どちらの場合でも日経平均21,700円でありコールを買った時点の21,500円から200円上昇していますから、特性1によれば利益が出てもよさそうです。しかし実際には利益が出るのは満期日12日前の場合であり、満期日当日では損失が発生してしまいます。

    この理由は、ご想像の通り、特性3のタイム・ディケイのためです。つまり、コールを買った時点より日経平均は上昇したとしても、その上昇に長い時間がかかってしまうと、日経平均の上昇から生まれるコールの価格上昇をタイム・ディケイが打ち消してしまうのです。

    もし日経225mini(先物)を買っているのであれば、日経平均が21,500円から21,700円まであっと言う間に上昇しようがゆっくり上昇しようがどちらの場合でも利益は確実に出ます。しかし、「コール買い」では日経平均の上昇のスピードで結果に差が出ます。このことは、「日経平均が上昇する」と読み、仮にその読みが正しかったとしてもコール買いという戦略から利益が出るとは限らない、ということを意味します。単に「日経平均の上昇に賭ける」だけであれば、タイム・ディケイを気にしなければならないコール買いよりも「先物買い」の方がリスク要因のひとつ少ない戦略ということになります。

    ではどういう場合なら日経平均の上昇にコール買いが有効な戦略となるのでしょうか。その答えは、将来のある時点で起こる「出来事」の結果として日経平均が上昇する場合ということになります。例えば、「5日後に総選挙があり、その結果によっては日経平均が高騰するかもしれない」といった予想がたつときです。この予想のもとで総選挙の前日にコールを買い、開票結果が出たらとっとと売り払うのがタイム・ディケイの悪影響を受けない賢明な方法です。つまり「漫然とオプションは買わず、買って利益が出たらさっさと利食う」ということになります。

    一方の「単純なプットの買い」という戦略はどうでしょうか。もちろんプットであってもタイム・ディケイの呪縛からは逃れることはできませんが、プット買いが役に立つのは特性2からわかるように日経平均が大きく下落するときなので、このときは特性4が力を貸してくれます。つまり、相場が崩れるときにはボラティリティーが上がることが多く、しかも、大きな下落は短時間に起こりますので、これらが相まって「プット買い」の威力をまざまざと見せつけてくれることがあります。その典型的な例は第2回でご紹介した2018年10月10~11日の例です。

    このように、コール買いでもプット買いでも「オプションの単独買い」の戦略はタイム・ディケイとの戦いとなり、長期的な戦略ではありません。先物売買であれば利益が出るまで長期間待つということも可能なのですが、オプション買いでは「持久戦」は多くの場合勝ち目のない戦いになります。これが最初に申し上げたオプション買いが案外難しい戦略の理由です。

    オプション買いは価格の安いものがおすすめ

    ここまでの議論で、オプション買いは損失限定という安全性の高い戦略である代わりに、タイム・ディケイのために利益を出すことがやや難しい戦略であることが明らかになりました。しかし、利益が出るときはとてつもなく大きな利益となる可能性があるので、あきらめるにはちょっと残念です。何かうまい方法はないのでしょうか。

    問題の本質はタイム・ディケイにあることは言うまでもありません。時間がたつにつれ、オプションの買いからはじわじわと損失が発生し、毎日それを見ているのは楽しいものではありません。でも、もしオプションの代金が安かったら失うものはその安い代金だけなのですから、タイム・ディケイの影響もそう痛手にならないのではないでしょうか。例えば、5円とか10円の価格のオプションを買えば、実際の買い代金はその1,000倍の5千円や1万円ですから「宝くじ」を買ったようなものです。

    では価格の安いオプションはどういうオプションなのか。それは次の2タイプのオプションです。

    1. 満期日が近く権利行使価格が高いコール
    2. 満期日が近く権利行使価格が低いプット

    図表2をご覧ください。これは満期日7日前の安い価格のオプションの実例です。この図では日経平均が21,575円程度のときに、行使価格21,875円のコールの価格が17円、行使価格22,250円のコールの価格は2円であることがわかります。また、プットの価格については、行使価格が20,375円のものは6円、行使価格が20,000円なら3円という安さです。これらの安いオプションが利益を生むためには満期日までの7日の間に日経平均が1,000円程度上昇、あるいは、下落しなければなりませんが、こういったことは年に2度や3度あることです。その典型を第2回の例ではご覧いただいています。そこでは3円のオプションが240円に「大化け」していましたね。

    図表2 価格の安いオプションの実例
    図表2 価格の安いオプションの実例

    実は日経オプションには「Weeklyオプション」と呼ばれるものが上場されており、満期日は金曜日ごとに毎週やってきます。ですから満期日まで数日というオプションは常にあり、価格の安いオプションはいつでも買うことができるのです。

    こういった安いオプションをまさに宝くじを買うような気分で1枚買うのも楽しいものです。お金があるのなら1枚と言わずもっと買ってもいいのですが、まずは1枚から始めてみましょう。これならタイム・ディケイをあまり気にせず、毎週楽しむことも可能です。

    今回は、オプション買いの戦略についてお話ししました。次回は「オプション売り」を用いた戦略をご紹介したいと思います。今回の内容をさらに詳しく学習したい方は、大阪取引所の提供する「OSE先物・オプションシミュレーター」の「基本戦略:コール買い」、「基本戦略:プット買い」や「チャレンジ オプションを自由に取引してみる」の実施をぜひお勧めします。オプション売買を仮想体験しながら学ぶことができる無料のツールです。

    伊藤 祐輔
    シンプレクス・インスティテュート 代表取締役
    1983年早稲田大学大学院理工学研究科後期課程修了。89年ソロモン・ブラザーズ・アジア証券(現シティグループ証券)に入社し、株式部長、株式デリバティブトレーダーとして活躍。インドスエズ・ダブリュ・アイ・カー証券(現クレディ・アグリコル証券会社)を経て、2000年シンプレクス・インスティテュート代表取締役就任。03年から名古屋商科大学大学院教授、10年から14年まで早稲田大学大学院ファイナンス研究科非常勤講師、15年から多摩大学大学院客員教授を兼任。