交通ルールから国際法まで、社会は多くのルールであふれている。ふだんはルールを守っている人でも、ときには煩わしいこともあるだろう。例えば、新規事業創出の際に社内決裁ルールが障壁となったり、厳し過ぎる法規制によってサービスの普及が妨げられたり。
そんなルールを変えたいならば、まずはルールについて知り、ルールの変え方を理解する必要がありそうだ。本書『ルールの世界史』は、ビジネスやスポーツなどさまざまな分野における世界各国のルールの歴史をたどりながら、ルールの目的、ルールメイキングのために用いられたテクニックなどを紹介している。
著者の伊藤毅氏は弁護士で、フレックスコンサルティング代表取締役。企業の戦略立案支援や国の政策立案支援などにも従事する。
ビジネスにおけるルールの影響といえば、直近、排ガス規制への対応を迫られる自動車産業がまず思い浮かぶ。自動車をめぐるルールメイキングは、過去、その普及に大きな影響を与えてきたようだ。
1830年代のイギリスでは、スタートしたばかりの蒸気自動車バス事業が、競合する馬車事業者から有料道路の料金などをめぐって妨害を受け、頓挫。その後も、妨害は自動車に対する規制強化を後押しし、1865年、自動車を運行する際は赤い旗を掲げた人に前を歩かせないといけないとする、とんでもない規制が設けられた。これにより、同国の自動車産業は停滞する。
一方、フランスでは事情が違った。19世紀後半のパリの大改造により、広くて真っすぐなアスファルト舗装の街路が整備された。自動車に最適なインフラが先に整った結果、イギリスのような抵抗はほとんどなく、世界の自動車産業トップに躍り出る。
話はこれで終わらない。その後、アメリカが、アメリカン・システムと呼ばれる生産工程のルール化に成功。自動車の大量生産を実現し、トップの座を奪取した。各国の自動車産業の盛衰に、ルールの持つ力が感じられないだろうか。
ルールメイキングにおける国や地域の違いは、スポーツや「遊び」を見るとわかりやすい。ヨーロッパでは、サッカーをはじめ得点を競い合うなど、決着をつける「競技型」のルールが多い。一方、アジアの国々は、蹴鞠(けまり)や大タコ揚げなどみんなで一つのことを達成する「コラボレーション型」のルールが多いと、著者は分析する。
長い目で見れば、ルールはいずれ使われなくなり、機能停止するケースが多い。ただし、目的や環境の変化に合わせ、ルールが生まれ変わることもある。例えば現代では、インターネットの普及により、多くのルールが時代遅れになりつつある。そんなルールは、似たような基本構造を持ちつつも、バージョンアップした内容に変わっていくと著者は見る。リモートワーク導入時の就業規則の変更などは、それに当てはまるだろう。本書から、未来を動かす新しいルールづくりのヒントを得てほしい。