フィンテックが金融機関のサービスを変える

情報のオープン化で
堅牢さと利便性が両立
イノベーションの進展狙う

 金融サービスにIT(情報技術)を融合させるフィンテックへの取り組みが金融機関で加速している。金融サービスに対して、利用者がこれまで求めていたのは主に安全性と安定性だった。ところが現在、身の回りの機器のデジタル化と、それに伴う利便性の高まりから、金融サービスにも従来の安全性と安定性に加え、利便性が要求され始めている。いま金融機関が推進するフィンテックは金融サービスをどう変えていくのか。京都大学公共政策大学院教授で、昨年まで日本銀行フィンテックセンター長を務めた岩下直行氏に聞いた。

政府の高い期待受け
新たなデジタル化に取り組む

金融機関のフィンテックへの
取り組みが加速しています。

 政府が「日本再興戦略」改訂2014で“決済機能の高度化”を打ち出して以来、流れが変わりました。ここ10年で銀行法は3度改正されていますが、うち2回はフィンテックへの対応を促すもの。政府はフィンテックによる金融イノベーションに大きな期待を寄せているのです。一方、金融機関においても、これまで危機感を抱いていました。ビジネスや日常生活の中にもスマートフォン(スマホ)などを活用したデジタル化の波が押し寄せるなか、金融機関のシステムにおいてもインターネットを使えば、より洗練され、利便性の高い金融サービスが可能になるはず。ただそれにはセキュリティー面での不安がありました。

金融機関はデジタル化が
遅れていたのでしょうか?

 いいえ、むしろ先頭を走っていました。実際、1960年代、銀行はすでに優秀で堅牢(けんろう)なオンラインシステムを国内に張り巡らせていた。ただ、そうした優れたシステムネットワークを構築していたからがゆえに、そこから動けなくなってしまった。デジタル化の方向も安全性、安定性を最優先。ユーザーインターフェースの洗練さなどには、あまり目が向けられてこなかった。ところが現在、インターネットの安全性を担保する技術が生まれつつあり、新たなデジタル化を図る機運が金融機関で急速に高まっています。

政府の高い期待受け新たなデジタル化に取り組む 京都大学公共政策大学院教授 岩下直行氏

情報の共有によって契約や取引の改ざん防ぐ

安全性の担保に使われるのがブロックチェーンですね。

 ブロックチェーンの大きな特長は“イミュータブル(書き換えられない)”であることです。情報を守るため、囲い込むのではなく、公開する。多くの人の監視によってデータの改ざんを防ぎます。ブロックチェーンというと仮想通貨の話題になりがちですが、実際は情報保持の仕組みですから、契約や登記など、多様な分野で活用できます。ブロックチェーンの技術の利用で決済システムも変わるでしょう。例えば、メールは無料なのに、銀行振込には手数料がかかる。どちらも本人認証、権限確認、データ書き換え、その通知と、手順はほぼ同じ。振込手数料も安くできるはずです。

フィンテック普及には、どんな課題がありますか?

 ブロックチェーンに記された契約内容を、自動的に実行するのがスマートコントラクトです。例えば、契約書に書かれた条件と、IoTによって集めた情報が一致すれば、決済をはじめ、さまざまな処理が自動的に行われる。業務の効率化にもつながります。ただ、こうした仕組みは国境をまたぐので、国際的な法整備が課題となります。

オープン化の推進と協創で実現するイノベーション

オープン化の推進と協創で
実現するイノベーション

フィンテックによる
イノベーション実現には何が必要ですか?

 オープン化の推進です。現在、中国の故宮博物館には入場券売り場はありません。入り口のQRコードをスマホで撮影して決済。スマホに送られてきたチケットで入場します。こうした仕組みは、決済システムがオープン化され、スマホとつながるから可能なのです。オープン化によって集められたデータは分析後に、新たな顧客サービスの実現に役立てられます。一方でITベンダーのオープン化も重要です。多彩な企業から、さまざまな知恵を集め、それらを統合する。そうした情報を共有あるいは活用できるオープンなプラットフォームもイノベーションの実現に欠かせないでしょう。
 実は私自身、日立製作所に出向した経験があるのですが、1つの会議にさまざまなグループ会社から、多様な専門性を持つ人材が集まることに驚きました。そうした多彩な人材の知恵の結集と各パートナーとの協創がイノベーションを生み出しているのだと実感しました。フィンテックにおいてもオープンな環境のなか、これまでにない発想で、新たな価値やサービスを生み出していくことが普及のポイントになるでしょう。

 フィンテックによる金融機関の変化が大いに期待される。なかでも注目の領域が①インターフェース、②セキュリティー・認証、③ビッグデータ・AI(人工知能)、④金融インフラの4つだ。その萌芽はすでに見られる。センサーで収集した運転データの解析から、自動車保険の保険料を変動させるテレマティクス保険は、AI活用の好例であり、そのベースにはIoT技術が活用されている。IoT技術などの普及によるフィンテックの進展は、金融の世界にイノベーションを起こし、今後サービスの利便性を大いに高めるに違いない。

プロフィル

京都大学公共政策大学院教授 岩下 直行

 いわしたなおゆき・1984年3月、慶応大学経済学部卒業。同年4月、日本銀行入行。94年、日本銀行金融研究所に異動し、約15年にわたり金融分野における情報セキュリティー技術の研究に従事する。同研究所の情報技術研究センター長、下関支店長などを経て、2013年、日本銀行決済機構局参事役。14年、同金融機構局審議役・金融高度化センター長。16年、新設されたフィンテックセンターの初代センター長に就任。17年、日本銀行を退職し、京都大学公共政策大学院教授に就任。同年、金融庁参与を兼務。

金融の未来は、オープンだ。アイデアで変えられる。

ビジネスが直面する課題に合わせて、必要な金融サービスを必要なときに活用できるように。
日立は独自のAI、ビッグデータ解析、ブロックチェーン技術などを組み合わせ、企業のさまざまな情報を見える化し、分析。
金融機関と協創することで、迅速な融資や高度なビジネスマッチングをはじめとするソリューションを提供し、
あらゆる企業の成長を支えていきます。

金融の世界を進化させることで、
共に、ビジネスを次のステージへ。

未来は、オープンだ。アイデアで変えられる。
それが日立の社会イノベーション。

お客さまと日立が手を携え、デジタルソリューションを協創

 日立は、これまで培ってきたOT(制御技術)と先進のIT(情報技術)を、IoTプラットフォーム「Lumada(ルマーダ)」に凝縮。さまざまなデータを集め、蓄え、分析し、その結果を次のアクションへとつなげていく仕組みを作りあげています。このLumadaを基盤に、さまざまな事業領域のお客さまとデジタルソリューションを協創。次代を見据えた新たな価値創出をめざしています。

LUMADA

お客さまと日立が手を携え、デジタルソリューションを協創