いつでもどこでも消費者と企業が情報でつながる現代。今この瞬間にも膨大な情報量が世界中で拡散している。社会や市場が目まぐるしく変化するなかで、企業はどのようにして価値を生み出すべきか。東京・イイノホールで開催された日経産業新聞フォーラム2016では、各界から5人の識者が登壇し、この問題を徹底して議論した。
セールスフォース・ドットコムは1999年にサンフランシスコで創業した。当時はまだ企業向けソフトウェアは利用者が自前で購入し、自社用にカスタマイズし、保守・運用にもお金がかかるのが当たり前の時代。しかし、セールスフォース・ドットコムは、ソフトウェアをもっと簡単に使えないかと考えた。水道が、蛇口をひねればすぐ使えるように、使った分だけ代価を支払う。システムについて「所有から利用へ」というクラウド型のビジネスモデルを提案したのだ。さらに使う人のデバイスを問わない。
当初はセキュリティーを懸念する顧客もいたが、セールスフォース・ドットコムは自社のセキュリティー専門チームがそれに応えてきた。例えば、高額なダイヤモンドを購入したとき、自宅に金庫を備え付けるよりも、当社が提供する頑丈な貸金庫を利用した方が安全だということを訴えてきた。そうした努力が実っていまや全世界に15万社を超える顧客を抱えるようになった。
いまやあらゆるモノがインターネットにつながる時代だ。ある統計によれば、センサーや通信を介してインターネットにつながるデバイスは世界に750億個もあるといわれる。それに伴って顧客の行動も変化してきた。
新しい部屋を賃借したいとき、顧客は町の不動産会社に出向く前に、スマートフォンで空室を検索する。車を買うときも同様だ。顧客は住宅や自動車について、契約前にすでに多くの情報を持っている。
こうした顧客の変化に応じて、販売店のサービスや工場の生産の仕組みも変わらなければならない。企業は豊富な顧客接点から得られるデータを生かしながら、そこに新しい事実を発見し、未来を予測し、顧客に適切なナビゲーションを行うべきだ。
そのためには、機械学習、ディープラーニング、予測分析、自然言語処理といった人工知能(AI)の技術も必要だ。しかし、それ以上に重要なのはデータを分析して終わりではなく、それを次のアクションやビジネスモデルの変革につなげることだ。
セールスフォース・ドットコムは最近、我々のCRMアプリケーションと接続して、誰もが使えるAIの技術基盤「アインシュタイン」を発表した。例えば、パフォーマンスの高い営業とそうでない営業の違いをデータで分析し、受注成功モデルをベースに次の商談の進め方をAIが推奨してくれる。技術に任せるところは技術に任せ、人間はより顧客の近くで対応する仕事ができるようになる。
顧客が企業よりもアドバンテージをもつ時代。それに対応するためにどのように事業変革を進め、企業価値を高めるか。セールスフォース・ドットコムは、全世界の事例を通して変革に挑む企業を支援していきたい。
セールスフォース・ドットコム 代表取締役会長兼社長
1981年 日本アイ・ビー・エム入社。ハードウェア、アウトソーシング、テクニカルサービス、ファイナンシャルサービスの各事業の責任者を務め、2002年には取締役に就任。日本アイ・ビー・エムに24年間在籍後、ソフトバンクテレコム(旧:日本テレコム)に入社、副社長兼COOに就任。07年より6年4ヶ月間、日本ヒューレット・パッカード代表取締役社長執行役員として、同社のハードウェア、ソフトウェア、サービスの各事業ならびに全業務を統括。14年4月より、セールスフォース・ドットコムの代表取締役会長兼CEO(最高経営責任者)を務め、16年11月より現職。