牛乳、しいたけ、大根、わかめ――、これらの共通点は何かおわかりだろうか。実は本格焼酎の原料として認められている食材である。穀類やイモ類だけでなく、実に様々な原料があることに驚く。焼酎は、清酒造りには不向きな気候風土であっても、おいしい酒を造ろうと試行錯誤してきた、その土地の人々の知恵や工夫、技術によって生み出されたちょっと特殊な酒である。
本書『焼酎の科学 発酵、蒸留に秘められた日本人の知恵と技』は、ユニークな背景をもつ焼酎をひもときながら、その魅力を科学的に考察する一冊。焼酎の「風味」の謎や、健康との関係、おいしい飲み方などを解説している。
著者の鮫島吉廣氏は、鹿児島大学農学部客員教授。髙峯和則氏は、同大学農学部附属焼酎・発酵学教育研究センター教授を務める。
酒には、ビールやワイン、清酒をはじめとする醸造酒と、ウイスキーやブランデー、焼酎といった蒸留酒がある。アルコール発酵させた液体(モロミ)を搾ったり、ろ過させたりして造る醸造酒に対して、蒸留釜の中にモロミを入れ、沸騰させることで立ち昇った湯気を液化したものが蒸留酒。いわば、「湯気の集まり」と言える。
本書によればその成分は、25%がエタノールで約74.8%が水。残りのわずか0.2%程度に香りにまつわる成分が含まれており、焼酎の個性に影響を与えているのだという。風味を左右するのは、原料、発酵や蒸留の条件、麴菌、酵母の種類などだ。
愛好者が多い芋焼酎であるが、芋の品種だけでなく、使う部位によっても香りが変化することが研究結果から明らかになっている。例えば、「淡麗」「スッキリ」といった風味は、芋の中心部を使うことで醸し出せる。逆に表皮部分のみで製造すると、「華やか」「柑橘」といった特徴が出るのだそう。
本書をめくっているだけで、たまらず焼酎をたしなみたくなってしまうが、そんな気分をさらに後押しするような研究報告も紹介されている。
鹿児島大学大学院医歯学総合研究科の研究グループは、夕食時にビール、清酒、芋焼酎、水を飲みながら食事をとったときの血糖値とインスリンの濃度を調査。結果は、もっとも血糖値が上がったのはビールで、清酒と焼酎は、水よりも血糖値の上昇が緩やかであった。特に焼酎については、血糖値はほとんど上昇せず、インスリンの濃度ももっとも低かった。
別の研究で、米麴の成分によって細胞内への糖の取り込みが促進されるとの報告があることから、焼酎に含まれる麴成分が血糖値の上昇を抑えるのではないかと著者らは考察する。微生物や原料に由来する多彩な成分を含む焼酎には、まだ知られていない機能性があるのだという。
焼酎は、清酒を造れなかった暖地で暮らす人々の知恵と技が詰まっていると著者らは述べる。主食の米を使わずに酒を造れないか、痩せた土地でも収穫できる芋を原料にできないかと、先人たちは試行錯誤してきたのであろう。