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オンライン証券の草分けであり、より良い資本市場の実現と金融サービスの創造と提供のためイノベーションを起こし続けたいというメッセージを掲げるのがマネックス証券を中核とするマネックスグループである。常にベンチャー精神を忘れないという松本大CEOに率いられたグループは、日本はもとより海外事業でも成功を収めつつある。日本IBMが発表したレポート『Redefining Competition 破壊者との競争と共創』(CEOスタディ)のグローバル発表イベントのパネルディスカッションにおいて、マネックスグループCEOである松本 大氏に最新テクノロジーへの考えと顧客視点のサービス提供について、日本IBM社長のポール与那嶺氏にはIBMが提供するテクノロジーやサービスについて、話を聞いた。

2016年1月27日にレポート『Redefining Competition 破壊者との競争と共創』が日本IBMから全世界に向けて発表された。世界各国818名のCEOへのインタビューからの示唆を提示するもので、成功企業のCEOに見られる特性にも着目している。成功企業の分析にあたっては、イノベーションをリードする存在と認知され、かつ卓越した財務業績を達成している企業群を抽出し「さきがけ企業」と名付けた。「さきがけ企業」は全体のわずか4%である。

CEOにとってテクノロジーは、
古いものを置き換えてくれる重要なビジネスツール

マネックスグループ 松本 大 氏

マネックスグループ代表執行役社長
CEO 松本 大 氏

――『Redefining Competition 破壊者との競争と共創』の中で「企業に大きな影響を与える外部要因」という問いに対して、CEOの方々が他の経営層よりもかなり早い時期からテクノロジーの重要性に気づき、2012年から最新レポートにいたるまでの間、テクノロジーが最も大きな外部要因だと指摘しています。松本さんはマネックスグループの戦略の中で、テクノロジーの役割をどのように位置づけていますか。

松本 大氏 マネックスグループ 代表執行役社長 CEO(以下、松本氏)
マネックスグループは個人向けを中心とするオンライン証券子会社を日本・米国・香港に有するグローバルなオンライン金融グループです。オンライン証券の他、アセットマネジメント、投資教育、M&A、FXなど、金融ニーズに応える体制を持っています。
1999年に設立したオンライン証券(マネックス証券)が中核にありますから、マネックスグループは真にテクノロジーに焦点をあて、それを基盤としたビジネスを展開しているグループです。
世界各国の800名を超えるCEOがテクノロジーを「企業に大きな影響を与える外部要因」と捉えていることをお伺いして思ったのは、皆さんがテクノロジーの重要性と脅威について理解していることはもちろんですが、CEOにとってテクノロジーというものは、古いものを置き換えてくれる重要なビジネスツールである、ということです。しかも文句も言わずにやってくれますし(笑)。

日本IBM ポール与那嶺氏

日本IBM 代表取締役社長
ポール与那嶺 氏

ポール与那嶺氏 日本IBM 代表取締役社長(以下、与那嶺氏)
2016年1月早々に大雪のニューヨークに滞在して、アメリカンエクスプレス CEOケン・シュナイダー氏とIBMコーポレーションCEOのジニー・ロメッティが語り合う対談を聞く機会に恵まれました。そこで、最初に感じたのがCEOの使う言葉の変化でした。テクノロジーに焦点を当てた言葉で米国企業のCEOが経営を語るようになったということです。
テクノロジーと業務プロセス、戦略などが、すべて相互に関連づけられ、テクノロジーに基づいた言葉で、従来とは異なる表現で語り始めています。日本企業でもすでにそうなっていますね。私たちは、IBM Watson(以下、ワトソン)の名称で展開しているコグニティブ・システム*を自社でも活用することに取り組んでいます。

*コグニティブ・システム:大規模に学習し、目的を持って推論し、人と自然にかかわり合う新しいコンピューター。IBM Watsonが代表例。

――IBMではコグニティブがあらゆる所に存在しています。『グローバル経営層スタディ』では、経営層の方々からいただいた1万を超える意見の分析に、ワトソンを活用しています。ワトソンによって導き出された結論として、テクノロジーの進化に関するCEOの意見の67%は、それを機会として活用するというなトーンだったということがわかりました。
現在、どのようなテクノロジーがマネックスグループのビジネスの中で重要性を増していますか。

松本氏
マネックスのビジネスでは、モバイルテクノロジーがビジネスに大きな変化をもたらしていると考えています。モバイルテクノロジーはビジネスを変化させるだけでなく、参入障壁を下げています。

そもそもオンライン証券が登場する以前、日本の証券仲介業は大きな資本を持ち、数多くの店舗を保有し、そこに配置する多数の社員を有する証券会社だけが存在する業界でした。しかし、現在ではテクノロジーを使えば大きな資本も人員も必要なく参入できる世界になりました。マネックスが99年に起業した時には会社全体で従業員は4人だけで、大きな資産もなく、ファブレスメーカー(工場を持たない製造業)のようにスタートできたわけです。

