キリン株式会社

誰の足跡も追わない
キリンウイスキーの新フラッグシップ「富士山麓 シグニチャーブレンド」誕生

VOL.1 NATURE

天然氷もウイスキーも恵まれた自然から生まれる

キリンビール株式会社 マスターブレンダー/田中 城太 × 日光 天然氷蔵元/四代目徳次郎

誰の足跡も追わない
キリンウイスキーの新フラッグシップ「富士山麓 シグニチャーブレンド」誕生

VOL.1 NATURE

天然氷もウイスキーも恵まれた自然から生まれる

日光 天然氷蔵元/四代目徳次郎 ×
    キリンビール株式会社 マスターブレンダー/田中城太

キリンビールは8月、国産プレミアムウイスキー「富士山麓 シグニチャーブレンド」の全国販売を始めた。そこで、このウイスキーの香味設計を手がけるマスターブレンダー・田中城太氏が、
「富士山麓 シグニチャーブレンド」の味わいを語るに欠かせない「NATURE=自然との調和」「MATURE=熟成という時の流れ」「SIGNATURE=ブランドそのものの体現」をテーマに3人のものづくり職人と対談。第1回「NATURE」では、自然の恵みを生かすものづくりとその難しさ、商品に込めた思いや情熱などを、日光で天然氷をつくる蔵元の四代目徳次郎・山本雄一郎氏と語り合った。

四代目徳次郎

四代目徳次郎

日本一硬い氷を目指し、自然を手助けするだけ

天然の氷は、どのような手順でつくるのですか。

冬が始まる頃、氷をつくるための専用の池を掃除し近くの沢の水を入れます。氷が張り始め15cmくらいの厚さになったら、切り出して氷室に入れて保存します――。冬の寒さを利用して凍らせる。我々はその過程を手助けしているだけなんですよ。そういう意味で私は、自分のことを職人ではなく「アイスファーマー」と言っています。

徳次郎さんは日本一硬い氷を目指していると伺いました。硬い氷はどうしたらつくれるのでしょう。

水が固体になって氷になるとき、正六角形の結晶になります。雪の結晶と同じですね。正六角形の結晶体をどこまでも崩れずに成長させることができれば硬い氷がつくれるのです。一日中真っ青な空で、風も吹かず、マイナス5度という日が続いたら、徳次郎が求める最高の氷ができます。ただ氷が成長する段階で、気温をはじめさまざまな自然の変化を受けるので、なかなかきれいに成長しません。

できるだけ余計なものがなく、均一な結晶として凍らせることが要諦なのですね。そのためにどんな手助けをしていますか。

田中 城太

田中 城太

納得いかなければ割ってつくり直すウイスキーも氷も水が大事

凍るときに生じる水圧を逃すため池の底を土に、氷の表面に雪が積もると成長しにくくなるので雪を取り除く――。氷を切り出すタイミングも大事です。納得いかず5回も割ってつくり直したこともあります。その後、寒波が来なければ、割る前以下の氷になってしまうかもしれない。でも、自分は最高の氷を求めたのだから仕方ない。そんなことの繰り返しです。

ウイスキーづくりでは樽から出すタイミングが非常に大事なのです。同じ原酒でも取り出すタイミングによって味わいが異なり、いつ取り出しどういうブレンドをするかで味をつくり分けているからです。

自然を相手にする仕事ならではの厳しさですね。氷づくりで一番大事なのは水です。理想は無色透明無味無臭。味も素っ気もありません。「徳次郎さんの氷はミネラルが豊富でおいしかった」と言われることがありますが、それは間違い。天然の氷は池の中で上から下へ凍っていき、その過程でミネラルなどの不純物は排除され底に沈殿します。氷池の近くには、きれいな湧水を引ける沢があることが大事。一年中ほとんど水量が変わらず、冬も枯れない沢です。

ウイスキーづくりにも水は非常に重要です。私たちの富士御殿場蒸溜所では、富士山の豊富な伏流水を使っています。伏流水は、標高2000mくらいの場所に降り積もった雨や雪が、穴の空いたスポンジのような火山灰の土壌でゆっくり50年かけて磨かれる。蒸溜所近くの地下100mの水脈から汲み上げています。水質は安定していて、軟水です。ウイスキーの熟成には清澄な空気と冷涼な環境が理想的。富士御殿場蒸溜所はウイスキーづくりに適した環境を有する素晴らしい場所にありますから、私たちつくり手はウイスキーが育つのを見守るだけなのです。

