株式投資において、企業を評価する軸として「ESG」への関心が高まっている。ESGとは、Environment(環境)、Social(社会)、Governance(企業統治)の頭文字を取ったもの。これら3つの要素から企業を分析し、優れた取り組みを実践する企業に投資をするのがESG投資だ。なぜ、いまESG投資が注目されているのか、今後への課題は何か――。欧州系大手運用会社のアムンディ・ジャパンでESGリサーチ部長を務める近江静子氏に聞いた。
Page 1 | Page 2
――株式投資において、ESGはどのような役割を果たすのでしょうか?
株式投資では、業績や資本の中身といった財務情報を分析して投資先企業を決めるのが通常です。ただし、財務情報だけでは、企業の持続的な成長力を判断することは難しい。とりわけ長期投資を行う上で、より深く企業を洞察するにはESGなどの非財務情報が重要な視点になります。
――ESG投資とは具体的に、どのように実践する手法なのでしょうか。
ESGに関する情報を把握することで、投資先企業を深く知ることから始まります。例えば自動車業界であれば、温室効果ガスの排出量の削減に向けた配慮やエネルギー効率への取り組みを同業各社で比較して優位性を判別することもできるでしょう。グローバルに展開する企業であれば、人権ポリシーの徹底やサプライチェーンのモニタリングの状況を把握して操業リスクなどにさらされる可能性が抑制されているかの度合いを見ることもできるでしょう。企業のガバナンスなら取締役会の実効性評価や役員の選定基準などの透明性をチェックすることは有効でしょう。こうした情報開示が不十分な企業であればESGの視点での評価は低くなりますし、逆に、将来の事業戦略にESGを織り込んでいる企業は、先駆的な取り組みができるだけの体力を備えていると評価することができます。企業の将来性と事業リスクの両面を非財務情報から判断する手法としてESG投資は有益です。
――そもそも、ESG投資が発展してきた経緯を聞かせてください。
欧米では1920年代より、宗教上の倫理的な動機により人権や社会問題を考慮する投資が存在し、これが「SRI」と呼ばれる社会的責任投資として発展してきた経緯があります。いまのようにESG投資が世界的な動きとして生み出されたきっかけは、06年に責任投資原則(PRI)が国連のサポートにより策定されたことです。この原則は投資の意思決定においてESG課題を考慮することを求めるものです。【図表1】。
世界のSRI運用資産残高は、11年末には13.3兆ドルであったものが、2年後の13年末は21.4兆ドルと61%増加しています【図表2】。特に欧州(EU)において、ESGに対する積極的な取り組みが目立っており、14年には機関投資家と個人投資家の運用総資産残高の約6割が責任投資戦略を採用しています。
――なぜ、いま日本においてESGへの関心が高まっているのでしょうか?
15年に大きな動きがありました。まずは、日本の年金積立金管理運用独立行政法人(GPIF)が、PRIに署名しました。これは15年9月に安倍首相が国連サミットの席で公表したので、ご存知の方も多いかもしれません。GPIFの署名によって、世界における運用額トップ20の年金基金のうち半数以上がPRIに署名したかたちです【図表3】。株式市場においてESG投資はそれなりのインパクトを持つようになったといえるでしょう。
また、日本では投資においてESGへの責任を求める2つのコードが制定されたのも大きな出来事です。一つは、機関投資家に対して中長期の視点でのオーナーシップによる投資行動を求める「日本版スチュワードシップコード」。もう一つは企業に対して中長期的な企業価値の向上につながる経済活動と透明性のあるガバナンスの発揮などを求める「コーポレートガバナンス・コード」です。
――運用会社の視点から、日本の上場企業のESGへの取り組みをどのように評価していますか?
日本企業は全般に、環境面での取り組みは優れているのですが、社会面やガバナンス面においてはもっと充実させるだけの余地が残されています。事業戦略の中におけるESGへの取り組みの位置づけや、将来へのロードマップについての記載が物足りないと感じます。ESGを推進させるには、トップのコミットメントや部門間の連携が必要ですが、まだまだ取り組みが各部門に分散されているのかもしれません。