今回からは、株価指数先物を使ってどのような投資戦略が可能になるのかを具体的に見ていくことにしましょう。
先物の特徴は、なんといっても取引のしやすさです。
一定の証拠金さえ拠出すれば、取引時間中にいつでも自由に取引できます。先物ならではの特徴として、相場観にあわせて買いからでも売りからでも入ることができます。
図表1では、2018年における代表的な株価指数先物と株式現物の1日平均の売買金額を示しています。先物は、株式現物の取引よりも、はるかに大きな金額で取引されていることが分かります。個人投資家がもっとも手軽に行える日経225miniに限っても、1日平均で2.4兆円も取引されているのです。取引のしやすさを意味する市場流動性が非常に高く、利便性の高い市場であることが十分にうかがえます。
また、後でまた取り上げますが、先物は指数を売買するものなので、個別企業に投資をするのと違って市場全体の動きに合わせて機動的に取引することができる点も大きなメリットの一つと考えられます。
こうした取引のしやすさから、比較的短期の相場動向を予想して売買するのに、先物はとても適しています。
上記の取引のしやすさは、リスク回避(ヘッジ)手段としての優れた特質にもなります。
たとえば、現物株に投資をしていて、相場の雲行きが怪しくなったとします。投資をしているその企業自体に懸念材料が出てきたのであれば、その株を売ってしまうというのがリスクヘッジの一番いい手段かもしれませんが、個別企業にではなく市場全体に不安材料があり、短期的にリスクを減らしておきたいというニーズが生まれることがあります。このような短期的な市場リスクのヘッジに、先物は最適な手段となるのです。
ただし、気を付けなければいけない点もあります。個別企業の株価は株価指数とは必ずしも連動しません。(図表2)
例示したケースだと、個別株の動きが指数に比べて非常に大きいので、そのまま同金額でヘッジをしても有効なヘッジとはならないのです。そのためヘッジ取引の比率を調整する必要が出てきます。この調整のやり方は次回説明しますが、比率を調整してもやはり乖離(かいり)が大きく残る場合があります。この乖離は、個別株特有の変動要因によって生まれるものです。そのような個別企業の要因によって株価が大きく変動するリスクに対しては、先物のヘッジは有効ではありません。先物によるヘッジはあくまでも市場全体の変動リスクをヘッジするためのものなのです。
そのため、単独銘柄のときよりも、複数の銘柄を組み合わせて投資しているときの方が、先物のヘッジは有効に働きやすくなります。そして、投資する現物株の銘柄数が増えるほど、先物のヘッジは有効性を増していきます。
今まで述べてきたように、先物は短期目的で機動的に売買をするのに適しています。でも、もう一つ先物の大きな特徴がありました。それは株価指数に直接投資ができるという点です。
企業の事業内容や決算の状況をじっくり調べ、優良な銘柄を発掘して長期にわたって投資をするというのは株式投資の醍醐味の一つです。でも、そうしたスキルを持ち合わせ、労力や手間暇もかけられる投資家は必ずしも多くはありません。それに、個別企業の株は、なにか予想外の悪い出来事にぶつかると大きく値下がりしてしまうことがあります。投資金額の半分を失ったり、場合によってはそれこそ全額を失ってしまうこともあるのです。
そうしたリスクを軽減するやり方が「分散投資」といわれるものです。複数の銘柄に投資先を分散することで、突然大きな損失を負うというリスクを小さくするのです。分散投資は、その見返りとして大勝ちする可能性も減らしてしまうことになりますが、大きな損失を被るリスクを減らし、企業業績の向上による長期的なリターンを狙いやすくしてくれるものなのです。
そして、究極の分散投資が指数への投資です。
株価指数に投資をする場合、一般投資家にとって最も簡便なやり方は指数に連動することを目指して運用される「インデックスファンド」や指数連動型ETF(上場投資信託)に投資をすることです。しかし、先物も指数に気軽に投資できる手段の一つです。
ただし、すでに説明したとおり、先物の買い建玉を長期間維持するためには、保有する限月の取引最終日が近づいたら次の限月にロールオーバーしていくということを繰り返さなくてはなりません。そのかわり、インデックスファンドやETFにかかる運用報酬は節約することができます。
たとえば、東証マザーズ市場は成長性の高い新興企業が上場するマーケットです。日経平均株価とは価格変動の特性も違います。個別銘柄を熟知していなくても、東証マザーズ指数先物を買うことで、そうした東証マザーズ市場そのものに投資することが可能になります。
次回は、先物単独の使い道ではなく、現物株や他の株価指数先物との組み合わせで行う取引事例について説明します。