Vol.11:中堅中小企業が今取り組むべきCRE戦略とは〜不動産の棚卸しから、事業継続、相続・承継問題まで〜税理士法人 平川会計パートナーズ代表社員 税理士 平川 茂氏 経営課題:経営戦略、企業不動産戦略、企業価値向上、事業承継

平川 茂氏

 日本社会で高齢化が進むなか、日本の経済を支える中堅中小企業の経営者の平均年齢も上昇傾向にあり、スムーズな経営者交代が行われていないケースが指摘されている。たとえ事業承継者が見つかったとしても、相続税の支払いなどのために貴重な不動産を売却せざるをえないという話もよく聞く。税理士の平川茂氏(平川会計パートナーズ)に中小企業ならではのCRE戦略を聞いた。

事業承継を前に、不動産ポートフォリオを組み替える

平川氏

 かつて企業不動産は、保有していれば銀行から融資を受けやすいなどの利点があったが、近年はむしろROA(総資産利益率)・ROE(自己資本利益率)向上のために、不動産証券化などの方法でオフバランス化を図るのが一つのトレンドになっている。企業価値向上のために不動産をどう組み替えるかは、中堅中小企業にとっても重要な課題だ。

 オフバランスも含め、不動産の組み替えをしようというとき、一番問題になるのは不動産取引にかかる税金だ。多額の税金におびえるあまり、資産の組み替えに積極的ではない企業もある。そもそも不動産をたくさん持つ企業は長い歴史をもち、しかもメインの不動産が会社創業の土地ということもよくある。それを手放すことには抵抗感があるだろう。

 ただ、こうした企業も相続や事業承継のタイミングでは不動産を処分せざるをえないことが多い。

 「いつか相続のタイミングで資産の処分をしなければならないのだとしたら、その時を待たず、今からでも資産の組み替えを進めたほうが賢明だ」と平川氏は言う。組み替えにあたってまず重要なのは不動産の棚卸し。この不動産を持つことで年間いくらコストがかかるのか。手放したほうがいい不動産はどれで、活用すれば収益を生み出す不動産はどれなのか──それらを区分けする必要がある。

 もちろん不動産の処分以前に重要なのは将来の事業計画だ。平川氏はある地方のガス事業会社の事例を挙げる。事業承継を機にガス事業から総合エネルギー事業への転換を目指したが、その次世代成長戦略の原資となったのが余剰不動産の売却・活用から生み出される収益だった。

 「中小企業にとっての企業価値とは、現時点での事業の価値だけでなく、今後も事業継続していける力があるかどうかという点が重要。CRE戦略もまた、単に不動産だけでなく、人材も含む事業の持続的な価値を総合的に向上させることを目的に行わなければならない」と平川氏は指摘する。

中小企業CRE戦略では、将来の事業継続性が鍵になる

平川氏

 相続・承継戦略でも同様のことがいえる。単に相続税の負担軽減の節税対策に追われるのではなく、承継をスムーズに進めるためには、より積極的に企業価値の向上をめざす必要がある。そのタイミングを逃すと、経営の新陳代謝が進まず、設備も老朽化する。売却のチャンスも遠のき、後は廃業しか道はなくなる。そうなってからでは遅いのだ。

 「実際に会社や土地を売るかどうかはともかく、売れるための戦略を早い段階で積極的に講じないと、企業価値は上がらない。今、収益が好調だからといって安心していると、将来の事業継続性も失われてしまうことになりかねない」と平川氏は警鐘を鳴らす。

 これからの中小企業の税務をめぐっては、平川氏は特例税制の活用をポイントに挙げる。例えば「地方拠点強化税制」。地方に本社を移転すると年間数百万円単位で税金の還付がある。eコマースを事業にしているような企業なら、必ずしも東京に本社を置く必要はなく、節税にもつながるのなら地方移転も検討に値する。

 「中小企業がピンポイント的に活用できる特例税制が増えている。本社移転のような不動産に関わるものも多い。これらを事業計画に組み込むことで、節税と不動産活用を同時に進めることができる。私たち税理士も、特例税制を活用することで、かつてのような単純な節税指南ではなく、事業計画と密接にリンクした形で、より合理的な提案ができるようになる」と平川氏は述べている。

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平川 茂 (ひらかわ・しげる)

税理士法人 平川会計パートナーズ 代表社員 税理士
公認会計士山田淳一郎事務所(現:税理士法人山田&パートナーズ)、株式会社東京ファイナンシャルプランナーズ(現:山田コンサルティンググループ)代表取締役を経て、平成4年、株式会社サテライト・コンサルティング・パートナーズを設立。現在、税理士法人平川会計パートナーズ代表社員、税理士、株式会社サテライト・コンサルティング・パートナーズ代表取締役。中央大学大学院商学研究科兼任講師、中央大学商学部会計学科兼任講師。

平川氏

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 中小企業とりわけ親族経営の企業における相続問題では、事業を親族以外の他者に売却し、経営者一族は経営の一線から退くという選択肢も現実的に考えなければならない。積極的な意味での「廃業戦略」だ。ただそれでも子供に何らかの形で持続性のある資産を残したいという希望もあるだろう。「その場合は、不動産と事業を分け、事業は他社に譲渡する一方、不動産については定期借地または定期借家権を設定して賃貸に回す。不動産管理会社を設立してその経営を子供たちに継がせる、という戦略もありうる」と平川氏はアドバイスする。子供たちは相続税の負担を軽減されるだけでなく、将来にわたって家賃収入が見込めるので生活が安定する。

 大企業の経営ではほとんど見られない、こうした親族間の相続問題。中小企業の経営コンサルティングというリアルな現場で得られた貴重なノウハウ。その一端を知ることができた。

(本コンテンツは三菱地所リアルエステートサービスが企画した対談「スペシャリストの智vol.11」を再構成したものです)

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