jpx
先物・オプション投資の魅力

先物・オプション投資の魅力

現物とは異なる収益機会として注目が高まる先物・オプション取引。
個人投資家の参加も拡大する先物・オプション取引の魅力や投資戦略を紹介する。

  • 先物取引ABC
    第2回

    なぜ先物取引なのか

    田渕 直也
    ミリタス・フィナンシャル・コンサルティング 代表
     

    今回は、先物取引ならではのメリットとは何なのか、について解説をします。

    取引のしやすさ~市場流動性が高い

    田渕 直也氏 ミリタス・フィナンシャル・コンサルティング 代表
    田渕 直也氏
    ミリタス・フィナンシャル・
    コンサルティング 代表

    先物取引は取引所で取引されます。これは、取引相手が取引を契約通りに履行してくれるかどうかという心配をしなくて済むということのほかに、規格化された取引を大勢の参加者が一斉に行うことで取引が活発に行われるというメリットを生みます。

    大勢の参加者が常に売買しているので、基本的にいつでも、そしてかなりまとまった金額でも、だいたい狙った通りの価格に近いところで取引が可能となるわけです。こうした取引のしやすさのことを「市場流動性」と呼んでいますが、要するに先物は市場流動性が高くなるように設計された取引なのです。

    この点は、特に大口の注文を出す機関投資家にとってとても重要な要素です。大きな金額の取引をするときに、全部が取引できなかったり、取引できたとしても価格が狙いから大きく動いてしまったりすれば、計画通りの投資ができなくなってしまいます。その点、市場流動性の高い先物では、あまりその心配をせずに済みます。

    個人投資家にとっては、それほど大きな金額を動かすことはないと思いますが、それでも簡単かつ即座に取引ができ、売買の価格差も小さい先物は使い方次第で大きなメリットを生むはずです。

    図表1 東証マザーズ指数先物の注文状況“板(いた)”のイメージ
    図表1 東証マザーズ指数先物の注文状況“板(いた)”のイメージ

    お金がなくても買え、株がなくても売れる
    ~証拠金取引とレバレッジ

    第2のメリットは、証拠金取引という特徴から生まれるものです。

    前回説明したように、先物を取引するときに必要となる証拠金の金額は、通常の株取引における売買代金よりかなり小さくて済みます。つまり、買い手にとっては、売買代金を全額用意しなくても株を買うことができるのです。「お金がなくても買える」というわけですね。

    売り手にとっても同様です。通常の取引で株を売るときには、代金を受け取る代わりに株を引き渡す必要があります。ですから、引き渡す株を持っていなければ売れないわけで、自分が買って保有している株か、あるいは(信用取引などで)誰かから借りてきた株しか売ることができません。ですが、先物取引は証拠金さえ拠出すれば取引ができ、株の引き渡しも発生しないので、持っていない株でも売れることになります。「株がなくても売れる」というわけです。

    こうして、「お金がなくても買え、株がなくても売れる」という特徴が生まれます。それが、機動的なリスクテイクやリスクヘッジを可能としてくれます。(具体的な先物の取引事例はまた別途説明します)

    ちなみに、証拠金取引によって自前の資金を上回る金額の取引ができる点については、これを「レバレッジ」と呼ぶことは前回も触れましたが、メリットと同時にリスクをもたらすものでもあるので、後ほどまた取り上げたいと思います。

    市場全体の動きに投資できる~指数取引

    第3のメリットは、株価指数先物取引ならではの点ですが、市場全体の動きを示す「株価指数」を直接取引できるということです。

    株価指数は、様々な銘柄の株価から計算される計算上の株価ですので、本来は直接取引できるものではありません。たとえば最も一般的な株価指数である日経平均株価の場合、選ばれた225銘柄の株価の平均として算出されています。ですから、日経平均株価にぴったりと連動するように運用しようと思えば、それら225銘柄の株を同時に購入して株価指数を複製するしかありません。でも225銘柄の中には市場流動性が低い銘柄も多く、そのような取引を低コストで機動的に行うことはとても困難なのです。

