アベノミクスによる「異次元の金融緩和」をきっかけに円安・株高が進行し、日本経済を取り巻く環境は目まぐるしく変化している。デフレからインフレへの転換期を迎えた今、個人投資家は資産の目減りを防ぐためにも、積極的な資産運用に踏み出す必要性が高まっている。日本株市場を注視し、いち早くトレンドをキャッチする日本株ファンドマネージャーは現在の相場環境をどう見ているのか。三井住友アセットマネジメントの木村忠央氏と企業のディスクロージャー・IR 実務を支援する、リーディングカンパニーであるプロネクサスの伊藤直司氏が今後の見通しや日本株投資への意義などについて語り合った。
■伊藤 近年の円安・株高トレンドを背景に、日本経済は大きな変化の時期を迎えています。
円安の進行は輸出関連の業界にとっては恩恵がありますが、日本企業全体には今後どんな影響があるのでしょうか。さらに、日本株市場の現状と今後の見通しについてどのようにお考えですか。
■木村 前提として、アベノミクスによる「異次元の金融緩和」が根底にあります。ただ、政策の内容以上に大きかったのは、「何が何でもデフレから脱却する」という日銀の黒田東彦総裁の強い意志が日本企業に伝わったことだと考えています。コストダウンや人員整理といったネガティブな方策から、「人々の期待」に働きかけるポジティブなアプローチが特徴のアベノミクス効果が円安・株高を実現したと思っています。
かつての日本では、金融機関が会社の株主兼債権者であることから、多少の余剰資金があっても安定配当を続けていければ良いという風潮がありました。欧米の株式市場のように、投資家が将来性のある企業を育て、成長させるという仕組みがなかったのです。アベノミクスによって、企業は今まで積み上げてきた余剰資金を今後は賃上げ、設備投資、株主還元といった持続的な業績拡大戦略や、投資される対象としての魅力を高める施策に振り向けることが求められるようになりました。
三井住友アセットマネジメント株式会社
シニアファンドマネージャー
木村忠央氏
株式会社プロネクサス
IR事業部担当部長
伊藤直司氏
■伊藤 最近の日本ではコーポレートガバナンス・コードの策定のほか、機関投資家から企業に訴えかける日本版スチュワードシップ・コードの策定、企業の成長性を重視した新指数「JPX日経インデックス400」の設定など新しい政策が打ち出されています。日本企業が生まれ変わるこうした動きに海外投資家も注目しています。東南アジアにおいても日本株で運用する投資信託の残高が拡大傾向にあります。御社も2014年3月、現地の個人投資家向けに日本の中小型株で運用する投資信託の提供を開始するなど、海外の投資家を対象とした投信販売を強化していますね。
■木村 海外投資家の日本株に対する見方が変わりつつあることも、今後の日本経済を展望する上で欠かせません。日本と米国の経済の関係を、「米国がくしゃみをすると日本は風邪を引く」と例えるフレーズの通り、日本経済は海外、特に米国経済の影響を強く受けます。米国株が暴落すると、場合によっては日本株はダウ平均株価より下落幅が大きくなることもあり、欧州危機の際も同様のことがいえました。海外投資家にとって、日本はいわば“流動性のあるエマージング(新興国)株扱い”だったのです。先物取引が短期的に行われボラティリティー(価格変動性)も高いため、長期投資の対象とされてこなかった。今回のアベノミクスによって日本企業が変わっていけば、世界標準レベルの銘柄として選ばれる時代が始まるでしょう。始まったばかりの日本企業の転換を長い目で注視していくつもりです。
1994年山一証券投資信託委託(現:三菱UFJ投信)に入社、1998年さくら投信投資顧問に転職、合併により2002年から三井住友アセットマネジメントに。国内株式ファンドマネジャーとして約20年のキャリアを持つ。
早稲田大学法学部卒業。1980年HOYA(株)入社。国内外の営業を経て1995年広報IR部門。2008年HOYAグループIR・広報室長。2013年米国Institutional Investors誌の「ベストIRプロフェッショナル」精密部門第1位に。同年秋(株)プロネクサスに転職。