ここ数年で、サステナビリティ(持続可能性)という言葉はだいぶ身近になった。ESG(環境・社会・企業統治)にSDGs(持続可能な開発目標)と、持続可能な社会の実現のために、世界の国々と企業が動き出している。その一方で、個人の生活においては、その影響をさほど感じないというのが実態ではないだろうか。
本書『サステナブル資本主義』は、私たち一人ひとりが消費行動を変えることで、持続可能な未来を創造しようと提言するものである。皆が「投資家マインドを持った考える消費者」となり、既存の資本主義をアップデートできるかが肝となる。
著者の村上誠典氏は、宇宙科学研究所(現JAXA)を経て、ゴールドマン・サックス証券に入社。現在はシニフィアン株式会社共同代表を務め、スタートアップ投資や成長企業向けのアドバイザリーなどを行っている。
そもそも、現在の経済システムは何が問題なのか。経済格差など様々あるが、その一つは大量生産、大量消費の事業モデルを生み出したことである。企業は安い商品、新しい商品をどんどん売り、消費者も短いスパンで次々と買い替えを行う。そうして企業は利益を得てきた。
一見、何の問題もないように思えるが、実は大きな社会的コストを生んでいる。経済活動を高速で回すため、唯一無二であるはずの地球の資源が二束三文で買いたたかれているのだ。
そこで著者が提案するのが、サステナブル資本主義への変革である。この新しい資本主義では、企業や投資家ではなく、消費者に重きを置く。消費者人口のうち5%が行動を変えれば、資源を安く買い上げるほど利益が出るという経済の仕組みを改められると主張する。
例えば、不要になった物などを個人間で売買できるフリマアプリを提供するメルカリ。ごく少数のユーザーから始まった同社のサービスだが、今では年間数千億円もの取引が行われている。ユーザーの声を軽視せず、サービスをこつこつ改善して人気を得た。少数の消費行動が企業価値を変え、また誰もが手軽に個人売買を行う時代をも築き上げた例である。
同社の公式ホームページには「限りある資源を循環させ、より豊かな社会をつくりたい」とある。モノを大切にするという観点からメルカリを利用する人が増えれば、本書で論じられているように消費行動が持続可能な未来につながるかもしれない。
著者によれば、サステナブル資本主義を実現させるためには、社会的に価値あるサービスを企業側が提供するだけでなく、消費者側もその価値を正しく判断できる力をつける必要がある。単に安価だからなどの理由でなく、投資家のように、長い目でサービスや製品の価値を考えるのだ。
皆がサステナビリティを意識しながら消費するようになれば、未来に優しくないビジネスは淘汰されていく。「個の力の大きさを感じてもらいたい」と著者はいう。社会を動かす5%の消費者の一人に、なってみるのはいかがだろうか。