氷

徳次郎の氷はゆっくり溶けるからおいしいロックに仕上がる

このウイスキーは、仕事を終えて静かなところで味わうといいですね。鼻に抜ける瞬間に、シロップや果物のような甘い香りがする。まろやかだね。

私は普段、ウイスキーには氷を入れないのです。入れたとしても小さい氷を一つ入れる程度で、ほんの少し度数が下がったときの香りの変化を愉しむ(たのしむ)くらいです。氷によってはウイスキーを冷やし過ぎたり、香りを沈めてしまったりすることがあるからです。「富士山麓 シグニチャーブレンド」のように、熟成由来の甘い豊かなフルーティーさを愉しむウイスキーの場合は、正直、氷は必要ないと思っておりました。でも、徳次郎さんの氷は別ですね。ゆっくり溶けるから冷え過ぎないし香りも愉しめる。本当においしいロックに仕上がりますね。

私もいつもは、ストレートか、水を少し添えるくらい。このウイスキーも、やはり氷を入れずに味わうことをお勧めします。

氷の哲人のような方から、そのように評価いただけると恐縮してしまいますが、「富士山麓 シグニチャーブレンド」の味を認めていただけたのは非常にうれしいです。これまで日本の食文化は、海外のものを取り入れ足し算、掛け算してきましたが、この氷は究極の引き算でつくられる。一番シンプルなプロダクトで、大きな価値を生んでいる。本当にピュアで凄く(すごく)素晴らしいです。

徳次郎の氷

氷は水から、水は森から 原点である森に戻る

氷づくりを通じ、徳次郎さんは何を目指しているのでしょうか。

初めは、日光の冬の文化である天然氷を残したいとの思いでしたが、利益を上げないと続かないと仲間から言われ、江戸へ、京へ、世界へと天然氷を広げて行きました。そんな中で感じたのは森の大切さです。前へ前へと突き進んでいくと、原点に戻るのでしょうね。今は、孫の世代に森の恵みを残すため、さまざまな環境づくりを行っています。その一つがメープルの森づくり。きついウイスキーにはメープルシロップを入れて楽しんだりしています。角が取れる感じがするんですよ。

氷は水から、水は森からですね。ウイスキーづくりは自然環境×時間という掛け算。氷づくりとは時間軸は異なりますが、自然に対する立ち位置や関わり方は似ています。地球環境の変化についてどのように認識していますか。

日光で天然氷ができなくなったら、標高の高いところへ移動するしかないですね。既に、標高900mくらいの場所に試験的に氷池をつくっています。キリンビールさんには、ぜひ熟成樽を日本の木でつくってほしい。森の再生にもつながります。日本の水と日本の木から生まれたウイスキー、楽しみにしています。

徳次郎さんは、氷を単なる形のあるものとしてではなく、地球環境全体から捉えているように感じました。私たちも、味だけではなく、育まれた環境や携わっている仲間の想い(おもい)が伝わるようなウイスキーづくりを目指していきます。今日はとても刺激を受けましたし、本当に楽しかったです。ありがとうございました。

田中 城太 四代目徳次郎

プロフィル
田中城太
たなか・じょうた 1962年京都市出身。88年キリンビール入社。89年にナパバレーのワイナリーに勤務後、カリフォルニア大学デービス校大学院修士課程を修了。2002年から米ケンタッキー州フォアローゼズ蒸溜所でバーボン製造・商品開発に携わる。09年からキリンビールでブレンダー業務に従事。17年世界的ウイスキー・アワード「アイコンズ・オブ・ウイスキー(IOW)2017」で「マスターディスティラー/マスターブレンダー・オブ・ザ・イヤー」受賞。

プロフィル
四代目徳次郎/山本雄一郎
よんだいめ・とくじろう/やまもと・ゆういちろう 1950年栃木県日光市生まれ。75年日光の霧降高原にレジャー施設チロリン村をオープン。施設内のカフェで三代目徳次郎の天然氷を使用していたが、高齢のため廃業すると知り、頼み込んで2006年四代目として継承。日光の氷文化とともに日光の自然も守りたいと「メープルの森プロジェクト」なども展開している。

協力:山のレストラン(日光市霧降の滝)

VOL.2 MATURE

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