職場に業務マニュアルはあっても、仕事の進め方に関するマニュアルはない。仕事を速く進める方法、分かりやすい文章化術などは、どうやって学べばいいのだろう? 本書『仕事の教科書』が役立ちそうだ。すべての仕事に共通する普遍的な要諦が1冊に凝縮されている。全編カラーでイラストが豊富に用いられ、手に取りやすいが内容は実に濃い。
著者の北野唯我氏は、博報堂、ボストンコンサルティンググループを経て就活サイトを運営するワンキャリアに参画し、現在取締役を務める。豊富な経験の中で磨き上げた仕事術を、本書で惜しみなく公開している。
まずは、仕事のスビードアップ術。大切なのは、どれだけ時間がかかるかという「タイム」の視点に加え、いつやるのかという「タイミング」の視点だ。タイムは「自分だけの問題」だが、タイミングは「他者が関わる問題」である。上司やクライアントが期待するタイミングで仕事を進めることが、信頼につながるという。
タイミングを味方につけるには、「3つのすぐ」すなわち「すぐやる」「すぐ出す」「すぐ答える」を実践することだ。当たり前だと思うだろうか? しかし、著者の要求水準は高い。「すぐやる」とは、依頼された日のうちに0.01%でも作業に取り掛かること。「すぐ出す」とは、締め切りより早く提出すること。「すぐ答える」とは、その場で暫定回答をし、期限を設けて正式に回答すること。いずれも徹底するのは容易ではない。
なかでも「すぐやる」は難しいように感じるが、その分、効果も高そうだ。少しでも着手できれば、全体感を把握でき、後の計画が立てやすくなる。
充実した仕事を続けるために、「健康」と「成長」の両立も重要だ。自分の体と心をコントロールするために有用なのが自分の「取扱説明書」の作成である。
まず、身の回りで起きることが自分に与える影響を整理する。縦軸を「ポジティブ/ネガティブ」、横軸を「日常/非日常」として4つのマトリックスに分け、各ゾーンに事象を書き出す。「ポジティブ×非日常」なら、旅行やパーティーなど。「日常×ネガティブ」なら、面倒事や嫌いなことが入る。さらに、各事象についてポジティブを最大化し、ネガティブを最小化するために必要な方法論を書き加える。
「日常×ネガティブ」の一例が「家事」だ。これを最小化するためには、ロボット掃除機や食洗機を買うことだ。自分の体と心がどんな時にどうなるか、言語化して把握することでコントロールし易くなる。
著者は仕事とは「決闘」に近いと語り、時に高度な要求をする。しかしそれは、働く人たちに強くしなやかに「生き抜いてほしい」、厳しさの中にある「喜びを知ってほしい」という愛情からだろう。本書は、新入社員はもちろん中堅や部下を持つ人にも役立つ普遍的な内容だ。実践に取り組むだけでなくチームメンバーと共有すれば、より大きな力になりそうだ。