Vol.10:リノベーションによる耐震、省エネ、環境保全で企業価値の向上〜求められる多様なニーズに対応したオフィスビルのリノベーション〜 三菱地所設計 執行役員 リノベーション設計部長 河向 昭氏 経営課題:経営戦略、ESG、不動産有効活用、ワークプレイス

河向 昭氏

 耐震性能の不足や経年劣化は、企業不動産の価値を毀損する最も重要な要因だ。保有ビルを改修することで、不動産価値と稼働率の向上を目指すことが欠かせない。ビルの修繕・改修を前提とした調査・設計監理を担う三菱地所設計リノベーション設計部の河向昭部長に、最近のオフィスビル・リノベーションの動向や、ビルの改修によって企業不動産、ひいては企業価値がどのように向上するのか聞いた。

中長期修繕計画の策定が、ビルの性能向上、長寿命化の鍵になる

河向氏

 劣化した設備を更新しビルの耐震性能を高める、あるいは省エネの徹底、環境認証の取得などを通して企業不動産の価値を維持・向上させるのがリノベーションだ。その必要性を感じながらも、どのぐらい費用がかかるのか、投資対効果はどうなのかと悩むビルオーナーは少なくない。

 それに応え、耐震診断・建物診断などの調査から改修工事の設計監理、省エネ計画策定や建物調査報告の作成までをサポートするのが三菱地所設計リノベーション設計部だ。リノベーションに特化した取り組みは業界に先駆け、すでに20年以上になる。「リノベーション計画のなかでも中軸になるのが、今後10年、20年にわたってどのぐらいの投資をすれば建物が維持できるのか、その概算見積もりと工事着手の優先順位を示す中長期修繕計画です」と河向部長は指摘する。綿密な中長期計画があれば、各年の修繕費用を平準化することも可能になるし、工事業者への計画発注を通して全体の修繕コストを抑えることもできるようになる。

 同社が最近手がけたリノベーション事例に、横浜新都市ビルがある。築30年経つ施設を3年かけて順に修繕を進めてきた。冷暖房の熱源機器構成をガス主体から電気主体に変えることで省エネ効果を高めることができ、ランニングコストは約30%削減されたという。

 「以前はこのような省エネ対策強化に主眼が置かれていたが、東日本大震災以降は長周期地震動を含む耐震や耐水、非常用自家発電装置など、BCP(事業継続計画)対策が喫緊の課題となっています。一方、省エネ対策では投資家の関心に応えるためGRESB(グローバル不動産サステナビリティ・ベンチマーク)や、国交省のBELS(建築物省エネルギー性能表示制度)など環境認証基準を取得する動きが強まってます」と、ニーズの変化をたどる。

立地やテナントのニーズによって、リノベーション手法の多様化が進む

河向氏

 「他にも、以前は設備改修をメインに実施しておけばよかったが、立地やテナントのニーズによってはビルの外装デザインの手直し、スケルトン渡しで内装はテナントの自由意志に任せるなど、リノベーション手法のバリエーションが増えています」。こうした市場の変化を敏感にキャッチしながらリノベーション計画を立てることが、不動産価値を高める上では重要なポイントになるのだ。

 既存ストックの活用や災害に強い建物の整備は国家的課題でもあるが、現状では必ずしも法律がそれに追いついていない。建設当初は適法に建てられた建築物がその後の法改正などにより、現行規定に適合しなくなって“既存不適格”とされる建物も多い。

 「このままでは古いビルの適切なリノベーションが進みません。築年数が経過したビルの再生は街づくりの一環でもあります。現状に対応した早急な改善が求められているのです」と、河向氏は要望している。

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河向 昭 (かわむかい・あきら)

三菱地所設計 執行役員 リノベーション設計部長
東北大学機械工学部卒業。1987年三菱地所入社。建築設備の設計業務に従事。1999年より三菱地所リニューアル建築部所属。建物のリニューアル設計、建物調査・長中期修繕計画立案業務を経て、2014年より現職。リノベーション設計・建物調査・修繕計画立案・修繕工事費の見積調査などの業務実績は1,000件を超える。

河向氏

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 建物にはライフサイクルがある。その機能を維持したままできるだけ長く使うためには、新築当初から将来のリノベーションを見越した中長期修繕計画を整備することが重要だ。それも、単に建物の長寿命化だけでなく、環境性能や使い勝手、美観の向上によってテナントや投資家への魅力を増大させるという視点も重要だ。結果的に不動産事業の長期にわたる収益につながり、CRE(企業不動産)の有効活用を通した企業価値の向上にもつながっていく。

 もちろん建物診断の結果、リノベーションをしたほうがいいのか、それともビルを建て替えたほうがいいのか判断に悩む物件も存在する。階高が低くて使い勝手が悪いビルは改修よりむしろ、建て替えを選択したほうが合理的という場合もある。ビルオーナーの意志決定をサポートするためにも、不動産関連事業者にはさまざまな選択肢と最適のソリューションを提供することが強く求められている。

(本コンテンツは三菱地所リアルエステートサービスが企画した対談「スペシャリストの智vol.10」を再構成したものです)

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