あの時期のように参入障壁が低くなったことによる新たな変化やイノベーションが、現在ではモバイルによってもたらされていると思っています。
私たちマネックスが積極的にモバイルテクノロジーを活用していくことは、お客様により良いサービスを提供するためであり、また私たちを新規参入企業から守っていくためにも重要な取り組みになっています。

与那嶺氏
IBMにとって、コグニティブ・システムはお客様に提供するソリューションであるとともに、自社にとっても今後の成長のプラットフォームになるものです。

松本氏
コグニティブ・システムについては、とても興味深く注視しています。私がコグニティブ・システムに期待しているのは、PDCAサイクルの自動化が可能になることです。
マーケティングは最終的に人が新しいアイデアを生み出す必要がありますが、新しいアイデアが生まれる前の段階でさまざまな取り組みのPDCAサイクルを洗練していくことができる、これこそがコグニティブ・システムがとても得意としており、うまくやってくれることだと思っています。

――さきがけ企業のCEOは、フォロワー企業に比べ、コグニティブ・システムに大きな関心を持っています。

松本氏
金融業界を見ると、リーマン・ショックの時にニューヨーク・ウォールストリートが大きな困難に直面しました。その時に多くの人材が金融業界を去り、シリコンバレーに移りました。そしてシリコンバレーを盛り上げ、新しいものを作り出していく原動力となったのです。
同じようにコグニティブ・システムも人々のエネルギーを引き出したり、興味を喚起したりする力があると思います。その意味でいろいろなビジネスの世界にさまざまな背景を持った人材が流入してくるきっかけになるのではないでしょうか。
具体的にどのように展開していくのかはわかりませんが、そうやって人材の層が厚くなり、やがてイノベーションにつながっていくのだと思います。

環境を変化させる大きな脅威と仕組み

IBMコーポレーション ピーター・J・コーステン氏

モデレーター:
IBMコーポレーション VP,
Global Leader Thought Leadership & Eminence,
グローバル・ビジネス・サービス(GBS)事業本部
ピーター・J・コーステン 氏

――デジタルジャイアントと呼ばれるGoogleやAmazonなど顧客との接点を密接に作り上げている企業があります。また、金融や決済ではペイパルやAmazonウォレットなどがあり、こうした存在についてはどう思いますか。

松本氏
デジタルジャイアントは最大の脅威です。マネックスだけでなく金融業界全体にとっても大きな脅威になり得るでしょう。その最大の理由は彼らがお客様とのやりとりに非常に長けていることで、これはとても大きなアドバンテージです。
しかし、デジタルジャイアントは顧客との関係を作ることが出来ても、ベストな金融サービスを提供できるとは限りません。このようなデジタルジャイアントが存在する世界で、私たちは企業として生きていくために知見や知識を洗練させて、お客様のより良い資産管理のお手伝いができるようになることがとても大切なのです。私たちマネックスが進む方向としてはこれがもっとも自然だと考えています。

――また、小規模なスタートアップで、金融のニッチ市場についてよく理解している企業、例えば富裕層に対して資産運用の情報や助言などを、デジタルというチャネルを通じてサービス提供するような企業が出てきています。こうしたデジタルをうまく活用する新たな金融IT企業についてどのように考えていますか。

松本氏
とても多くのスタートアップ企業が登場してくるのだと思っています。たくさんのスタートアップが立ち上がり、その多くは沈んでいくのでしょうけれど、ごく少数の勝者も現れるでしょう。これはマネックス証券を設立した当初、1999年~2000年前後の様子によく似ています。当時、オンライン証券はとても小さな存在でした。しかし、今は大きく成長しました。
私たちマネックスもそういう存在だったのですから、現在の多くのスタートアップ企業には大きな敬意を払っています。彼らの中から、何社かは大きな成功を遂げる企業が出てきます。
したがって、良いリレーションシップをスタートアップ企業と持つ必要があり、すべてのスタートアップを敵とみなすことは間違っていると考えます。例えば、私たちが投資したり、成功のお手伝いをしたり、一緒に手を取り合って進んで行ける領域も多々あるのではないでしょうか。

与那嶺氏
競争環境が変化する上でもう1つの要素としてあげられるのがエコシステムです。単体で競争するのではなく、企業同士が1つのグループを作り競争する、系列ではないよりグローバルなグループを形成して事業を進める、場合によっては競合会社と組むことさえあります。
2014年に発表したIBMがAppleと締結したグローバルなパートナーシップは、それを表す象徴的なものとなっています。

松本氏
CEOは常に競争を重視するものです。
現在、エコシステムという言葉には何らかの過剰な期待がかかっていると思っています。エコシステムと呼ばれるものが実はトロイの木馬であったり、あるいはコラボレーションしていた企業が突然競争し始めるということがあるかもしれません。

マネックスはエコシステムに飲み込まれたくありませんから、重要なことは常にバランスを保つこと、適切なプレイヤーを選んで協力していくことだと考えます。
エコシステムは戦略を拡張してくれるものでもあり、または防御のための戦略であるとも思います。マーケットの競合他社、あるいはコラボレーターとの関係をどう構築するのかを深く考えることが必要です。

