「メタバース(仮想空間)」や「NFT(非代替性トークン)」という言葉を目にする機会が増えた。「自分には関係ない」と思っている方は、思い出してみていただきたい。今では誰もが恩恵を受けるインターネットも、世に出たばかりの頃はみんな「自分には関係ない」と思っていた。
本書『テクノロジーが予測する未来』は、テクノロジーの進化によって世界がいかに変化するかを予測し、新しい時代への向き合い方を指南する。切り口となるのは「web3」だ。さらにメタバース、NFTなどの普及によって働き方、文化、アイデンティティー、教育、民主主義までが大きく変わるという。
著者の伊藤穰一氏は、元米マサチューセッツ工科大学(MIT)メディアラボ所長で、現在はインターネット関連事業を手掛けるデジタルガレージ取締役、千葉工業大学変革センター長を務める。
これまでインターネットは、ツイッターやフェイスブックなど「プラットフォーム」がユーザーを囲い込んで力を持ってきた。しかし、ブロックチェーンをはじめとする技術によって「分散的=非中央集権的」なweb3のムーブメントが起きつつあり、今後プラットフォームは弱体化すると考えられる。
web3では、既存の通貨の経済圏とは別に「クリプトエコノミー」と呼ばれる新しい経済圏が形成され、仮想通貨やトークンなどの暗号資産が流通している。そこでは、中央集権的な管理者なしに個人や組織などが自律的に動く。例えば、DAO(ダオ=Decentralized Autonomous Organization/分散型自律組織)と呼ばれるコミュニティが、会社組織にとって代わる。DAOはそれぞれ目的や機能を持つが、会社でいう株主・経営者・従業員という区分は存在せず、方針は参加者全員の投票で決まる。ブロックチェーンによる透明性確保やガバナンスの平等性などからして、DAOでは上場企業以上のコンプライアンスが構築される兆しもあるという。
web3の分散化のムーブメントは、世界をどう変えるのか。例えば、ガバナンスがトップダウン型からボトムアップ型になることで解決できることがあるかもしれない。環境問題でいえば、国際社会は利害や利権が絡んで対策が進まず、なかなか成果が見えてこない。その点、web3上ではさまざまなアイデアでCO2削減などに取り組むDAOがすでにいくつも動いており、着実に成果を重ねているという。
ただし著者は、テクノロジーの負の側面にも言及する。トークンが流通する経済圏は国家にとってリスクになるし、法整備も十分でない。詐欺師もいれば、現時点では自己責任の比重が大きいとも指摘する。
しかし、リスクを踏まえてもなお、本書は新しいテクノロジーへの期待感とワクワク感にあふれている。読み進むほど、来たる世界をのぞいてみたくてたまらなくなる。幸い、トークンの買い方やDAOへの参加の仕方など、初心者向けの解説もある。本書を片手に、web3の世界へ一歩踏み出してみてはいかがだろうか。