かねて、オリンピック後の国内景気を悲観する見方はあった。加えて襲ったのが新型コロナウイルス禍だ。個人消費はいまだ盛り上がりに欠け、第6波への懸念も残る。当面、経済は「低空飛行が続く」という見方が一般的ではないだろうか。
こうした悲観論をひっくり返し、「日本の未来は明るい」と力説するのが、本書『2027 日本を変えるすごい会社 リニア開通――そして、その先へ』だ。2027年のリニア中央新幹線開通を目指し、さらに開通を起点として、日本経済は活性化すると説く。そのうえで、「ウイルスと闘う」「水ビジネス」「防災・復旧」「少子高齢化・人口減少に対応」「グローバルニッチトップ」という5つの切り口から、国内の有名・無名優良企業200社を怒とうの如く列挙し、紹介している。
著者の田宮寛之氏は、経済ジャーナリスト。東洋経済新報社編集局編集委員で、近年は、学生の就職活動に関する執筆や講演も多い。本書は就活の上でも、気になる業界や企業を見つけるために必読だ。
リニア中央新幹線が開通すれば、東京―名古屋間は40分でつながる。すると、人口約5500万人、経済規模約270兆円の「リニア新都市圏」が誕生。長野や岐阜などの中間駅近辺から首都圏への通勤が可能になるほか、羽田、成田に加えて中部国際空港の利便性が高まる。東京駅・名古屋駅周辺の再開発も進み、経済活性化は日本全体に波及する。そして、ヒト・モノ・カネを動かし投資を呼び込み、経済活動を支える優良企業が、日本にはたくさんあるという。
ウイルスと闘う企業群では、ウイルス対策の関連製品を生産するデンカが筆頭にあがる。2020年2月に新型コロナの抗原検査キット開発をスタートし、約半年という異例の早さで承認にこぎつけた。コロナとインフルエンザを同時に判定できるキットも発売している。また、オンライン診療システムを運営するメドレー、電気炉を用いて医療廃棄物処理を手掛ける共英製鋼、東京製鐵なども面白い。コロナ収束後も、未知の感染症の危険はつねにあり、予防や治療などに貢献する企業は成長が見込めるという。
少子高齢化・人口減少に対応する企業にも、大きな可能性がある。例えば、弁当や総菜の容器の製造・販売最大手のエフピコは、マイナス40℃からプラス110℃までの温度に耐え、油や酸にも強く、断熱性も保温効果も高いマルチFP容器が武器だ。高齢者や単身世帯の増加は、コンビニ食の需要を伸ばす。容器の需要増は必至である。
また、生産年齢人口の減少をチャンスにする企業もある。物流施設や工場で使用される垂直搬送機器やコンベアなどを手掛けるホクショー、作業支援ロボットの開発を推進するベンチャー企業ZMPなどが注目だ。
「この業界は伸びそう」「そんなチャンスがあったとは」と感じるたびに、「日本経済は大丈夫」という確信が増す。未来は決して暗くない。本書から、それを実感してほしい。