    東証株価指数(TOPIX)や東証マザーズ指数の場合でいえば、それぞれの市場の上場銘柄の株価を時価総額で加重平均して指数が決まります。ですから、指数を完全に再現しようと思えば、

    ある銘柄への投資額 ÷ 投資総額 = その銘柄の時価総額 ÷ マザーズ市場の時価総額合計

    となるように比率を調整しながら、すべての銘柄を同時に購入しなければならないわけです。これは大変ですよね。

    でも先物ならば、株価指数を直接、買ったり、売ったりすることができます。先物価格と株価指数との間には実際にはある程度の価格差があるのですが、基本的には非常に緊密に連動して動きます。ですから、指数を構成する現物株をいちいち売買しなくても、簡単に指数に連動した投資やリスクヘッジが機動的に行えるのです。

    レバレッジの功罪

    先物は、証拠金さえ拠出すれば、お金がなくても買え、株がなくても売れるメリットがあるということでした。これを活用すれば、自前の資金以上の取引が可能となり、いわゆるレバレッジを効かせることができます。これは大きなメリットとなりうる半面、リスクを増幅させる効果もあるので、ぜひ正しく理解していただきたいと思います。

    すでに説明したとおり、自己資金よりも大きな金額の取引を行うときにその比率(倍率)をレバレッジと呼びます。レバレッジはもともと「てこ(梃子)」という意味です。小さな力で大きなものを動かす道具のことですね。

    株取引でも信用取引という制度を使えば、お金を借りて株を買ったり、株を借りて売ったりすることが可能で、最大で3倍程度のレバレッジを効かせることができます。しかし先物の場合はもっと大きなレバレッジも可能です。実際に取引に求められる証拠金額は定期的に見直されるため、可能な最大レバレッジの値も時期によって変わりますが、先物では通常10倍を大きく超えるようなレバレッジが十分に可能です。

    たとえば自己資金100万円を証拠金として拠出し、1,000万円分の先物買いの取引をしたとしましょう。レバレッジ10倍ですね。ここで先物価格(≒株価指数)が1%上がったとすると、

    取引金額1,000万円 × 1% = 10万円

    の利益となり、自分で投じた100万円に対する利益率は10%になります。先物価格は1%しか上がっていないのに利益率は10%となるわけですね。これがレバレッジの効果です。

    ですが、この関係はそっくりそのまま損失についても当てはまります。先物価格が1%下がった場合には、損失率が10%になるのです。株価指数は多くの銘柄の株価から計算するものなので基本的にゼロになることはないはずですが、10%くらい下がることは十分にありえます。もしレバレッジを10倍かけていれば、その10%の値下がりで自己資金は一気に全額吹き飛んでしまうということになります。(図表2)

    この関係は以下の式で表されます。

    自己資金に対する損益率 = 投資対象の価格変動率 × レバレッジ

    このようにレバレッジは諸刃(もろは)の剣であり、狙える利益を大きくすると同時に、リスクもまた大きくしてしまうことに注意が必要です。

    図表2 レバレッジ投資のイメージ
    図表2 レバレッジ投資のイメージ
    田渕 直也
    ミリタス・フィナンシャル・コンサルティング 代表
    日本長期信用銀行(現在の新生銀行)で、デリバティブのトレーダー/ポートフォリオマネジャーを約10年にわたり務める。以後、国内大手運用会社ファンドマネジャー、不動産ファンド運営会社社長、生命保険会社執行役員を経て現職。『図解でわかるランダムウォーク&行動ファイナンス理論のすべて』『確率論的思考』『入門実践金融デリバティブのすべて』(いずれも日本実業出版社)、『投資と金融にまつわる12の致命的な誤解について』(ダイヤモンド社)など多数の著書がある。