【Blockchain Summit 2016 レビュー】中央銀行から見たブロックチェーン技術の可能性とリスク 提供:日本IBM

ブロックチェーンは仮想通貨から生まれた技術だ。現在、分散型の決済システムの基盤として注目されているブロックチェーンにはどんな可能性があり、どんなリスクが潜んでいるのか。『Blockchain Summit 2016』 の基調講演として、ブロックチェーンを長年研究してきた日本銀行決済機構局FinTechセンター長の岩下直行氏が登壇した。

ビットコインの3つの成功要因

岩下直行 氏

日本銀行 決済機構局
FinTechセンター長
審議役
岩下直行 氏

 「ブロックチェーンという技術があって、仮想通貨であるビットコインが生まれたという言い方をする人がいますが、それは誤解です。まずビットコインありきで、次にブロックチェーンが生まれたんです」と岩下氏は冒頭でビットコインが生まれた歴史的背景を解説した。

 デジタル情報を一種の紙幣とみなす“電子現金”への取り組みはビットコイン以前から行われてきた。アカデミックの世界で理論が発表され、サービス提供者がそれを取り込んで電子現金に挑むことを繰り返していたのである。そこにはブロックチェーンのコア技術と同様のアプローチもあった。

 「しかし、システムリソースの不足やコスト、利便性の問題から、それらの取り組みは広く普及することはありませんでした」と岩下氏。そんな中、仮想通貨であるビットコインが登場した。2009年1月9日のことだ。その後、ビットコインは、昨年(2015年)あたりから徐々に利用者が増え、今では1000万人以上になっている。

 なぜビットコインは過去の“電子現金”とは異なり、相場は乱高下しつつも取引価値を維持し続けているのか。岩下氏は3つの理由を挙げる。多大な維持コストがかかる中央集権型の処理センターを持たないpeer-to-peerによる分散コンピューティングの採用、コイン発掘の仕組みに見られる報酬を付与するインセンティブの存在、そして独自通貨単位による投資機会の提供である。

 このビットコインという仮想通貨で使われた技術の総称がブロックチェーンであり、最近では、より汎用的な言葉としてDLT(Distributed Ledger Technology)という用語が使われ出している。ブロックチェーンの定義としては「不特定多数のノードを用いることで合意が覆る確率がゼロへ収束するプロトコル、またはその実装」といわれることもある。

幅広いブロックチェーンの適用領域

 今、ブロックチェーンが注目されているのは、この“合意が覆る確率が十分に低い”という特性と、システムの維持コストが安いという点にある。岩下氏によれば、ブロックチェーンの形態は、管理者が存在しないで誰でも参加できる“パブリック型”、単独の機関が許可制で運営する“プライベート型”、複数のパートナーが管理して許可制で参加できる“コンソーシアム型”の3つに分類できるという。ビットコインはパブリック型の代表選手だ。

 「金融機関が実証実験のターゲットとしているのはプライベート型とコンソーシアム型。プライベート型ではパブリック型の可能性を放棄することになりますが、コンソーシアム型では合意形成に問題があり、これからの技術開発が必要です。ここに新たなチャレンジが生まれてきます」と岩下氏は語る。

 すでに実証実験は進められている。住信SBIネット銀行が行ったブロックチェーンサーバを使った実証実験では、大量の口座作成や高負荷のバッチ処理に対応できた。トラブルが発生しても修復でき、デザスターリカバリやBCP分野において効果があると考えられている。日本取引所でもコンソーシアム型で、証券トレードの実証実験をブロックチェーン上で行っている。

 ブロックチェーンのユースケースには、金融、産業、行政、市民社会の各領域で様々なものが想定されている。しかも、利用方法として、ビットコインなど仮想通貨をそのまま使うものから、元帳機能のみを利用するもの、独自の分散元帳を構築するものの3つのパターンが考えられる。

 ビットコインを仮想通貨としてそのまま使うのは、例えば国際紛争の地域に資金援助をするようなケースだ。企業間のサプライチェーンにビットコインの元帳機能を使えば、後から書き換えられないデータベースを世界中で共有できる。また、銀行の勘定系システムや証券ポストトレード、政府の徴税業務のシステムを独自の分散元帳で構築すれば、安全で高速処理できて運用コストを抑えたシステムが実現できる可能性がある。

潜在的なリスクはあるが
可能性は大きい

 最近では仮想通貨の上で契約の機能を果たす新たなサービスも登場してきた。契約書をブロックチェーンに載せたもので、“ブロックチェーン2.0”と呼ばれる新たなサービスだ。契約を執行させる機能まで持たせたものや、それらをまとめて自動で執行させるものまである。こうした中で起きたのが「The DAO事件」である。

 The DAOとはブロックチェーン2.0のコンセプトを実証するために、Ethereumというpeer-to-peerのプラットフォーム上に組成した事業ファンドで、組織を運営する役員もなく、Ethereum上で出資したメンバーが投票によって投資する仕組みになっている。2016年5月に出資を募ったところ1カ月で約156億円という資金が集まったが、そのうちの約50億円がプログラムのバグによって盗まれた状態になってしまった。これがThe DAO事件である。

 「分岐を作って時間をさかのぼり、50億円の取引をなかったことにするという強硬手段に出ましたが、問題は実験の最初から156億円もの資金を集めてしまったことです」と岩下氏。バーチャルな世界だけに既存の法制度が及ばない。しかし、仮想通貨は現実に広まっている。それだけに「新たな合意形成の仕組みが必要」だと岩下氏は訴える。

 「The DAO事件によってブロックチェーンによる“株式会社の再発明”の試みはひとまず頓挫しましたが、これからもブロックチェーンをベースとしたファンドによる資金調達競争は起きてくるでしょう。対抗するためには日本円をもっと便利にしていかなければなりません」と岩下氏。そこでは銀行券、銀行預金、デジタル通貨のそれぞれの特性を踏まえた対応を考えていく必要がある。

 岩下氏は「アンチマネーロンダリング、プライバシー保護、受け渡しにおける第三者の関与といった切り口で見ると、それぞれに一長一短があります。あらゆる可能性を考えながら、過去にやってきたことをとりまとめて新しい時代を切り拓くしかありません」と語り、これからのFinTechの展開に期待を寄せた。

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