より良く顧客のことを理解するための
CHO(カスタマー・ハピネス・オフィサー)

――お客様のニーズを満たすためにどういう取り組みをしていますか。どうしたらお客様の現在のニーズがわかると思いますか。

松本氏
とてもシンプルですが、ひたすらお客様のお話しを聞かなければいけないと思います。
企業はどうしても、お客様のニーズ、お客様が何を求めているのかよりも、自分たちが何を求めているかということを念頭に考えがちです。
私はマネックスを立ち上げた17年前に、日本の金融機関はビジネスのやり方が供給側の視点であり、お客様側に立った視点や考えがほとんど入っていないと考え、それを変えたいと強く思ったのです。
15年11月から、私はマネックス証券で新しい肩書きを持ちました。CHOです。世界で初めてのタイトルだと思っていますが、CHOとはカスタマー・ハピネス・オフィサー(Customer Happiness Officer)のことです。
CHOの仕事はその名の通り、お客様にハッピーになってもらうために仕事をする役職です。マネックス証券は創業から常にお客様視点を徹底的に追求し、顧客主義を貫いてきました。しかし17年が経ち、供給側視点でのサービス提供になってはいないか。もう一度、顧客主義を磨き、再び強化したいと思いCHOという役職を作り自ら就任しました。

――CHO、カスタマー・ハピネス・オフィサー、素晴らしい役職だと思います。具体的にはどのような活動をしているのですか。

松本氏
例えば、私はコラムを毎日書いて、メールマガジンで配信しています。
約70万人の購読者がいるメールマガジンのコラムを通じて、お客様に「今、どんなサービスが欲しいと思っていますか」と直接、質問を投げかけました。そうすると、メールでさまざまな答えが到着します。また、特定のトピックについて意見を求めたりもします。
70万人のお客様に問いかけ、その声を得ることはテクノロジーが行き渡る以前はたいへんな作業を伴うことでした。それが今では、一晩で出来てしまいます。

このような環境が整ってくると、マーケティングを色々と複雑に考えなくてもいいのかもしれません。何かのアイデアが生まれたら、お客様に直接投げかけ意見をいただき、その声を聞いて実施する、確認する、調整するという形でうまくいく場合があるでしょう。
アイデアをシンプルに回していく、繰り返していく反復型のイノベーションと呼べばいいでしょうか。
何か大きなことをして失敗するとそれだけのコストがかかりますが、小さな事を繰り返し行っていけば、失敗のコストも少なくて済みます。

座して何かを待つのではなく
まず行動を起こすこと

――ファースト to マーケット。マーケットへ最初に参入することはどれほどの価値があると思いますか。2、3番目にマーケットに参入するのに比べて、最初にマーケットに参入し、イノベーションを起こすことの重要性はどれほど高いと考えていますか。

松本氏
個人的な考え方ですが、私はファースト to マーケットで考えたいと思っています。財務的、経済的に意味を持つということであれば、2、3番目のほうがいいのかもしれません。しかし、私は基本的にはファースト to マーケットで行きたいと考えます。

スタンリー・キューブリック監督の「2001年宇宙の旅」という映画に出てくる宇宙船の人工知能はHAL(ハル)と呼ばれています。この名前はアルファベットの並び順でIBMの1つ前の文字を取って付けられたという説があるのは有名なお話です。キューブリックは認めていないようですが(笑)。
いずれにせよ1968年に公開された映画でHALはコンピューターの将来、1世代先を見せてくれました。
同じような考え方で、マネックスという名は「MONEYのYの一歩先を行くMONEX」という意味で名付けました。今のマネーのあり方からもう1つ先をいこうという意味です。

――今後3-5年でCEOが成功を収めるために必要なことがあるとしたら何だと思いますか。

松本氏
私もその答えが分かったらいいな、知っていたらいいなと思います。『Redefining Competition 破壊者との競争と共創』というレポートを読めば答えが出るかもしれませんね(笑)。

常にビジネスを成功させたいと思っていますが、どうやったら成功できるかということの答えが今、出せるわけではありません。
人間は日々老いていく。だから放っておいても私は年老いて、時代遅れになっていくかもしれません。企業を取り巻く環境や物事は非常に素早く劇的に変化します。ですから、できるだけ変化に迅速に対応しなければ、すぐに時代遅れになってしまいます。
したがって、組織の中には新たなアイデア、新しいリソース、新たなテクノロジーが必要です。それらがなければ私達はあっという間に時代に置いていかれてしまいます。
座して何かを待つのではなく、まず行動を起こすこと。そして、反復的に小さな変化を体現していくこと、そしてファースト to マーケット。これらを実行していく力が大切なのだと思います。

(左)モデレーター:ピーター・J・コーステン 氏 (中央)松本 大 氏 (右)ポール与那覇 氏

※ このコンテンツに記載している役職などは、インタビューを行った時点(2016年2月)のものです。

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